リアクション
パワードスーツブース 上空を、青、緑、赤のスモークがのびていく。エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)のネフィリム三姉妹が行っているパワードスーツの飛行ショーだ。 綺麗な三本三色のスモークは、途中で螺旋に絡まり合い、くるりと輪を描くと、地上にむかって下向き開花を披露して拡散していった。 飛行用機晶石特有の力場が発生するウェーブを感じさせてふわりと三姉妹が指揮車前に降り立つ。 三姉妹のパワードスーツは、ショー用に特化させてあるために、パワードスーツとは言っても通常の乗り込むタイプではなく、身体に装着するタイプとなっている。装甲と外骨格を排し、部分装甲とパワーアシスト部分を残してバックパックを中心に飛行に特化させたものだ。そのため、装甲による防弾性能などはないにも等しい。 三女のエクス・ネフィリムのパワードスーツは、青いパーソナルカラーで統一された近接戦闘用仕様にされている。そのため、機動性は一番高い。 次女のディミーア・ネフィリムのパワードスーツは、緑色のパーソナルカラーに統一された速度に特化した仕様となっている。 長女のセラフ・ネフィリムのパワードスーツは、赤のパーソナルカラーに統一され、情報処理に特化された仕様となっている。 「はいはい、こちらでグッズの販売をしていますよ。彼女たちの生写真や、特製写真集――こちらは袋とじつきだ。その他、精巧なフィギアも限定発売です。インナーの微妙な皺まで再現された精巧な物で、もちろん、パワードスーツ部分は個別に脱着可能だ。さあ、早いもん勝ちだよー」 すかさず、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が呼び込みを開始する。商売、商売。 「ちょっと待って、今日のグッズ、いつもとなんだか違くない?」 ディミーア・ネフィリムが、屋台の上にならべられた商品を見渡して湯上凶司を問い質した。 「それは、新製品だから……」 なんだかちょっと、湯上凶司の歯切れが悪い。 「わーい、新製品なんだあ」 よく中身を確かめもせずに、エクス・ネフィリムが喜ぶ。 「まあ、でもお、これはちょっとエロエロですねえ」 別に臆することもなく、DVDを手に取ったセラフ・ネフィリムが言った。 「ちょっとどころじゃないじゃない。いつの間に、こんな物作ってたのよ」 「それは……企業秘密だ」 顔をそむけながら、湯上凶司がディミーア・ネフィリムに答えた。 「秘密じゃないわよ。エロいの禁止!」 「ふっ、何を今さら……」 決して視線を合わせようとせずに湯上凶司がつぶやく。 「目を見てしゃべれ!」 ディミーア・ネフィリムが、湯上凶司の胸倉を掴んで叫んだ。 「はい、ありがとうございますう」 「ちょっと、セラフ姉さん、何売ってるのよ!?」 「え? だって、買ってくださるからあ」 ディミーア・ネフィリムの突っ込みに、いいじゃないのとセラフ・ネフィリムが答えた。 「こ、これが、新しいパワードスーツの需要だったのか。盲点でありました。あ、ついでにサインください」 ごっそりとグッズを買い込んだ伯慶が、エクス・ネフィリムにサインを求めた。 「はい、サインしたよ。ありがとね」 「エクスまで……」 「えっ、しちゃだめだったの?」 ディミーア・ネフィリムに言われて、エクス・ネフィリムがきょとんとした顔をした。 「ふっ、売れてしまえばこちらのもの。さあ、諦めて売りまくれ!」 湯上凶司が、ディミーア・ネフィリムに命令した。 「目を見てしゃべれー!!」 要塞ブース 今回は、広い会場を利用して、イコンのベース基地にもなり得る物も展示されている。 野戦築城は、前線基地として固定設置される物である。移築は可能だが、設置すると移動はできないため、基本的に固定拠点として利用される。構造にもよるが、設置する場所さえあれば、地上、水中、異界などに設置が可能となる。 機動要塞は、マ・メール・ロア型の浮遊要塞に分類される物である。