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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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 早くも二機目を撃墜された“フリューゲル”部隊の動きにどこか焦りにも思えるものが混じり始める。そんな“フリューゲル”部隊を逃がすまいと、更に追い打ちをかけるように新たな機体がこの空域へと多数進入してきた。 
『私の新しい愛機フィニークス。紅蓮の翼もつ音速の騎士よ……。どうか力を貸して。恋しい金団長を助ける力を!』
 その声とともに不意打ち気味に放たれた五発の狙撃。残る機動力をフルに動員して咄嗟に避けたものの、漆黒の一機を除く三機の“フリューゲル”は銃撃がかするのを許してしまう。ダメージ自体はまだ致命傷に至るほどではないが、放たれた銃弾には五色の塗料とマーカーが仕込んであり、既に目的は果たされている。
『教導団の董 蓮華(ただす・れんげ)よ。前回の戦いからイコン訓練をつみ鮮紅を入手し備えていたわ。奴等は必ずまた来るって分ってたから』
『そして俺はスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)。救援に来たぜ、援護する』
 狙撃に続いて現れたのは声の主である二人。そして、二人が駆るイコン――鮮紅だ。
 鮮紅の狙撃に続き、今度は強力な砲撃が“フリューゲル”部隊に向けて放たれる。そして、直後に現れる新たな友軍機。
『シャンバラ教導団秘術科所属、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)であります! これより僚機と連携して蒼空学園の方々を援護するであります!』
『一生懸命な雲雀は好きだけど、頑張り過ぎるの禁止って俺言ってあるよね? 今回は乗機大破なんてやめて欲しいな――おっと、失礼。申し遅れたね。同じく秘術科所属のエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)だ。よろしく』
 手短に挨拶を済ませると、雲雀たちの愛機であるD.プルガトリオも戦列に加わる。更に、通常のイコンよりも一回り巨大な反応が友軍機のレーダーに出現する。識別信号はシャンバラ教導団。心強いことにまたも新たな援軍機だ。
『シャンバラ教導団中尉月島 悠(つきしま・ゆう)。我が身に代えても、敵は殲滅する』
『同じく麻上 翼(まがみ・つばさ)っ! ボクもいるよっ!』
 現れたのはシャンバラ教導団の誇る第二世代イコン――応龍のカスタム機であるヤーデリュフトヒェン。それを見た垂は咄嗟に声を上げる。
『悠! やっと来たか!』
『待たせてすまない』
 そう返す悠に垂は威勢良く、更に言葉を返す。
『いいってことよ! さ、とっとと片付けるぜ!』
『了解だ。行くぞ――!』
 光龍のいる陣形にヤーデリュフトヒェンが加わり、五機の編成となった直後、またもレーダーに新たな反応が観測される。
『禽龍ほどじゃないが、かなりの速さ――ってことはあいつか』
 垂が何かを読み取った直後、戦場に現れたのは鉄心のマルコキアスだ。
『遅くなりました。源鉄心およびティー・ティー、戦線に加わります』
 戦域に現れたマルコキアスに向けて垂は通信を入れる。
『調整の方は無事間に合ったみてぇだな!』
『ええ――生駒さんとサルーキのおかげですよ』
 その返事の意味が分からなかったのか、垂は一瞬、呆けたような声を出してしまうも、すぐに気を取り直して威勢の良さを取り戻す。
『へ? ま、細けぇことは後だ! 今は奴等をブッ倒すのが先だぜ!』
 乗り手の意志を反映したかのように威勢の良い振る舞いで武器を構え直す光龍。そのコクピットで今度はまとまった数の反応が観測される。
『お! 来た来た! 天学の面々のお出ましだぜ!』
 レーダーに観測された反応の識別信号を確認し、垂は上機嫌で声を出した。
 天学勢の中でまず最初に現れたのは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の駆るゼノガイストだ。それに続くようにして桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の乗る{ICN0004221#シュヴェルトライテ}も現れる。そして、二機の登場に続いて遠方から敵部隊に向けて長距離狙撃が放たれる。
