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想いを取り戻せ!

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想いを取り戻せ!

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   3. 激突遁走曲  〜 くらえ! 怒りと正義の制裁 〜
 
 砂塵が巻き上がり、弾丸のような速さで同じ機体が駆け抜けていく。
 その尻にぶら下がるよるに派手かつ悪趣味にデコレーションされたバイクが続く。
 それを右斜め後ろから見つめる視線が一つ。
 ヘリファルテの上にるエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だ。
「これはまた――大漁だな」
 だが、まだ早い。
 餌に喰いついた盗賊を仕留める絶好のポイントにはまだ遠い。
 速度と雅羅たち本隊との距離を保ったままエヴァルトは指を鳴らす。
 
 上空では――
 ルカルカが今か、今かとダリルの指示を待ちかねている。
 
「来た。そのまま――」
 モニタと視界の情報を重ねながら、和輝が呟く。
「ギリギリまで引き付ける……」
 
「――わかりました」
 答えるのはパートナーと共に今回の作戦に参加している御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。
 次いで、自分の考えを述べる。と、ほぼ同じことを考えていた和輝が同意を示す。
「おそらく相手は集団で襲ってくるでしょう。まずは十分に引き付けてから、分断しましょう」
『敵戦力を分断させての各個撃破。俺もそう考えていた――基本だな』
 
 
「じゃあ、引き付けるのは私に任せて」
 囮役として参加している雅羅が胸を叩く。
「あ。待って、待って。私も行くわよ」
 雅羅に協力するために来たんだものと右隣で馬車を走らせていた白波 理沙(しらなみ・りさ)が声を上げる。
「囮が多い方が相手だってきっと食つくわ」
 よく言えば豪胆。悪く言えば怖いもの知らず。考えるよりも先に体が動く――理沙も雅羅も根っこの部分は同じだ。
「張り切るのはいいが、囮に熱中するのもほどほどにしてくれよ?」
 だが、うっかり孤立して、こちらが各個撃破されてはたまらない。
 もちろん、そんなことにはさせないつもりで同行しているのだが、釘を刺すくらいはいいだろう。
 理沙の隣でパートナーのカイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)は肩を竦めて見せた。
「大丈夫ですよ。私の結界もありますし。雅羅とマールに傷がつくような真似はさせません」
 雅羅の馬車の荷台で待機する綾乃が応じる。
 と、逃げるように飛都のヘリファルテが駆け込んできた。
 続いて報告の通り、進行方向の右斜め前で砂塵が上がった。
 続いて、派手なクラクションが響く。
『目標出現。作戦を開始する』
 和輝の言葉に頷いた理沙と雅羅が顔を見合わせる。
「きゃぁぁぁぁ!! 野盗よぉぉ!?」
「た、大変です!! 積荷を! 逃げなきゃ!!」
 理沙が素っ頓狂な悲鳴を上げれば、雅羅がそれに倣う。
 事情を知っている人間からしてみればこれほど白々しい演技もない。
 が、何も知らない上に頭の軽いフラッパーとドミノには効果覿面だった。
「ハッーハハハハハ!!」
「ダーハッハハハッ!!」
「「泣く子も黙る野盗団・レッドアームズ!! 大人しく積荷を渡しなぁ!!」」
「「いやー!? 来ないでー!?」」
 綺麗に台詞をハモらせて、理沙と雅羅は馬車をそれぞれ別の方向へと走らせた。
 
   * * * 
  
 まんまと釣られたバイク集団は二手に分かれて馬車を追い始めた。
 残る真人と和輝の馬車は、右往左往している風を装いながら、バイク集団を囲い込むように陣取る。
 次の瞬間――
「サンダーブラスト!!」
「今よ。アニス、真下に《雷鳴の札》をご馳走してあげるといいわ」
「真下だね。久秀。わかった。ちゅど〜ん♪ 雷注意報だよ」
 誘い込んだ敵を分断するように天から二つの雷鳴が降り注いだ。
「二人とも、今です!」
 真人の荷馬車の荷台から二つの影が飛び出す。
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)トーマ・サイオン(とーま・さいおん)だ。
「さあ、こっちよ! 私が相手になってあげるわ」
「なぁーんだ? バイクって以外にトロいんだな?」
 セルファは強化光翼で宙を。トーマは千里走りの術で地を駆ける。
「な、なんだぁ!?」
「チッ! やぁっぱり罠――」
 本気で抵抗すれば野盗団が体勢を立て直すために逃亡を図るかもしれない。
 負けず、勝たず。この匙加減が今回の作戦の難しいところだ。
 案の定、こちらが反撃してきたことを受けて、数台のバイクが反転を開始し、代わりに後方にいたヴォルケーノが近付いてくる。
「逃がさないぜ!!」
 トーマがすかさず、バイクの先へ回り込んで撤退を阻む。
「な!? なんだ? おめぇ――獣人か!?」
「当たり!」
 目を白黒させる野盗にトーマはニッと笑って見せる。
 次の瞬間、トーマは地を蹴り飛び上がった。
 そのまま空中横に向って足を広げれば、それは綺麗に助手席の男び首筋にヒットする。
 そして――そこ。先刻までトーマがいた空間をセルファの一撃が薙いだ。
 後に残るのは無残に壊れたバイクと失神した野盗だけ。
「一丁上がり!」
「まだよ。トーマ、次行くわよ」
 頷き合うと二人は逃げ出すバイクを追って、再び駆けだした。
 
   * * * 
 
 天に向かって炎が上がった。
 予め決めていた――敵動きの変化を伝える真人からの合図だ。
『敵がこちらの動きに――どこまで気付いたかはわかりませんが……撤退して合流するつもりです』
 通信と画面で戦況を確認したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はヘリファルテを右に向けて旋回させた。
 続いて、エンジンを最大出力まで上げる。
 餌に釣られた野盗どもを挟撃するためには絶好の位置に彼はいた。
 着かず離れずの状態で待っていた甲斐があるというものだ。
 速度を保ったまま、操縦をオートモードに切り替える。
(金品ばかりか、人の想いまで奪う輩をのさばらせてなるものか)
 ぐんぐんと距離が詰まっていく。賊としての仁義を欠い卑劣漢共の背中は目と鼻の先。
 ワイヤーを握るエヴァルトの手に力が篭り、瞳は義憤に燃え上がる。
(例え、神が許そうとこの俺が許さん!!)
――ギュルルルル
 ヘリファルテからワイヤーが伸びる。勢いよく噴出されたその先には――エヴァルトだ。
「説教と制裁どっち――なんて、お前らには必要ないよな?」
 降下の勢いのまま、明確な意思を持って繰り出された蹴りがバイクを操る野盗の後頭部に減り込む。
「――んな!?」
「ぐあ!!」
 背後からの衝撃に野盗がバイクから転げ落ちる。操舵手を失ったバイクの辿る結末は分かりやすい。
――グラリ
 不安定に左右に揺れるスパイクバイク。態勢を立て直そうと当然、助手席から手が伸びる、が、それは叶わない。
 ワイヤーを器用に操ったエヴァルトの足が左右に綺麗に開く。
 トン、と軽く力を込める。それだけでバイクは砂地に埋まった。
「お仕置きだ。己の乗り物で痛い目をみるといい」
 言い捨てるとエヴァルトは眼下のバイクを蹴りあげる。
 ワイヤーが大きくしなり、体が宙を舞う。次の瞬間、エヴァルトは再び機上の人となる。
 銃撃の嵐が空しく空気を切り裂いた。