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イコン博覧会2

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リアクション

 

ショッピングブース

 
 
「いらっしゃいませー。こちら、イコン屋台で〜す。豪快なお料理を、目と舌でお楽しみくださ〜い!」
 イートコーナーの一画で、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が声を張りあげて呼び込みをしていた。
 料理の注文お渡し屋台の後ろには、巨大なパラミタ伊勢エビ君の上半身がハサミを振り上げた状態で飾られている。他にも、パラミタホタテの殻が巨大な衝立のようにならべられていた。
 もちろん、パラミタの巨大シーフードを人間が捌いて料理するのはかなり大変だ。そこで、イコンの出番である。
ててててててて……きらん
 エンライトメントあらため、グレートとわのカナタちゃんの薙刀を燦めかせ、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が豪快に素材を切り刻んでいた。伊勢エビの身も、イカだろうとタコだろうと木っ端微塵である。
「ふっ、荒いな。料理ってもんは、繊細さが命だぜ」
 頭に鉢巻きを巻いたメカ雪国ベアが、マフラーアームで掴んだ巨大中華鍋を火の上で激しく動かしていた。そこへ雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がイコン本来の腕で具材を投入していく。
 まさに豪快なイコン料理がそこでは繰り広げられていた。
 パフォーマンスとしては申し分ない。だが、食べる相手は小さな人間である。このままでは、巨大すぎてとても食べられたものではない。
 そこで、緋桜 ケイ(ひおう・けい)の出番である。
 ほどよく火が通ったシーフードたちを、人が食べられる大きさに刻んで食材と合わせていく。
「ピザ二つ、リゾット一つ、ペスカトーレ一つお願いします!」
 注文をとってきたソア・ウェンボリスが、緋桜ケイに告げる。
「あいよ。ピザ二つ、リゾット一つ、ペスカトーレ一つね」
 ほとんど屋台のおやっさんになりかけている緋桜ケイが、元気よく答えた。しゅたたたたたたと悠久ノカナタと雪国ベアが調理したシーフードを一口大に刻んで料理を作っていく。
「できたぜ」
「は〜い」
 緋桜ケイから渡された料理を、ソア・ウェンボリスがお盆に載せる。
「そんなに載せて、大丈夫か?」
 はみ出そうなくらいてんこ盛りで料理をお盆に載せるソア・ウェンボリスを見て、緋桜ケイがちょっと心配そうに訊ねた。
こ、このくらい平気です!
 強気で言い返すと、ソア・ウェンボリスがちょっとふらふらしながら料理を運んでいった。
「待ってましたですー」
 料理がくるのを待ちかねていたベネティア・ヴィルトコーゲルが、すでにナイフとフォークを持って身構えていた。
「こちら、パラミタ伊勢エビのイコン斬り内海風パスタとなっております。それから……」
 ちゃんと料理の説明をしながら、ソア・ウェンボリスがテーブルの上に注文の品をおいていった。
 
「ううむ、あちらは繁盛しているようじゃのう。生駒め、どこで油売っているのじゃ!」
 隣の屋台でチョコバナナを売っていたジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が、飛び出していったきり戻ってこない笠置生駒を探して周囲を見回した。
「親父さん、チョコバナナ二つください」
「へいまいど」
 神楽坂緋翠に言われて、ジョージ・ピテクスがピンクとブルーのチョコバナナを代金と交換に手渡した。
「さあ、いらはいいらはい、チョコームラントの装甲味と、イーグリット・チョコルトのダブルチョコサーベル味のチョコバナナだよー」
 けなげに、一人で呼び込みを続けるジョージ・ピテクスであった。
 
