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『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

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『電撃・ドラゴン刑事(デカ)』 ~ C級映画がやってきた! ~

リアクション

              
〜 episode5 ポロリもあるよ → ポロリしかないよ! 〜
 
「ここがてれびの撮影現場ですか。初めて来ました……」
 今回の撮影の噂を聞きつけたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が葦原明倫館からこの空京へやってきたのは、実のところ撮影一日目の夕刻の頃であった。
 興味津々なものの羞恥心の塊なフレンディスは、このジャバラ映像の見学に来たかったのだが、なかなかその勇気が出なかったのだ。
 天然鈍感世間知らずと三拍子そろった彼女は、今回は同行しない大切な存在のパートナーから「芸能界は恐ろしい所」とか「騙されて売り飛ばさせるかもしれない」などと言われ、本気で信じて恐れていたのだ。
「そんなわけないであろう。冗談半分で脅かすのもいい加減にしろ」と、その黒髪の男に突っ込んでくれたのが、フレンディスの親友ともいえるパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)だった。そんなレティシアとともに恐る恐るやってきたときには、すでに配役は決まっていてフレンディスの活躍する余地はなかった。
「むしろ大歓迎です。出演なんて、そんなとんでもない……」
 目立つのが苦手な彼女は、撮影光景をひっそりと見学できるだけで大満足であった。こういう世界もあるのだ、と社会見学のいい題材であった。が……。
「ふむ、残念であるな。今日の撮影は、終わりらしい……」
 三反田監督と出演の交渉をしていたレティシアが、少々残念そうに戻ってくる。今日はもう休憩とばかりに、やってきていた見学者も俳優たちもみな思い思いに引き上げてきていた。
「今日は、この町の宿に逗留して、明日からもっと本格的に行われる撮影をゆっくりと見ていこう。我も戦うつもりであるしな」
 レティシアが言う。
 この映画の中ではゾンビに襲われる町、『ドラクーン・シティ』として登場するこの町は、脚本とは裏腹にのどかで静かな場所で、空京からも比較的近く、のんびりしに来るのにはちょうどいい雰囲気だった。
 ゾンビ役のモブとして登場していたパラ実生のモヒカンたちですら、グロいメイクを落とせば撮影仲間であり和気藹々だ。撮影を楽しんでいるらしい。
「そうですね。せっかくですし泊まっていきましょう」
 フレンディスは、他の人たちも泊まる大きな宿屋に落ち着くことにした。なんでも、温泉もあるし料理もうまいらしい。これはこれで楽しみである。
「あ、こんにちわ。撮影見学の方ね?」
 フレンディスの姿を見つけて声をかけてきたのは、今日の撮影では全く出番のなかった雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)だった。通称、カラミティサンダース、災厄を呼ぶ少女。なんでも、ヒロインの役を一部やることになっているらしい。
 この時点で……フレンディスは全力で逃げているべきだった。雅羅の近くにいると災厄に巻き込まれやすい。そんな危険な少女と一緒にいるべきではなかったのだ。が、天然純粋で人のいいフレンディスは、悪い予感に気づかなかった。はにかみながらも、目の前の少女に丁寧に挨拶を返す。
「私……、右も左もわからないですけどよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。私も緊張でドキドキよ。よかったわ、声をかけた人が優しそうで」
 雅羅もほっとした様子で微笑む。いじめられているわけではないが、災厄体質のためにあまり人が寄ってこないのかもしれない。今は一人きりだった。
 フレンディスは遠慮がちながらもみんなと一緒に夕飯を食べて、お喋りして程なく打ち解けてくる。
「ご飯も食べたし、みんなで温泉に行きましょう」
 雅羅が言い出す。
