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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十六章 終わりへの戦い

 刻命城、フローラの部屋。
 自らのパートナーである九十九 天地(つくも・あまつち)と光竜『白夜』が戦っているのを沈痛な面持ちで見つめながら、九十九 昴(つくも・すばる)は思う。

(フローラさん……鬼気迫るまでの想う気持ち、死者を失う悲しみは……私も分かります。だって――)

「私も両親を……失っていますから」

 昴は自分も気付かず、ぽつりと言葉を洩らしていた。

(天寿を全う出来、従者や貴女の様な方がいて……城主は幸せだったでしょう。
 だからこそ、してはいけない。出来る出来ないではなく、『してはいけない』。
 ……死者を無理やり呼び戻すと言うのは、その生を全うした者を冒涜するだけ)

 昴は陰陽六合刀を鞘から引き抜く。

(だからフローラさん。私は貴女の企みは、その魔剣は――)

「完膚なきまでに、破壊する」

 昴は決意を込めてそう呟き、陰陽六合刀の柄を力一杯握った。

 ――――――――――

 変わらず、激しい戦いを続けるフローラと魔剣に変化が起こった。

「ッ!?」

 契約者達により、蠢く魔剣に小さなヒビが入ったのだ。
 それを確認した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、今日一番の加速でフローラに迫る。

「さぁ、やろうフローラ。全ての時間をまた動かしてやる」

 唯斗は言葉と共にインビンシブル、フォーティテュード、肉体の完成、エンデュアを発動。
 自分の身体を盾として、フローラと魔剣を止めようと、自ら彼女の得意とする間合いで立ち止まった。

「来いよ、お前の絶望も希望も全てを受け止めてやる」

 唯斗の誘いを受けて、フローラは両手で魔剣を振りかぶる。

「……ぁぁぁああ!」

 全身の力を振り絞り、裂帛の気合を込めて振り下ろすのは、乾坤の一撃。
 唯斗はその一撃を逸らすことなく、真正面から二槍の偽典銃神槍壱式で受け止めた。

「ぐッ!」

 身体が軋む。呻きが洩れる。
 極大な力の一撃を唯斗は受け止め、身を前へ出し剣の柄付近を二槍で受けた。
 そこは一番切れ味の悪いところ。唯斗はあえて深めに受け、魔剣ごと抱き締める様にして動きを封じた。

「……どーよ、止めたぜ?」

 唯斗はそう言うと魔剣を弾こうと二槍に力を込める。
 負けじとフローラも渾身の力で押し返す。
 そうしてしばらく膠着し――均衡を破ったのはフローラだった。

「あああああああああ!」

 獣じみた咆哮と共に唯斗の二槍を弾き返す。
 弾き返された唯斗は素早く後退。もう一度フローラの間合いに入ろう足に力を込めて。

「……昴?」

 唯斗の隣まで足を進めた昴が、彼を片手で静止する。

「すみません。ここは、私に任せてはくれませんか?」

 並々ならぬ気迫を昴から感じた唯斗は、しばし考えたあと大人しく引き下がった。
 昴は唯斗に対して小さくありがとう、と告げるとフローラをキッと睨み言葉を発した。

「これで、一対一です。
 ……その刃、想い突き立ててみなさい、私の体に!」

 昴の言葉の終わりと共にフローラが駆けた。
 小手先の一切を捨て昴の身体を穿とうと魔剣を構え。

「は、ぁぁあああ……!」

 フローラの咆哮と共に放たれた魔剣は、昴の左肩を大きく貫いた。

「昴、何て無茶を!」

 後ろから天地の心配する声が聞こえる。
 けれど、身体を貫かせるのは作戦だった。
 昴は自身の身体を貫いた魔剣を龍鱗化による硬質化で引き抜けなくして、金剛力で魔剣の刃を掴んだ。

「……捕えましたよ」

 昴はそう呟くと陰陽六合刀の火の力と合わせて煉獄斬の業火で魔剣を熱する。
 そして次には陰陽六合刀の氷の力と合わせ絶冷斬で一気に冷やし、凄まじい熱衝撃を与えた。

 ぎちんっ。

 誰も聞いたことのない音が大気に反響した。
 それと共に魔剣に大きなヒビが走り――。

 ぎちんっ、ぎちんっ。

 鋼が捩れるような不協和音を発しながら、魔剣を砕け散った。

 ――――――――――

 フローラは砕けた魔剣を見て、力尽きるかのように両膝を着いた。

「あ、ああ」

 発する言葉は震えていて、魔剣の欠片を手に取った。
 鋭い刃の破片が彼女の手を切り裂き、血を流させる。

(……希望は絶たれた……)

 フローラはそう思い、刃の破片を自分の喉元に向けた。
 他の数人の契約者がそれに気付き止めようと走るが、それよりも彼女の手の鋭利な刃が自身の白い喉へと届く距離のほうが短い。

(もう……生きている意味なんて、ない)

 フローラは目を静かに瞑り、一気に手のなかの刃を自身の喉へ引き寄せる。

 鮮血が飛び散った。

「どうにか……間に合ったか」

 フローラの顔に飛び散った鮮血は彼女のものではなく。
 彼女が喉を切り裂く前にその刃を掴んだ草薙 武尊(くさなぎ・たける)セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)のものだった。
 武尊はこんなこともあろうかと戦いには参加せず、ずっとフローラの近くで隠れていたのだ。

「どうして……、邪魔するの……?」

 フローラが縋るような目で二人を見た。
 二人はなにも答えず、魔刃の破片を彼女から引き離す。

「余計なことはしないでよ……!
 もう、死なせて。ねぇ、お願い……!」

 二人は小さく首を横に振り、魔刃の破片を投げ捨てる。

「生きろっていうの……?
 この城主様がいない残酷な世界で……?」

 二人は小さく首を縦に振る。

「無理よ。私は、もう、何に縋って生きていればいいか分からない……!」

 フローラがそう大声で感情を吐露する。
 その瞬間、砕かれた魔剣が光を放ち輝き始めた。