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想いを取り戻せ!

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想いを取り戻せ!

リアクション

 
「やってくれるじゃねぇか? えぇ? お嬢ちゃん」
「ひっ、引っかかる方が悪いのよっ」
 急襲された荷馬車に仲間と共に戻ろうとしていた雅羅は孤立していた。
 何も好き好んでこうなったわけではない。
 運が悪かったのだ。
 出発前に全員でメンテナンスを行い、燃料も十分の補充した。
 念のためにと、二回もチェックを行ったのに。
 それにも拘わらず――突然のエンジントラブルである。
(どうして、こうなるのよ〜。私の馬鹿ー)
 雅羅は己の不幸体質を呪った。
 じりじりと距離を詰めてくるのは針金と樽――フラッパーとドミノだ。
「まぁ、足は壊れてんだ、逃げらないぜ」
「そうだ。逃がしゃしねぇ」
「あ、足がないのは――あんたたちも同じじゃない」
 そう。相手のスパイクバイクは目と鼻の先に倒れいてる。
 雅羅の愛銃がタイヤを打ち抜いたのだ。
 だが、その頼りになるバントラインスペシャルの弾丸も尽きた。
「それにね! 悪はどんな時でも滅びるの――よ!」
 銃を構える振りをして、二人の顔目がけて砂を蹴りあげる。
「うぁ!!」
「め、目が!! 目に砂が――」
「失礼するわよ!!」
 二人が呻いている隙をついて、雅羅は仲間の方――未だ乱戦の続く荷馬車の方を目指して駆け出す。
 が――しかし。
 ――ドシャ
 次の瞬間、砂に足を取られて物の見事にすっ転んだ。
「――キャッ」
 思わず悲鳴が上がる。
 口の中に砂が入ってじゃりじゃりするし、うかつに目を開ければさっきの二人の二の舞だ。
 だが、そんなことに構っている場合ではない。
 なんとか身を起こした背に声がかかる。
「やってくれるじゃねぇか? えぇ? 二度も三度も」
「そうだ。二度も三度も」
 半身を起こして振り返った雅羅の視界には幽鬼のような形相が二つ。
(あぁ――人間って怒りが過ぎるとあんな顔になるのね……)
 ぼんやりと、そんなどうでもいいことが脳裏を過る。
――グシャ!!
 覚悟して目を閉じようとした瞬間。
 雅羅の視界から幽鬼が掻き消えた。
「え? あ? 恭也?」
「おう。無事か。無事だな」
 続いて現れるたのは――見る者の虚をつくには十分な機械化ヒュドラと恭也だった。
 
   * * * 
 
 ――ヒュン!
 空を裂いて天から雨のように矢が降り注ぐ。
 ――ゴゥゥ!
 唸りを上げて空気が螺旋を描いて迫る。
 中空から弾丸のように雅羅に迫ろうとしてガーゴイルの勢いが削がれた。
「――チッ」
 ガレスは舌打ちすると手綱を繰って、中空で態勢を立て直した。
 少し離れた中空に二つの影――ペガサスとワイバーンが並ぶ。
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)だ。
「派手にやってるじゃない? 私たちも一枚噛ませてもらうわよ」
「助太刀するわ――」
 その言葉を口笛が遮った。
「知ってるぜ――弓使いの団長と天空騎士の副団長――」
 次いで、真空の刃がリネンとヘイリー目掛けて放たれる。
「――!」
「――デファイアント」
 二撃。続けざまに襲う高周波の見えない刃を躱す。
 距離を図り、再び対峙すれば――ガーゴイルに跨った男は愉快そうに笑っていた。
「“シャーウッドの森”空賊団がお出ましたぁ、恐れ入る」
 だが、目は笑っていない。
 油断なく、こちらの――リネンとヘイリーの動きを窺っている。
「あら?」
「私たちも有名になったものね」
「ハッ。空賊が盗賊を退治たぁ笑わせるぜ」
 軽口で応じながら切っ掛けを探す。
「退治? 違うわよ」
「縄張りを荒らす不届き者を取り除くだけよ」
「――ハハハハハ! 面白れぇ」
  と、不意に下が騒がしくなった。
 何かあったのか。
 人のものとは思えぬ地を這うような、空を裂くような――おそらくは女のものだろう怒声――いや咆哮が聞こえる。
 それに目の前の男の視線がちらと動いた。
 前を見据えたまま、細い手が弓をつがえ、弦を引き絞る。目にも止まらぬ早業だ。
 ――ヒュ ヒュ ヒュン
「その隙、もらった!」
 息を継ぐ間もない連射がガーゴイルを襲う。
 が、その多くはガレスの放つ高周波とガーゴイルの唸りで石となり、砂漠に落ちていく。
 生き残ったいくつのか軌跡が赤い線を引いた。
「ちっとは痛ぇなぁ。ええ? それで終わりか?」
「見縊ってもらっちゃ困るわ」
 その時だ。ガレスの上に影が生じた。
「そうか。もう一人居やがったか!!」
 それは宙を行く。 
 まるで階段を駆け上がるかのように、力強く、軽やかに。
 空を蹴り、遥か高みに昇ったペガサスが、主の言葉に従い、敵を目掛けて駆け下りる。
「残念だけど、空じゃ私の方が上みたいね!」
「――なるほど。確かに“天空の騎士”だ」
 ――ガキィィン
 両刃の長剣と片刃がぶつかった。
 衝撃が円を描いて広がる。
「さっ。大人しく、落ちなさい!!」
「――チッ、この!!」
 ぐらり。
 ガーゴイルが揺らいだ。
「ヘイリー。追うわ」
「えぇ。しっかり引導渡してやるわよ!!」
 落ちていくガーゴイルを追って、ペガサスとワイバーンも駆けだす。
 空の上。そこまでも広がる青空と風を味方にした彼女たちに負ける理由はなかった。