 この宿は、男性フロアと女性フロアが完全に隔離されていて、安心安全にすごせるだろう。のぞきなどの禁則行為はないはずだし、今回はそんな話ではないはずである。実際に、静かなものだった。少女たちは、お風呂を楽しむことにする。
 フレンディスたちが温泉に行くと、先客がいた。
 明日の撮影のためにとしっかりと身を清めていたのは、余裕を持ってシーンに挑みたいと考えて早めに来ていた杜守 柚(ともり・ゆず)だった。彼女は、意中の高円寺 海(こうえんじ・かい)がドラゴン役として参加すると聞いて、一緒に出演すべくやってきていたのだ。もちろん、役柄はドラゴンの幼馴染一択で、海と濃密な時間を過ごせるのを期待していた。お色気シーンもあるかもしれないということで、緊張もひとしおだ。
「撮影、最初から大変でしたね、どたばたで」
 海たちとともに、朝から撮影現場を見学していた柚は、予想通りのグダグダ感に苦笑気味だった。
「こんなので撮影間に合うのかしら? 演技の練習もできていないんだけど」
 雅羅は言いながらお湯に入ってくる。もちろん、フレンディスたちもだ。
 しばし、のんびりとリラックスしながらゆったりとお湯につかりわいわいと談笑。その時だった。
「な、何者ですか!?」
 真っ先に気づいて反射的に身構えたのは、殺気感知のスキルを持っていたフレンディスだった。敵の気配を察知し、素っ裸なのも忘れて湯船から飛び出そうとする。
 同時に、辺りに爆風が吹き荒れ、空気を割るような轟音が響きわたった。どこから発せられたのかとっさには判断のつき難い強烈な衝撃波が、平穏な温泉の壁をやすやすとなぎ倒し、湯面を大きく波立たせる。
「きゃあああっっ!? なによこれ……!」
 完全に不意をつかれた格好の雅羅は、隠すところを隠すのも忘れて目を丸くする。その扇情的なシーンを何人の視聴者がお宝にするだろうか。彼女の災難体質、いい仕事をしやがる。もちろん、湯けむりが大切な部分をきわどく隠してくれているので、映像的にも問題はない。いかに合法的にお色気シーンを撮るか……エロ画像を愛して半世紀の三反田監督(55歳)の撮影技術は、こういう場合のみ信用できるのだった。
「主演ども、殺おおおおおっすっっ!」
 ドオオオンッという着地音が床を震わせ、上空からすごい勢いで人影が落下してくるのが見えた。
パワードスーツを身に着けて湯煙の奥から姿を現したのは、少し離れたところで撮影を続けていたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)であった。主演抹殺を目論む女殺し屋役としてパワードスーツで参戦していた彼女は、猛攻撃を回避するために身をかわすドラゴンたちを追って、いい具合にここまでやってきたのだ。
そして、その当のドラゴンたちは……。
「くっ……、撮影中断と聞いて油断していたぜ。あの監督……、迫真の演技を撮るためとか言いながら、ドッキリばりの不意打ちを食らわせてくれやがって……」
 温泉の反対側から、疲れた表情の高円寺海が姿を現す。彼は、ドラゴン役としてスタンバっていたのだが、さすがにこんな夜にまで撮影はないだろうと、部屋でくつろいでいたのだ。邪悪な陰謀により示し合わせた攻撃に、迎撃態勢もままならぬまま逃げてきたというわけだ。いやむしろ、誘導されてきたのかもしれない。もちろん、こちらはドラゴン刑事の衣装を身にまとっている。残念ながら、海のポロリはない。
「えっ、え……? 何が起こっているのですか……?」
 突然現れた闖入者と突飛もないシチュエーションに、フレンディスは唖然と硬直する。
「こんなことだろうと思った。まだ撮影は続いているのだよ。……おや、こんなところに偶然大剣が」
 レティシアは何食わぬ顔で、予め持ち込んでいた武器を湯船の中から取り出す。
「あのエロ監督め。温泉のお色気シーンは自然体のほうがいいと思ったのか、敢えて我々に撮影していることを知らせなかったな。今日の撮影は終わったなどとフカシてくれおって、どこかで隠れて撮っているのは目に見えておるわ」
「要するに、これもシーンの一部だということですか……?」
 自分で言ってようやく気付いたフレンディスは、一瞬で赤面する。これはひどい騙し討ちだった。慌てて逃げ出そうとするも、ディミーアの砲弾が足元の床を砕いた。
「こんな夜まで働かせるなんて、ムカついたからまとめて死んでもらう」