『あたいらもいるぜ!』
『敵の機体及びパイロットを両方確保出来れば理想だが、前回の状況から考えれば『倒すのが精いっぱい』でこちらから手加減する余裕はないだろう。『機体を撃破した後、中のパイロットを確保』することを目標に戦うのが上策』
 共通帯域に流れる剛毅な女の声と知的な男の声。それに真っ先かつ同時に反応したのは鉄心とザカコだ。
『乱世さんとグレアムさん!』
『来てくれたんですね!』
 それに対し、またも豪放磊落な返事が来る。
『おうよ! この前戦ったコイツらが相手なら、あたいらが出てこない理由がねえからな!』
 声の主は狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)。狙撃の主は彼女たちの愛機であるバイラヴァだ。そして、バイラヴァに続きまた新たな一機も到着する。
『天御柱から救援に来た桐ヶ谷煉だ。各機へ、禽龍の攻撃で敵の機動力が大幅に落ちている今がチャンスだ。一機は何とかする、あとは任せたぞ』
 到着するなり早速、煉が全体への一斉通信でそれだけを伝えると、シュヴェルトライテは他の武装は全て捨て、空裂刀・真月だけを両手で持ち、剣を持った右手を耳の辺りまで上げて、
左手を軽く添える示現流蜻蛉の構えをとり、敵機目掛けて最大速度で急上昇する。
 煉が特技のイコン操縦をフル活用して細かなマニューバで相手の頭上を押さえるように高度をとるのはスピードで負けている分、頭上を押さえてチャンスのときに降下による加速を狙うためだ。
『ええいっ! みんな煉を援護するんだっ!』
 垂の合図で残る二機の濃緑色“フリューゲル”へと援護射撃が集中する。蒼空学園、シャンバラ教導団、天御柱学院の機体全部、更にはアルマイン・ハーミットとアシュラムの遠距離攻撃すべてが合わさって放たれる一斉攻撃を受け、シュヴェルトライテが向かっていく濃緑の一機は思うように動けない。圧倒的な機動性で回避しようとするが、それすらも追いつかず、じょじょに損傷が蓄積していく。少しずつではあるが着実に受けている損傷により濃緑の一機の動きは鈍り、遂にはあれほどの機動性で蒼空学園のイコン部隊を翻弄し、優位に立ち続けた“フリューゲル”は劣勢に立たされた。
『敵機機動予測装置――ブレス・ノウ機動。機体の出力リミッターも解除。さらに加速もかけてるぜ……やっちまえ煉!』
 シュヴェルトライテのサブパイロットシートでエヴァがコンソールを叩き、コマンドを入力を完了するエンターキーを叩くと同時に叫ぶ。
 寸前の所で致命傷を避け続けていた“フリューゲル”の一機は、シュヴェルトライテが接近してくるのに気付き、大出力のビームサーベルを抜いた。
 もはや被弾は避けられないと悟ったのか、大出力のビームサーベルを抜いた“フリューゲル”は装甲強度に任せて多少の攻撃はもろともせずにシュヴェルトライテ迎撃の姿勢に入る。禽龍の攻撃で性能が低下し、友軍の援護射撃のおかげで力を抑えられているとはいえ相手は圧倒的な機動性を有する“フリューゲル”。正面切って戦えば勝てる保証はない。だが、シュヴェルトライテは示現流蜻蛉の構えのまま急降下していく。
 そして接敵の瞬間、“フリューゲル”は相手より僅かに早く大出力のビームサーベルを突き出し、シュヴェルトライテを貫いた。
『この一撃、通してみせる!』
 しかしそれでもシュヴェルトライテは止まらない。光刃に貫かれたまま、示現流に伝わる『脈拍の8000分の1』という恐るべき速度での斬撃――雲耀之太刀を放って敵機を袈裟斬りした上、更にはそのままの勢いで敵機にぶつかり、地表へ一緒に叩きつける。
 もはや“フリューゲル”ほどの機体が相手となれば、いかにブレス・ノウをもってしても完全な予測、およびそれによる回避は不可能。されど、ごく僅かでも予想し、それに伴って回避率を上げることも可能なら、微かはあるが確かに上昇した回避率を活かして僅かに打点をずらし急所を外すことは可能だ。
 そして急所を外すことができれば即時大破は免れる。即ち、一撃を叩き込むだけの時間は得られるのだ。シュヴェルトライテが放った渾身の一太刀を受け、“フリューゲル”はシュヴェルトライテととともに地表へと落下していった。