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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十四章 囚われた従者

 刻命城、フローラの部屋。
 フローラは血だらけになりながら、蠢く魔剣を手に戦い続けている。
 彼女の戦い方は無茶苦茶だ。剣術の型をまるで無視した不規則で、人をあざ笑うかのような出鱈目な斬撃を繰り出している。
 今、そんなフローラと戦うエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)は、魔剣の一撃を受け吹っ飛んだ。

「甘いですよ。私はプリースト、この程度の怪我であればカバーできるものです」

 エリスはそう呟き、白の魔法陣を描き、魔力を込めて発動する。
 発動したヒールは魔剣による傷を塞ぎ、癒していく。
 フローラはそれを阻止しようと疾走。エリスとの間合いを詰めようとして。

「……隙あり!」

 迷彩塗装で今まで姿を隠していた相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)がフローラの背後に現れ、アンボーン・テクニックを発動。
 未来で開発された戦闘技術であるそれは身体能力を向上させ、洋孝は強化された動きで素早くフューチャー・アーティファクトの頑丈な銃身を打ち下ろした。
 しかし、フローラは銃身を魔剣を持つのとは反対の腕で防御。生身に当たったというのに、鉄を殴るような感触と共に、フューチャー・アーティファクトは弾かれる。

「硬ってー。本当にメイドかよー。どこの熟練剣士かー」

 洋孝は弾かれると同時に大きく後退。今度はフローラに照準を定めフューチャー・アーティファクトを発砲。
 収縮されたビームがフローラに飛来。フローラはこれを瞬時に身体を伏せることで回避して、振り返る。紅い双眸が洋孝を捉えた。

「マジかよ。これでメイドなら戦闘メイドだぜ。決めセリフは悪漢共に死の制裁をってか!」

 洋孝は大きく目を見開き、ヤケクソ気味に叫ぶ。
 フローラが魔剣を抱えて、洋孝との間合いを詰めようと、足に力を込め駆ける。

「……やっと、追いつきましたか」

 静かな呟きと共に東 朱鷺(あずま・とき)が二人の間に身を割り込み、鬼祓いの薙刀を魔剣で受け止めた。
 朱鷺は渾身の力を込めて魔剣を弾き、後退。そしてフローラに声をかけた。

「朱鷺はその魔剣に興味があります。
 記憶を刻むってことに協力しますから、その魔剣を一刻、朱鷺に渡してはもらえないですかね?」

 朱鷺の誘いにフローラは魔剣を両手で掴み、刃先を相手に向ける。
 それが答えか、と朱鷺は小さくため息を吐き、鬼祓いの薙刀を構えた。

「……交渉は無理ですか。ならば、キミの心を折らせていただきます」
「……やってみなさいよ」

 両者は互いの一挙手一投足に注意して、踏み込むタイミングを計る。
 そんな二人を見ながら、七刀 切(しちとう・きり)は思った。

(パラミタにいる連中はわけありな奴が多いし、大切な人を生き返らせたいって気持ちを分かる奴は多いだろうさ。
 でも死を受け止めたり、支えられたりと皆が前へ進んでる……大切な人を想ってるからこそな)

 切はどこか悲しそうな目で、フローラを見つめた。

(でもお前さんらは違うねぇ。主の事をちっとも考えてない。自分たちが寂しいからって押し付けてるだけだ)

「なあ、フローラ」
「……なによ?」
「そんなんじゃぁ生き返っても、主もあんたも誰も笑顔になんてなれやしないよ」
「……あなたになにが分かるのよ。部外者のくせして」

 フローラは紅い目をキッと険しくして、切を睨んだ。
 続けて、切に代わりベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が声をかけた。

「お前は城主とやらをその魔剣でどうやって生き返らせる気なんだ?」
「……そんなこと、知らないわよ」

 フローラの言葉を聞いて、ベルクは呆れたように霊術師の観点から言い放った。

「肉体は何処にある? 魂は何処に彷徨っている?
 どう考えてもそんな剣一本で出来る諸行じゃねぇだろーが。魔力も素材も何もかもが足りねぇだろ」
「……そんなの、やって見なくちゃ分からないじゃない……!」

 フローラは魔剣の柄を力一杯握る。
 その身体はすでに傷だらけでぼろぼろ。衣服は既に真っ赤に染まっていた。

(……死人に振り回されて女の子が死んでも構わないなんて思ってるって言うんなら、救い上げるしかねぇよなぁ)

 切はそんなフローラを見て、より一層決意を固める。
 腰に差す一刀七刃の柄を力強く握り、優しい微笑を浮かべながら言い放った。

「さぁ一曲踊ろうぜお嬢さん。まずはその薄っぺらい希望で眩んだ目から覚まさせてやるよ」

(そして現実を教えてやる。助けて欲しいって言えば助けてくれる。
誰かを傷つけるまでもない、こんな城主と従者がいたと皆に語って、その姿を刻む手伝い位喜んでしてくれる奴らがいる。そういう優しい現実もあるってな)

 切は希望を込めて、地を力強く蹴った。