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 この町に鳥レースに挑むためにやってきた者たちは順当に勝ち上がっていった。
 実のところ、やってきた契約者たちが町長の家から借り出した鳥たちはどれもほとんど出来がよく、さらには手厚いサポートもついてよく走った。さらには、契約者たち自身のスキルもある。妨害は駄目だが、能力を上げるのはオッケーだ。たいていの鳥たちには勝てることが分かった。それでも……。
「予選で同じ組になるなんて、運がいいのか悪いのか……よくわからないですねぇ」
 予選第12レース。
 あろうことかパートナー同士で出場することになったレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は、顔を見合わせる。
「言っておくけど、わざと負けてあげるつもりはないからね。それは八百長でしょ」
 真剣な表情で言うミスティに、レティシアはにんまりと笑う。
「おやおや、まるでミスティさんの方が強いような言い方ですねぇ。あたしに勝てると思わないことですよぅ。これでも今日のこの時まで、勝てるように練習は積んでありますからねぇ……」
「レース前にしっかり見回ったおかげで外部からの妨害の心配もないわ。ガチでの勝負ができそうね……」
 二人は、普段とは違いバチバチと火花を散らしながら並んでスタートラインにつく。
 笛と旗の合図で同時にスタートを切った。
 もちろん、鉄人レース挑戦中のカメラマン奈月も並走だ。
 最初はゆっくりとしたペース。レティシアは鳥をなだめながら後方に下がった。序盤は押さえ気味で体力を温存しながらもベストポジションにつける差しに重点を置いた走法。
 一方ミスティの方は、前から二番目。多少の余力を残しながらも鳥のストレスにならない位置取りを確保し、仕掛けるタイミングをうかがう。
 直線2000m、コーナーもなく位置取りもさほど気にしなくてもいい能力勝負で、レースは淡々と進んでいく。レティシアとミスティ以外の8羽も、隊列を崩さずに充分についてきている。ばてる鳥もいなく、お互いがいつ仕掛けるか牽制しあう。
(能力的にほぼ互角ですかぁ。一番キツイところに当たっちゃったかも、ですねぇ……)
 先行が余力を残して走っているため、追い込んでも届かない可能性がある。レティシアは後半を過ぎるとペースを上げていく。
「持ってくださいねぇ……」
 それに連られて、他の後続の鳥たちも速度を上げた。
「仕掛けが早すぎるわ。残念ね……私の勝ちよレティシアさん」
 後ろが迫ってきてもミスティはまだスパートをかけなかった。十分に引き付けて後ろが力を使いきったところで引き離してやろう、と手綱をがっちりと抑えたまま、スタミナを温存する。
「ところが、そうはさせませんわよぅ。鳥さんとのコミュニケーションが違いますわ」
 ここで負けては後がない、やるからには全力とレティシアは思い切って上がっていった。
「鳥のスタミナの違い、見せてあげるわ」
 後ろから追いかけてきたレティシアが並ぶか並ばないかの位置まで来た辺りで、ミスティは最後のスパートをかける。
 ドドドドドドド……! と草原を揺るがすような10羽の音とともに、熱戦に興奮した観客席から歓声が沸き起こる。
「これは……、きわどい写真判定になりますねぇ……!」
 レティシアとミスティ、それに残りの8羽もほぼ同時にゴールインした。
「……」
 レース運営に支障をきたすほどの長い写真判定だった。あまり慣れていない運営が苦悩している様が選手たちからもわかった。
 レースの結果はパートナーとしての威厳勝ち、と言っていいだろうか。レティシアのくちばし差の差し切りだった。二着にミスティ。二人してなんとか一次予選を通過する。
「いいレースでしたわねぇ……」
 と満足げなレティシア。他の騎手たちと握手しあって別れる。二次予選も通過し、決勝まで残る、と約束した。そして……。



「券買ったよ。外したら呪い殺すから」
 予選第14レース。
 観客席からアゾートの暖かい声援を浴びたのは、先日町長の家で鳥を選んだ風祭 隼人(かざまつり・はやと)だった。彼はあれから、鳥の世話をしている泉美緒を手伝いながら、ガッツ鳥との信頼関係を築き連携を深めてきた。レースに勝てるコンビを体現し、優勝を目指す意気込みだった。当然予選ごとき出脱落するつもりは毛頭ない。
「頑張ってくださいませね」
 アゾートと一緒に、泉美緒までが応援に来てくれていた。これは果報者と言っていいかもしれない。鳥以外にも、信頼関係を築いたりしたのだろうか。
「うちのも一緒に出るみたいね」
 その隣で、読んでいた本をぱたりと閉じたのは、今日一日のんびりとレースを観戦していたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)だった。
 パートナーのウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が出場するということで、それまでじっと待っていたのだ。もう一人の彼女のパートナーの魔女は鳥につつかれすぎてトラウマになったらしい。部屋にこもりきりだ。
「……」
 ウルフィオナが選んできた銀毛に赤い目の鳥を見つめてレイナは黙る。
(女の子たちが応援してくれているんだ。何としても勝たないとな……)
 もうテロリストたちは出現しない。レースに専念できるだろう。隼人は気を引き締める。
(アゾートちゃんや美緒さんに支えられてここまでこれた。応えたいな……)
 スタート地点で、隼人は軽く手を挙げ宣言する。
「この勝利を二人に捧ぐ」
「それはありがたいんだけど……スタートしてるよ」
 アゾートはポツリと呟いた。
「え?」
 取り残された隼人は目を丸くする。急いで走り出すも、この差を埋めるのは相当な困難なようだった。
「大丈夫だよ、隼人くん。呪い殺しはしない。券買ったとは言ったけど、君のとは言ってないから」
 アゾートは買ってきたウルフィオナの券に視線をやりながらニヤリと笑う。
「……狙い通り」
 何とか二着に入り予選は通過したが。