校長室
凶暴なるマンドラゴリラ
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第二章 完熟、そしてレア 地下洞窟の奥。 より熟したマンドラゴリラ達が暴れだしているそこでもまた、多数の戦闘音が響いています。 それは熟していないマンドラゴリラの多い地上よりも、よりレアなマンドラゴリラを求めて潜ってきた人達でした。 その中の一人……セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、目の前で金色に輝くマンドラゴリラと対峙しています。 「ギャオー!」 洞窟に響く音、そして金色の身体。 間違いなく、探していたレアな完熟マンドラゴリラです。 しかも、かなり凶暴化している個体のようです。 猿の女王と異名をとるセシルにとって、野菜とはいえゴリラ相手に引くわけにはいきません。 「来なさい、バフォメット! あのゴリラをブッ飛ばしますわよ!」 そう叫ぶと、セシルは八木山 バフォメット(やぎやま・ばふぉめっと)を召喚します。 現れたバフォメットは嫌々といった様子で現れると、マンドラゴリラとセシルを見比べます。 「はて、お嬢様。ゴリラなら既に私の目の前におりますが?」 「貴方とは後でゆっくり『話し合い』をするとして……今はさっさと手伝いなさいな」 面白くてたまらない、といった様子のバフォメットの冗談をスルーすると、セシルはマンドラゴリラに向き直ります。 相変わらず口が悪いと思いつつも、そこは長い付き合いです。 「私はお嬢様と違って、あんな野蛮な植物と殴りあえるほど丈夫ではないのですがね……やれやれ」 さらっと流されたことを感じ取ると、仕方がないとでも言いたげな様子でニューラル・ウィップを構えます。 「皆様、これよりゴリラ同士が派手に殴り合います。巻き込まれぬようご注意を」 周囲の安全を確保できるようにしながらも、バフォメットは毒舌たっぷりの冗談を言う事を忘れません。 しかし、その言葉はあながち間違いではなかったでしょう。 バフォメットの目の前で始まっているのは、ゴリラのように強い女性と、ゴリラのような魔法植物との殴り合いだったのですから。 殴り合いなら負けない。 そんな自信のあるセシルのとった戦法は単純です。 それは、正面から挑み、乱打戦に持ち込むこと。 平たく言えば、一切の小細工無しでの殴り合い。 「ギャオオオ!」 「このおおお!」 「お見事です、ゴ……お嬢様」 紅茶の用意をしようと思い立ちながらも、バフォメットは心の底からの賞賛を贈ります。 黄金のゴリラと殴りあう、自分の主人の姿。 もう自重すればどうにかなるとか、そういうレベルですらありません。 百人にアンケートをとれば、どちらがゴリラという意見が大勢になるかは分かりません。 鍛えぬいた拳と技と肉体を信じて戦うセシル。 黄金のマンドラゴリラを轟音と共に殴り倒す姿に、バフォメットは生暖かくも遠い視線を送るのでした。 「あのマンドラゴリラを見て下さい。大猿→サイヤ人→黄金の大猿、あれが1000年に一度現れるという伝説のスーパーマンドラゴリラに違いないと思うんです」 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はそう言うと、黄金のマンドラゴリラをビシリと指差します。 「このままでは大変なことになるので、詩穂、がんばって退治させて頂きます☆」 格闘戦を選択しているということは、セオリー通りならば相手は魔法に弱い可能性があります。 いや、黄金のオーラで魔法を無効化する事もあるかもしれない……と詩穂は考えます。 けれど、詩穂には考えがありました。 「ここはあえて拳を交えてみたいんです! 自分の実力を試してみたいんです!」 相手の土俵にのるということは、決して上策ではありません。 けれど、詩穂はあえて、それにのることを選びました。 自分の実力を試したい。 その為に、わざわざ詩穂はこんなところまできたのです。 だからこその、格闘という選択。 「ギャオー!」 「きなさいっ!」 黄金に輝くマンドラゴリラが、一気に距離を詰めてきます。 それは、この洞窟の中で最強の種であることを証明する動き。 「お引取りくださいませ!」 けれど、詩穂だって負けてはいません。 周囲には、マンドラゴリラの姿はありません。 思う存分、自らの実力を試すべく。 詩穂は、マンドラゴリラへと突っ込んでいきます。 「聞こえたよ、ダリル。ほら、ギャオーって!」 「ああ。だが突然襲ってくる可能性もある。