 そう宣言するディミーアに、海はビシリと指をさす。
「そうはいかん。このドラゴンが現れたからには、もう悪は栄えない」
「いやいやいや……! そこ格好をつけるところじゃないでしょ! 悪は女子風呂覗いている僕たちでしょ!」
 一気にまくし立てたのは、海と行動を共にしていた杜守 三月(ともり・みつき)だった。成り行きとはいえ、ひどい光景に巻き込まれてしまった三月は、目のやり場に困りながらも海を連れて帰ろうとする。
「そうだ……無事か、柚!?」
 思いついたようにいう三月に、湯船につかったままの柚は真っ赤になってぷうっと膨れる。
「もう最低です。ムードもなにもあったものじゃないじゃないですか!」
「許してくれ、ユズ。言い訳はしない。だが、お前は……俺が守る!」
 真剣な口調で言う海。
「え、ええっっ!? ……は、はい……!」
 目を丸くしながらも、想像以上の熱意のこもったセリフに、柚は上手く返事ができないほど緊張に身を固くする。
「……お返しと言ってはなんだが、今度一度だけ男湯覗かせてやるから」
「……もう本当に黙れよ、海。お前、この間から色々とダメすぎるだろう」
 交換条件を出して和解を持ちかける海に、三月はこめかみに指を当てため息をつく。
「いずれにしろ……どちらも成敗するまでだ」
 レティシアは、大剣を構え立ち上がろうとする。もちろん遮蔽物は何もない。
 ところが、敵はそこまで悠長に待ってくれるつもりはないようだった。
 空中から、対イコン用のロケットランチャーをぶっ放してくる女性がいた。ディミーアの姉にして、同じく女殺し屋役のセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)だった。研究施設でドラゴンを殺すべく待ち構えていたのだが、いつまでたってもやってこないので痺れを切らして襲いに来たのだ。
「なんか関係ない女もいるけど、一蓮托生だよ。恨むならドラゴンを恨むがいいさねぇ……」
 絨毯爆撃さながらに、セラフは所構わずロケットランチャーを撃ちまくる。それは、この温泉だけといわず、周囲も巻き込み粉砕する。何ということだろう! 彼女の悪逆非道な攻撃によって、すぐ外の更衣室まで破壊されてしまったらしい。着替え衣装が無事なのか大変心配なところであった。
「フレンディス、下がっておれ」
 レティシアは親友をかばうように前に立ちはだかると、セラフとディミーアに臆することなく対峙する。
「ふむ、現れおったか……そこのお主、敵だな? 娘を攫っても我は興味ない故一向に構わぬが、その前に我と一戦交えようぞ」
 撮影よりも戦闘をしにきたレティシアにとって、この状況はむしろ本分であった。せいぜい派手に盛り上げてやるとしよう。
 大剣を構えたレティシアはそのままセラフとディミーアに戦いを挑む。相手は空中だが問題はあまりない。反動をつけて飛び上がる。
 それはすごい体勢とアングルで、今すぐ放送が打ち切られそうな露出度だが、このC級映画と三反田監督に抜かりはない。湯けむりや大剣の影が肝心な部分をきわどく隠す。
「め、めちゃくちゃだ……。ユズ、今すぐ逃げよう」
 ボコボコと破壊兵器を放ってくる女殺し屋の猛攻にたまりかねたとばかりに、三月は柚の手を引きその場から退避しようとする。が……。
「そうはさせないんだもんね! プッち殺ぉぉぉッス!」
 上空にもう一人の女殺し屋がいた。セラフとディミーアの妹のエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)であった。嗜虐心を刺激するような表情が見え隠れする少女であるが、今は勢いに押されてノリノリである。彼女もパワードスーツを装着していて、ロケットランチャーを無差別に撃ちまくってきた。
「向こうも契約者だし遠慮なしでいいよね。ファイヤーッ!」
「きゃああああああっっ!」
 演技ではない本気攻撃に柚は悲鳴を上げる。湯船から放り出された彼女はなんとかタオルで前は隠しているものの、こんな格好では反撃もままならない。そんな妹のような存在を守るべく、三月は少女の裸体を抱きしめ地面に伏せる。
「……三月」
 女殺し屋たちの攻撃をしのいでいた海は、その光景にちらりと目をやり異様に静かな口調で言う。覚悟を決めた表情で、二人をかばうように前に出た。
「お前、ユズを連れて逃げろ。俺は……やれるだけやってみる、あいつらと」
