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漂うカフェ

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漂うカフェ

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「? 揺れて…いますか…?」
 店が震動した気がして、椿が周りを見回していると地下に通じる階段から虎臣が出てきた。
「椿殿、大丈夫ですか? 牡丹殿は……」
「八雲さん…大丈夫、です…私も、牡丹も…。地下で、何か…?」
「私には詳しくは分からないが、例の機晶回路が暴走しているようで……その、もしかしたら……」
「え…?」
「この店が、時空の狭間に、また」
 いきなり、階下からばたばたばたっと駆け上ってくる足音がした。虎臣が慌てて避けると、勢いよく飛び出してきたのはルカルカだった。続いて、イーリーも。
「鈴里、どこ!?」
 ルカルカの叫びに、椿と虎臣は厨房を見た。
 鈴里は、厨房に立っていた。ただ、微動だにせず、立っていた。
 視線の先に――男がいた。
客のいなくなったの店内に、ひときわ背の高い、軍人のように背をすっと伸ばした、厳つい骨ばった顔の痩せた男が。

 ――それは機晶回路が暴走を始めるわずか数分前に遡る。
「今のままじゃ、私たちにできることは限られてるんじゃない? 老朽化した部品を取り換えるとか、メンテナンスくらいしか」
 暑さのあまり上着を脱いで上半身ビキニ姿になったセレンフィリティが、背後にパートナーの呆れたような視線を受けつつ、イーリーとダリルに言った。
「イーリー」
 相変わらず、暑さを感じているとは思えない表情で、ダリルが急に言い出した。
「提案なのだが、あの双子の機晶姫自身を調査するわけにはいかないだろうか」
「……鈴里と萱月をか?」
「店が転移する時、外部の人間は置いて行かれるのにあの二人だけは必ず店と一緒に消える、ということは、“双子はこの店の付属品”という位置づけかも知れん、と考えていた。
 二人は転移については詳細を知らないし、そのことを深く考えようとしない、ということは、彼らの思考回路自体にそのことについて考えるのを阻止する仕掛けがある可能性も考えられる。
 そして、もしこの推測が当たっていたなら、彼らは自覚がないだけで、この転移の仕組みに関する情報を自身で有している、という可能性も出てくる」
 二人はそれを聞いて、しばらくの間黙りこんだ。が、
「この回路……もしかしたら、もともとカフェの営業のために特化した回路じゃないかもしれない……んだよね?」
 セレンフィリティが、独り言のように呟いた。
「思うんだけど。もしそうなら、誰がこれを店に設置したんだろう。ていうか、どうして店に繋いだの? 店をあの二人にやらせるため?」
「店を……?」
 イーリーが、突然醒めたような目をした。何かに思考を導かれるように、呆然と言葉を紡ぐ。
「店ありきだとして、どうしてこの回路が店に必要で、何故その結果あの二人が店と命運を共にするのか……回路とあの双子は、何らかの形で連携している!?
 そう言って、イーリーはダリルを見た。
「君は、あの二人は店の付属品かも知れないと言ったな。それだ。正確には、二人はこの回路の付属品……いや、ことによると、電子知能的には、双子の方がこの回路より上位にある、という可能性がある……!」
「まさか! 回路の方がいわば双子の付属品だということか!?」
 ダリルが驚きの声を上げた、その直後、機晶回路の暴走が始まったのだ。
 過剰エネルギーをまき散らすそれは、地下から店全体を少しずつ謎の波動で揺さぶり始めていた。