万事油断せず事に当たらければな」 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はそんな会話を交わしながら、曲がり角を曲がっていきます。 そう、この二人の目的もまた、黄金のマンドラゴリラでした。 「ギャオー!」 そして現れたのは青いマンドラゴラ達を統率する、黄金のマンドラゴラの姿。 「あれがマンドラゴリラか……なるほど、本当に植物なのだな」 ダリルはマンドラゴリラを観察しながら、そう結論を下します。 生き物と植物の決定的な違い。 心臓といった生き物に当然あるべき機関は、これにはありません。 文字通り、叩いて切って行動を止めるしかないでしょう。 「よぉし、油断せず頑張ろっか!」 神降ろしを行うルカルカとダリル。 その間にも、接近したマンドラゴリラの連打攻撃がルカルカを襲います。 「くっ……やるじゃない!」 避けきれずに攻撃を受けたルカルカは、魔剣ディルヴィングを振るいます。 ダリルもカタクリズムを発動させ、まずは取り巻きのマンドラゴリラ達を倒そうとします。 幸いにも、青いマンドラゴリラ達は黄金のマンドラゴリラ程ではありません。 事実、黄金のマンドラゴリラだけはひるむ様子すら見せずに襲ってきます。 「よし、マシンガンの準備は出来ている……いけるか?」 「弱点は見えたってことね……勿論、作戦通りにね!」 ルカルカは前へ進み、ダリルは後衛へ。 ただ暴れるしかできないマンドラゴリラとは違い、人間には作戦がとれるのです。 そう、ここから始まるのが人間ならではのコンビネーション攻撃なのです。 そして、その場所とは離れた場所でも。 人間ならではのコンビネーション攻撃が展開されていました。 「あれがレアでありますね……!」 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は武器を構え、視線の先にいる黄金のマンドラゴリラを見つけます。 「ギャオー!」 しかし、視線の先にいたマンドラゴリラも吹雪を見つけたのか、一瞬で距離を詰めて吹雪へと接近してきます。 それこそ、黄金のマンドラゴリラの攻撃射程内。 その後ろからは、他のマンドラゴリラ達もやってきます。 このままでは、初撃を受けてしまうでしょう。 けれど、吹雪は慌てません。 人間ならではの知恵と戦術。 それを最大限に活かし、吹雪は行動します。 そう、すなわち。 「えいっ」 イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)を黄金のマンドラゴリラの前へと蹴り出し、壁としたのです。 そして早速、黄金のマンドラゴリラの連打攻撃で洞窟の床に沈められるイングラハム。 大義の為の尊い犠牲。 そんな素晴らしい言葉の元に、イングラハムは地面とキスをします。 そう、素晴らしい自己犠牲。 その尊いイングラハムの行動を無駄にしないように、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)は黄金のマンドラゴリラへと組み付きます。 「まだ来るでありますね……!」 そう、吹雪達の背後からは、別の黄金のマンドラゴリラが挟み撃ちのようにやってくるのです。 いえ、違います。 やってきたのではありません。 そもそも、ここで黄金のマンドラゴリラがくるであろうことを予測して待ち伏せていたのです。 そこにたまたま、一緒にいた吹雪が別の黄金のマンドラゴリラを見つけていたのです。 「おおー金ぴかだー」 見事に黄金のマンドラゴリラを見つけ出したエメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)は、少し自慢げにそう言います。 「嫌な予感的中……あー、なんだろね、あの金ぴか……エメラダ、よりにもよってなんてものを引き当てるんだ!」 「なぜ怒る? わたしがんばった褒めて褒めて」 「ぐ、ああ、がんばったな」 いやな予感しかしないので文句を言ってみた猿渡 剛利(さわたり・たけとし)ではありましたが、褒めない理由はありません。 それにこれは、実践魔法学とかいう授業の体験実習でもあるのです。 少しでも強い敵に挑んだほうが勉強になるのは道理です。 「まぁ、弟子(剛利)の育成にはちょうどよかろう。せっかくだ、完熟に挑んでこい。なに、安心しろ戦闘のスペシャリストも呼んでおる」 「どうも、スペシャリストです」 「スペシャリストってその人かよ! よりにもよって暴走しそうな人選じゃねぇか! ていうか今まさに暴走してるじゃねえか!」 