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【神劇の旋律】三姉妹怪盗団、参上!

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第4章 売買

「まあ、ゆっくり話を聞こうじゃないか」
 富豪の屋敷の来客室。
 趣味の悪さを前面に押し出した派手な造りと、調度品に囲まれたその部屋に、茅野 菫(ちの・すみれ)クロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)は通された。
 菫には相馬 小次郎(そうま・こじろう)、クロウディアにはテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)グランギニョル・ルアフ・ソニア(ぐらんぎにょる・るあふそにあ)がそれぞれ付き添っている。
 スーツで決めて真面目くさった様子の小次郎とは対照的に、グランギニョルは「やれやれ」と言った感じで仕方なく付き合っている様子。
「単刀直入に言う。そなたのティンパニを買わせていただこう」
 まず口火を切ったのはクロウディア。
「ほほう」
 クロウディアの言葉に、富豪の目がぎらりと光る。
「このストラトス・ティンパニの価値を知って言うのですかな?」
「勿論である」
「あ、あたしも欲しいんだけどもさ……」
 菫が戸惑った様子で口を開く。
「高価なものなんだろ。旦那のような立派なお金持ちならともかく、あたしなんかじゃとても手が出ないだろうな……」
「ぐふふふふ。眼鏡のよく似合うお嬢さんは身の程を分かっておるじゃないか」
 菫の、自尊心を煽るような話し方に富豪は上機嫌の笑みを漏らす。
「そ、それでな。もし、このティンパニに似たものとか模造品なんかがあれば、それでもいいから買いたいんだけど」
「ほほう……いやいやいや、お嬢さんは運がいい」
 富豪は突然立ち上がると、勿体ぶった様子で手を叩く。
 慌ててやってきた使用人に何事か告げると、使用人は急いで部屋を出ていく。
 再び戻ってきた使用人は、ティンパニを乗せた台車を押していた。
「これは?」
「ストラトス・ティンパニに似せて作った模造品だ。一連の怪盗騒ぎを受けて慌てて作らせたのでこれひとつしかないんだが、そこまで希望するんだったらお嬢さんに売ってあげなくもないよ」
「お、おぉ……それはありがたい。なんて優しい人なんだ(棒読み)」
 提示された値段は決して優しいものではなかったが、菫は了承した。
 小次郎と共に台車を押し、一礼して部屋を出る菫。
「ぐふふふふ……お嬢さんはいい買い物をしたねえ」
 菫を見送った富豪は、改めてクロウディアに向き直る。
「さて、それでは取引の話をするとしよう」
「ああ。吾輩も、ティンパニの購入を希望するのだよ。……もちろん、本物をな?」
「ほうほう」
 クロウディアの言葉に、富豪は面白そうに頷く。
(……特に焦っている様子はないようでありんすね)
 富豪の様子をじっと観察していたグランギニョルは静かにテラーを撫でる。
「ぅ?」
 グランギニョルを見つめるテラー。
 グランギニョルたちはクロウディアに頼まれ、富豪との交渉を有利に運ぶため、彼の様子を見守っていた。
 今のところ、富豪の様子に変化はない。
 それは、嘘をついていないというよりも、嘘を吐き慣れ、もはや本当の言葉と区別すらできないようにも見えた。
「取引の意志があるのは嬉しいが、今は見ての通りお披露目会の最中だ。これを楽しみにしている人も少なくない。もし取引が成立しても、実際に渡すのはお披露目会の後でも構わんかね?」
「ああ。ところで、もちろん本物を、だな。まさか偽物を売りつけようとは思っていまいな?」
「これはこれは酷いことを」
 クロウディアの言葉に富豪は心外だとばかりに首を振る。
「大切な取引相手に偽物を掴ます筈ないだろう」
「ぐぎょ!」
(……ああ、分かっておる)
 グランギニョルとテラーに注意されるまでもなく、クロウディアも分かっていた。
 富豪の言葉が、完全に嘘であることを。
「……まあ、詳しい話はお披露目会の後ですることにしようかね」
「……了解した」