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リアクション
5. 拳の意味 〜 怒れるもの イカレたもの 〜
開戦の情報は当然、入口で待機するリカインにも伝わった。
端末の地図と照らし合わせながら、待機しているセイニィに伝える。
「今は中央の通路とその先の地点まぁ、食堂で野盗たちとぶつかったみたいね。右側は居住区域。左はこれから」
セイニィくんが行くなら左かなーと言い終わるよりも早く、セイニィを先頭に残るメンバーたちが走り出す。
「……それじゃあ、万一に備えるとしますか」
レゾナント・アームズがあればたいていのことはなんとかなる。
文字通り抉じ開けることぐらいは朝飯前だ。
「出番がないなら、それに越したことはないしね」
後姿を見送ってリカインは入口の壁に背を預けた。
* * *
アジトに留守番として残っていた十数名の野盗団。
露払いに先行した者、次いで突入してきた襲撃部隊が入り乱れ、洞窟内は芋の子を洗うような有様だ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるを地をでいく野盗のトミーガンの銃口が火を噴く。
――パン、パン パァーン!!
ダメージはたたが知れているが牽制には十分だ。
事実、後続の部隊はこの場に足止めされてしまっている。
剛太郎は両膝を曲げた。
銃撃が止んだ一瞬のタイミングで、そのバネを解放する。
低く飛び出した剛太郎は正に弾丸。そのまま野盗の一人を薙ぎ倒す。
「や、野郎!?」
「撃て!!」
――パラパラパラ
降り注ぐはずの弾丸は空中で停止する。
見えない力よって勢いを止められたそれは、続く一閃によって地面に叩きつけられた。
「命の保証しないってことは容赦はしないってことよ?」
「正義は時に無情――怒りを発憤。パープーンショット!!」
にっこりと笑うシルフィスティの後ろから、上手いこと言ったといわんばかりのいい笑顔であゆみが飛び出す。
手にした銃はクジラすら一撃で仕留めるという破壊力で知られる銃器だ。本当に容赦がない。
「いや、得物を。暁の剣を使え!!」
崩された態勢を立て直そうと野盗たちがわたわたと動き出す。
「――そこか!!」
踏み込んだ足を軸に剛太郎が魔法の武器を手にした男に向き直る。手にはいつの間にか愛用の銃。
一発の銃声の後、男の手から暁の剣が弾けて飛んだ。
「ここは自分たちが。あなた方は積荷を頼むであります」
道は開けた。
後続の部隊は頷き合うと食堂の更に奥――左右の横穴へと走り出した。
今回の任務はあくまで野盗の掃討。剛太郎にとっては積荷のことは二の次だ。
「……殺しはしない――けれど痛い目を見ていただくであります」
* * *
振り下ろされる斧を右の手で無造作に掴み取る。
籠手のおかげで刃が肌に傷をつけることはない。ただ、腕にじぃんと痺れが走った。
考えもなくただ繰り出されたのだろう一撃。軌跡を読むことは造作もなかったが、それなりの力はあったということか。
冷静に分析しながら橘 恭司(たちばな・きょうじ)は対峙する男をねめつけた。
「っ、野郎っ!? ――このっ」
男の顔に汗が浮かび、驚愕の色が広がっていく。
それはそうだ。自分よりも一回りも小柄な優男に得物を掴まれ、ぴくりとも動けないのだから。
恭司は幅広の薄い刃を掴む手に力を込める。その一点から鋼の刀身に亀裂が走った。
「――馬鹿なっ!?」
驚きの声に合わせて、斧がまるで紙切れの如く吹き飛ぶ。
追撃を逃れようと一歩飛びずさる男にそれを許さず、二歩間合いを詰める。
そのまま、用を成さなくなった得物を放り捨てた右の手を掴み取った。
――ぐしゃり
「ぎぁぁぁああ!!」
骨が砕ける耳障りな音と悲鳴があがるのはほぼ同時だ。
驚愕から恐怖へと変わった顔で地面を転がる男に一瞥もくれず、恭司は足を一歩進める。
「――ま、まて!! つ、積荷なら、積荷の場所ならっ……」
「まだ、だ」
低い声が恭司から上がった。だが、その表情はどうにも読み難い。
声色から伺える感情は怒りが一番近いだろうか。
その根底にあるものを理解できるのは、“運ぶ”ことを生業とする者だけかもしれない。
確かに品物は戻るだろう。
けれど、それでは間に合わない荷もあるのだ。
誰かが誰かを思って託される贈り物や手紙などはその最たるものだ。
「お前たちが奪ったものは、もう戻らん……相応の報いを受けてもらう」
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