佐倉 薫(さくら・かおる)の言葉に、イングラハムを現在進行形で尊い犠牲にしている吹雪が良い顔で答えて。 「ん? なんじゃ? 文句がありそうな顔じゃな? なに、骨は拾ってやるから存分にぼこられてこい」 「いや、ていうか……」 どうすりゃいいんだ、と言いたげな剛利。 そこに、戦闘用イコプラと共に戦っていた三船 甲斐(みふね・かい)がスタスタと歩きながら剛利の後ろへと回ります。 「む、剛利のやつ臆しやがって、とっとといけや」 「負けもまた経験ぞ、さぁ、がんばって肉壁になってこい」 「肉壁かよ! こらー蹴り飛ばすんじゃねが、げふ、ぐえ、こ、これ、ダメ……ぐはー」 甲斐と薫に蹴り出された剛利。 そこが丁度良い位置だったのか、黄金のマンドラゴリラの連打攻撃の開始地点へと蹴り出された剛利。 見事な連打攻撃で、洞窟の天井へと叩きつけられます。 本日で、一番綺麗にマンドラゴリラの連打攻撃を受けた者を表彰するならば、それは剛利であるに違いありません。 素晴らしいまでに美しく攻撃を受けた剛利は、地面でピクピクと倒れます。 「し、死ぬ……」 「人は簡単には死なないでありますよー」 そんな無情な吹雪の声が響きます。 そう、戦いはまだ始まったばかり。 あと何回ゴリ乱舞を受ければいいのか。 それは、彼女達のやる気にかかっている。 その事実だけで、剛利は意識な遠のきそうになるのを感じるのでした。 「……なんか、諦めた感じの悲鳴が聞こえなかった?」 「さあ、それより前に集中しなさいよ」 洞窟の中で、二人の女性が黄金のマンドラゴリラと戦っています。 一人は、メタリックブルーのトライアングルビキニの上にロングコートを羽織るだけの姿。 もう一人は、黒いロングコートの下にホルターネックタイプのメタリックレオタードといった姿。 煽情的にも思える二人の格好ですが、植物相手では理解しているかどうかも分かりません。 そのうちの一人、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は両手のマシンピストルで牽制射撃を行います。 セレンフィリティ達の周りには、黄金マンドラゴリラ達の引き連れてきた取り巻きのマンドラゴリラ達が倒れています。 これだけでもチャンプルーを作るには充分でしょうが、折角のレア食材を逃がす手はありません。 とはいえ、相手は植物です。動物を狩るのとはわけが違います。 下手に銃で傷つければ、味が格段に落ちてしまう可能性があります。 「せっかくのレアものなんだもの。無傷で手に入れたいとこよね!」 「そうね。一撃で仕留めるわよ」 フロンティアスタッフを構えたのは、セレンフィリティの相棒のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)です。 セレンフィリティが料理作るとか言い出したのを、なんとか必死に言葉巧みにマンドラゴリラ狩りの方に向かわせたセレアナではありましたが……。 こんなに食材が手に入ってしまっては、ある程度は覚悟しなければいけないのかもしれません。 「結構手ごわいわよ、あれ。できる?」 「雑魚を片付けるまでは完璧に出来たんだから。最後の仕上げくらい、簡単でしょう?」 あくまで冷静なセレアナの言葉に、セレンフィリティも笑みを浮かべます。 そう、倒す為の策と手段は、すでに話し合ってあります。 そしてそれを実行するのは、この二人なのです。 ならば、出来ないはずなどありません。 「じゃあ、やるわよ。アイツには大人しくチャンプルーになってもらうわ!」 そう言って、セレンフィリティはマシンピストルを構えなおします。 地下洞窟の中では、それからも悲鳴と、歓声と。 様々な声や音が響き渡っていきます。 マンドラゴリラの駆除。 予想以上の豊作となった今年ではありましたが、それは地域住民への貢献と。 生徒達の実習という二つの意味をもった恒例行事でもありました。 そうして集まったマンドラゴリラで作られたチャンプルーは、とっても量が多くて。 集まったメンバーだけでは食べきれず、地域住民へと配られていくことになるでしょう。 最も、見た目があんまりよろしくないせいでイルミンスール魔法学校に苦情が届くのもまた、毎年の恒例行事であるようです。
▼担当マスター
相景狭間
▼マスターコメント
こんにちは、相景狭間です。 皆様、おつかれさまでした。 皆様の活躍で、マンドラゴリラは無事に駆除されたようです。 ちなみに、アーシア先生はエリザベート校長にお小言を言われたとか。 事前調査って大事ですよねっ
▼マスター個別コメント