こちらは固定できず、常に浮遊する形になるため、低速での移動が可能である。また、異界でも、そのまま運用することができる。 「これが、野戦築城……。また美味しそう……、いや面妖な作りじゃのう」 目の前に立つ絶対無敵要塞『かぐや』を見て、坂本竜馬が、袖を抜いて懐から出した手で、顎の無精髭をなでた。目の前にある建物は、どう見ても巨大なタケノコそのものだ。 「よく来たなあ。どうじゃ、中に入ってはいかぬか」 管理者のルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、ひょいひょいと手招きする。誘われるようにして、坂本竜馬がかぐやの中に入った。 「ほう、中はまだましじゃのう」 管理者の趣味か、ちょっと女の子っぽい内装を見て、坂本竜馬が少し感心した。 「あたりまえじゃ、可愛いピヨたちのねぐらでもあるのだからの。ほら、アキラ、さっさと粗茶を出さぬか」 ジャイアントピヨをセレスティア・レインに任せて戻ってきていたアキラ・セイルーンを、ルシェイメア・フローズンが顎でこき使った。 「この要塞の最大の利点は、設置時間の短さにあるのじゃ。詳細は企業秘密じゃが、設置とほぼ同時と言えるほど瞬間的にのびる。必要があれば地下に隠しておき、敵のふいをついてにょっきりすることもできるのじゃ」 「にょっきり……」 ルシェイメア・フローズンの説明を聞いて、普通のタケノコがのびる様しか想像できない坂本竜馬であった。 ★ ★ ★ 「綺麗ですわ。とても綺麗。こんなに美しい機動戦艦があるのですね。本当に見惚れるようですわ」 ウィスタリアを見あげながら、ディアーナ・フォルモーントが言った。 「うん、この時代の物も侮れないね」 ユピテル・フォルモーントに同意する。 「いらっしゃい。どうです、中を見学していきますか」 「もちろん」 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)に訊ねられて、ディアーナ・フォルモーントが即答した。 ウィスタリアからは、乗降用のエレベータパイプが下ろされている。 やや開いた形の双胴を有するウィスタリアの全景は、機動要塞と言うよりは機動戦艦と呼ぶ方がふさわしい。その名の通り薄い藤色の船体は、均整のとれた美しいデザインであった。 「武装は封印中のグラビィティカノン一門を含めて、単装砲四、ミサイル発射管等なんだけど、実はここはまだ艤装が完成してなくてまだ単装砲しか使えないんだよねぇ」 するするとエレベータで上っていきながら、柚木桂輔が説明した。どの程度の技術なのかと、ユピテル・フォルモーントが子細にコンソール部分を調べる。 下層のラボを通りすぎて、上層ブリッジへと移動する。メインブリッジは、中央に機晶制御ユニットがあり、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が半ば身を埋めるようにしてそこに収まっていた。このシステムによって、ウィスタリアは最低一人でも操船が可能となっている。 「いらっしゃいませ。ずっとお待ちしておりました」 アルマ・ライラックが、観覧者たちを温かく迎えた。柚木桂輔が連絡したふうはなかったが、とっくに来訪は把握していたようだ。どこかからかモニタでもしていたのだろうか。 「ずっとモニタしていたの?」 それはあまり気持ちがよくないなあと、ユピテル・フォルモーントが訊ねた。 「このシステムに接続すると、ウィスタリアは私の手足となり、目と耳となりますから。艦内で起きることは全て把握できるんですよ。だから、あまり悪戯はしないでくださいね。見ていますから」 なんだか興味津々で、勝手に機器をいじりそうなユピテル・フォルモーントに、アルマ・ライラックが軽く釘を刺した。 「わあ、凄い、ステキな眺めです」 艦橋の窓に駆け寄ると、ディアーナ・フォルモーントが空中から博覧会会場を一望して歓声をあげた。 |
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