「はい、香住さん、チョコバナナ」
「あ、ありがとう……」
 チョコバナナを受け取ろうとしてのばした手がふれあって、二人があわててそれを引っ込める。
「そ、それにしても、朱音ったら、どこに行ってしまったのかしら……」
 あらためてチョコバナナを受け取りながら、須藤香住がつぶやいた。
 その当人たちは、とある屋台の陰から二人を見守っていたとは、須藤香住も神楽坂緋翠も気づいてはいなかった。
「いい雰囲気だけど、もどかしいなあ」
「そうだよねー」
 柱の陰に頭を上下にならべて、水鏡和葉と祠堂朱音がささやきあった。
「もしもし、そこにいられると邪魔なんですが。それとも、なんか買ってってくれます?」
「ええっと……。さいならー」
 突然クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)に声をかけられて、水鏡和葉と祠堂朱音があわてて逃げていった。
「ちっ、冷やかしか……」
 他人に聞こえないように陰でささやくと、クロセル・ラインツァートが満面の笑みを作り直した。
「さあ、それではマナ様、商品を御披露してください。解説しろ、シャーミアン……」
邪魔です。どいてください
 偉そうなクロセル・ラインツァートをドンと押しのけると、マイクを持ったシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が前に進み出た。
「では、御紹介しましょう。2022年、巨大マナ様最新モード!」
 シャーミアン・ロウが紹介すると、屋台の横にある巨大更衣室の中から、ドラゴネット化したマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が現れた。可愛らしい怪獣着ぐるみを着ている。
 一部のドラゴニュートは、一時的にではあるがドラゴネットと呼ばれる未来の姿である成体ドラゴンの姿になることができる。だが、その仕組みはまだまだ解明されてはいない。
「これぞ、最新のイコンモード、マナ様ブランドのイコン用着ぐるみパジャマです」
「がお〜!」
 シャーミアン・ロウに紹介されて、マナ・ウィンスレットが軽く火を吹くまねをする。
「イコンが着替えてはいけないと、誰が申したのでしょうか。否、イコンであるからこそ着替えるべきなのです」
 そうシャーミアン・ロウが言うと、すっと、マナ・ウィンスレットが更衣室の中に引っ込んだ。
よーく見ていてください。ここが本日の山場です
 クロセル・ラインツァートが、集まった観客たちにささやく。
「しゅわっちなのだあ〜」
 更衣室の中で着替えてきたマナ・ウィンスレットが、UltraManaパジャマ姿で再び現れた。
「見てください。着ぐるみを替えることにより、まるで別のイコンであるかのような印象を相手に与えることができるのです!」
 自分が作ったパジャマのできにほれぼれと見とれながらシャーミアン・ロウが続けた。
 またマナ・ウィンスレットが更衣室に戻って何やらごそごそとする。
「みんな手伝ってね……なのだあ」
 今度は空京タイムちゃんの着ぐるみを着たマナ・ウィンスレットが、ちょっと息をはずませながら姿を現した。
「この有名人なりきりセットによっては、本当にオリジナルの能力が使える……かもしれません」
 なんとも、いいかげんなことをマナ・ウィンスレットが言う。それを聞いて、クロセル・ラインツァートが、うんうんと深くうなずいていた。
「ぜいぜい……ぱーんだあー」
 思いっきり肩で息をしながら、マナ・ウィンスレットが今度は客寄せパンダ様の着ぐるみに着替えてくる。早着替えも、そろそろ限界ではないのだろうか。
「さあ、お気に召した商品がございましたらこちらですよー。イコン用着ぐるみパジャマの他、人間用着ぐるみパジャマや、公式っぽいイコン博覧会記念キーホルダーなど、様々な商品をとりそろえております」
 クロセル・ラインツァートが、ここぞとばかりに客をあおった。
「こ、これも着るのかあ?」
 スノーマンパジャマを片手に持ったマナ・ウィンスレットが、更衣室から顔だけ覗かせて聞いた。
「もう充分ですわ、マナ様」
 これ以上負担はかけたくないというシャーミアン・ロウの言葉で、マナ・ウィンスレットがするするといつものちっちゃい大きさに戻っていく。
「すいません、そこのクェイルのストラップを三つください」
「はいはいはい。お目が高い。これはもう製造中止ですので、プレミアつきますよ〜」
 古新聞でくるくるとストラップをつつむと、クロセル・ラインツァートが品物をディアーナ・フォルモーントに手渡した。
「買えましたよー」
 人混みをかき分けて元の場所に戻ってきたディアーナ・フォルモーントが、ユピテル・フォルモーントに言った。
「ほーんと、この時代のイコンって、いろんなのがあるんだね」
 巨大マナ様の早着替えを面白そうに見ていたユピテル・フォルモーントが、つぶやいた。
「この時代って……。ユピくんは、その……、未来には戻らなくてもいいの?」
 孫で未来人だと言って現れたユピテル・フォルモーントに、ちょっとおそるおそるディアーナ・フォルモーントが訊ねた。
「あそこは、一人だから。誰もいない冷たい家の中に帰るのはもうイヤだよ」
 軽く顔を顰めてユピテル・フォルモーントが答えた。
「そう。うちにいるのが居心地がいいなら、うちにいるといいですわ。はいこれ……」
 そう言うと、ディアーナ・フォルモーントが、買ってきたつつみを開けてとりだしたストラップをユピテル・フォルモーントに手渡した。
「一つは、あなたに。一つは私に。もう一つは、今日はお留守番をしているあの子に。ふふ、家族でお揃いですわね」
「おばあちゃまらしいねっ」
 ユピテル・フォルモーントが、ストラップをだきしめるようにして言った。