「ばかやろう! 何を一人で勝手に決めているんだ! お前がユズを守ってやるんじゃなかったのか!?」
 起き上った三月は、海の胸ぐらをつかむ。そんな三月を海は静かに押しとどめて、同じくゆっくりと起き上る柚に向き直った。
「ユズ、逃げれるな? 回れ右したら、三月と一緒に全速力でこの場を走り去るんだ。外に出れば、誰かが助けてくれるだろう。……決して後ろを振り返るんじゃないぞ」
「そんなこと、できるわけないじゃないですか!」
 柚は叫ぶ。顔を真っ赤にしながらも、海の真剣な表情と状況に本当に半泣きになっていた。
「私、こんなところで海くんと別れ別れになりたくないですっ!」
「聞き分けのないことを言わないでくれ、ユズ……」
 海は、本当に自然に、優しくいたわるように、柚をぎゅっと抱きしめる。
「……!?」
 柚は、息が止まるかと思った。いや、確実に数秒は止まった。はらり、とタオルがはだけ落ちる。
「ここで何も出来なかったら、大切な女の子一人守れなかったら、俺は生きている価値すらない。……わかってくれ、ユズ。俺は……俺自身を失っても、お前を失いたくない」
「……」
 柚は声すら出なかった。それくらい、海のセリフは熱を帯びている。
 彼は抱擁を解くと、柚の両肩に手を置き彼女の瞳を覗き込む。全裸の少女と向かい合っているのに、一切の照れや下心はなかった。
「行ってくれ、ユズ……。三月を……大切にな……」
 最後に……海は優しげな微笑を浮かべた。
 抗いがたい彼の声色に、柚はぎゅっと目を閉じる。そして、海の瞳を正面から見つめ返すと、意を決して頷いた。
「必ず、戻ってくるから……」
 落ちたタオルを拾い上げると、柚は女殺し屋たちの攻撃に防御していた三月の手を引いて、走り去る。一度だけ振り返った。
「味方を連れて、必ず戻ってくるから、それまで死なないでドラゴン! ……いいえ、海くん……私の……な人……」
 海は、二人を静かに見送ると、いまだ暴れ続けている女殺し屋たちに向き直る。
「さて、遠慮なく戦闘再開だ!」
 言葉が終るより先に、海は猛攻を仕掛けていた。
 レティシアだけでなく、いつの間にかフレンディスも逃げずに戦闘に参加していた。天然とは恐ろしいものである。こんなものだと一旦思いこんでしさえすれば、羞恥心もためらいもない。ここは裸で戦う場面なのだ、とすっかり慣れてしまうと、後は忍者として迫りくる敵を撃退するのみである。
「よくもやってくれたわねぇ……もう容赦しないわよぉ!」
 最初こそ無差別攻撃に押し気味だったセラフたちだが、腹をくくったレティシアたちの反撃に少しずつ勢いを失っていく。
「まだよ! 分解するまで撃ちこむ!」
 ディミーアは、態勢を立て直し、執拗に攻撃を繰り返してくる。一体、何が彼女たちをここまで駆り立てるのだろうか。
「よっし。お姉ちゃん、三次元攻撃でいこ! ト△イアングルアタックだよ!」
 エクスの提案に、三人娘たちは海たちを包囲し連携攻撃を放った。
 まともにくらってしまい、ぐはああああっっ! と吹き飛ぶ海。
「おっとそこまでよ、ドラゴンちゃん♪」
 ランチャーを構え妖艶に微笑むセラフ。
「キャスト3段目までぶっとばして、タイトルバックを乗っ取ってくれるわ!」
「くっ……!」
 絶体絶命の窮地に立たされるドラゴン。そこへ……。
「そこまでなのは、そっちですっ!」
 しっかりと衣装を身に付けた柚が三月とともに戻ってくる。冷たい空気で頭を冷やし、すっかり気分を落ち着けた柚は、今度こそはこちらがドラゴンを助ける番だと割って入る。
「また出てきたか! くたばれぇーッ!」
 怒りの攻撃を仕掛けるディミーア。
 と……。
「まあ、そろそろ潮時でしょうし、行きましょうか。正直、三人の単調な暴れるだけのシーンにも飽きてきたところですし……」
 現場の片隅で、小さく呟く声が聞こえた。 
 撮影の手伝いをしていた湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は、監督と撮影担当に目くばせする。予め知らせてあったので、監督も頷いた。隠し撮りをしていたのだが、もうその意味はない。堂々とカメラごと前に進み出てくる。
三人娘のマスターである凶司は、パワードスーツにこっそり仕掛けてあった細工を発動させることにしたのだ。今回の撮影に際し、脅されパワードスーツを用意する羽目になった彼は、最後の抵抗として、整備中に機晶爆弾をこっそり『破壊工作』で仕込んであったのだ。調子に乗りすぎだし、お仕置きさせてもらおう。
「……」
 凶司は携帯を取り出すとコードを入力する。これが起爆装置になっているのだ。
「はい、お疲れ様」
 彼が最後のボタンを押すと……次の瞬間、三人娘のパワードスーツに仕込まれていた機晶爆弾が軽い爆音とともに派手に爆発しスーツが放送事故級に分解する。爆発は外向きに設定しているので装着者へのダメージは微小なのだが、スーツの下に身に着けていた衣装を吹き飛ばすには十分だ。
「へ……?」「あれっ……?」「えっ……?」
 エクスとディミーアとセラフは、目を丸くした。身体を覆っていた物を全て失ったことに気付いた三人は、初めて悲鳴を上げる。上空で、全裸だ。
「スーツが……あっ、いやぁぁーっ!?」
「う、うそっ、なにこれ!? きゃぁぁぁぁーっ!?」
「なっ、しまった、仕掛けがあったなんて! わあああああっっ!?」
 パワードスーツの力で宙に浮いていた三人は揚力を失い、そのままなすすべもなく落下してくる。グシャバキ! と嫌な音を立てて床にめり込み動かなくなった。グロいのかエロいのかよくわからない絵面がカメラに収められる。
「……」
 あまりのあっけない出来事に、海たちは顔を見合わせて唖然とする。しばしの沈黙の後……。
「いつまでも見ていてはだめですよ。はい、シーンも終わったことでしょうし帰りましょうね……」
 海と三月は、柚に回れ右をさせられそのまま退場していく。
「やれやれ、ひどい目にあったな。まあ戦えただけよしとするか……」
 ふぅっと息をついてレティシアは苦笑する。
「これが過酷な撮影現場、というやつですね。ひとつ社会勉強になりました……」
 フレンディスは興味深い様子で頷いてから、あたりを見回す。
「ところで、誰か忘れているような気がするのですが……」
 そういえば……雅羅はどこへ行ったのだろう。一緒にお風呂に入っていたはずだったのだが……。
  

―― 同時刻 ―― 街外れ

「おおお、なんということだ。恐ろしい出来事が起こってしまった」
 謎のゆる族宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)は温泉のある町を抜け出し、製薬会社の研究施設へと帰って行くところだった。
 乗ってたUFOが不時着した後、Dr.カテゴラスに技術協力を強いられていた宇宙人の彼は、実験体として投与された薬剤の影響で頭がおかしくなってしまっていた。
 製薬会社の一室に幽閉されていた蕪之進は、ようやくのことで囚われの身から脱出に成功したところだったのだ。だが、あの月の光がいけなかった。煌々たる光を浴びた彼は、スペースパゥアが発揮され、ついつい昔の癖で女の子を一人、こっそりとさらってしまったのだ。
「俺は善良な一宇宙人であり、地球侵略の尖兵とかそんなことは記憶にゴザイマセンヨ。キャトルミューテーションなどとんでもございません」
 そう独白で懸命に弁解する蕪之進の肩には、さっきの激しい戦闘に巻き込まれ気を失った雅羅が乗せられていた。演技ではなく本当に意識がない。災難体質のせいであった。
 あの騒動の中、やってきた彼に誰も気付かなかったようだ。ステルス性能があるわけではないが、宇宙ゾンビとして宇宙の一部に迷彩されていたせいだろう。ちなみに雅羅、全裸である。いい仕事する災難体質のせいであった。
「今更捨てて行くのはもったいないし、起こして放してやるのも俺を苛む戒めが許さない。おおお、なんということだ。憎い、憎いぞ薬効果……! この俺にこんなことをさせるとは……」
 彼がうきうきした足取りなのも、ドクターの実験体にされたせいである。製薬会社のもといた部屋へと戻っていくのも、スペーステクノロジーの混ざった恐るべきゾンビ技術のせいなのであった。決して帰る場所がないわけでも、今後の利益のために研究所の一室を間借りしようと思いついたわけでもなかった。
「ああ、地球の連中は何てぇものを作るのか! 恐ろしい!」
 ガタガタと震えながら、蕪之進は雅羅を連れ闇の中へと消えていく。
「それはそれとしてこの技術は素晴らしいんで、帰ったらこいつで死の商人したいな。技術を盗み取り、売って金にしてやる。ドクターめ、覚えてやがれ……!」
 まずは、この娘で実験してみるか……。