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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

『……何者だ? 随分と物騒なモン振り回して?』
 再び音楽と共に流れ出す敵の音声。それを受け、新たな声が通信帯域に聞こえてくる。
『葦原明倫館陰陽科所属、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。一人の剣士として、そして忍びとして、俺が相手になろう}」
『そしてわらわはエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)。我等は悪を断つ剣! 貴様等を止める者だ! この名を魂に刻んでおけ!』
 唯斗とエクスの二人が名乗りを終えるとともに彼等の愛機――魂剛は握った鬼刀の切っ先を持ち上げ、漆黒の機体へと突きつける。
 張りつめた緊張感の中、唯斗は友軍機へ一斉送信で通信を入れる。
『遅くなってすまない。葦原島から急行した後、念の為にArcemで補給を受けてきたゆえ――さて、ここは俺に任せてほしい』
 その一言に友軍の通信帯域は騒然となるが、ざわめく仲間たちを制したのはレリウスだった。
『大丈夫だ。ここは唯斗に任せよう。強敵、それも格上相手との一騎打ちならば唯斗には既に実績がある。だから、今は唯斗を信じるべきだ』
 説得力を持って響いたレリウスの声に、騒然としていた仲間たちは一斉に静かになる。ざわめきの止んだ通信帯域の中でただ一つ、唯斗の声だけが響き渡る。
『かたじけない』
 そこで言葉を切ると唯斗は通信可能な帯域を戦場全域へと設定し、敵にも聞こえるようにした上で高らかに名乗りを上げる。
『葦原明倫館所属、紫月唯斗ならびにエクス・シュペルティア。いざ、尋常に勝負――!』
 名乗りとともに魂剛は、驚くべきことに『空を踏みしめ』、何もない空間の上を走り出した。エナジーバーストを刀に収束させた時の応用で力場を足元に収束させ擬似的な足場を形成し、文字通り空中を駆けるているのだ。
 最初の一瞬こそ驚いたそぶりを見せたものの、漆黒の機体はすぐに我に返ってプラズマライフルを魂剛を狙い撃つ。
(空に足がついている以上は体術で回避すれば良い。彼奴もやっていた……なら、不可能じゃない。紙一重を見切る!)
 自らの心に巣食う恐れを払うかのように言い聞かせながら、唯斗は魂剛を駆った。それを受け、魂剛は摺り足などの体捌きでプラズマライフルの銃撃を受けていく。しかしそれでも射撃の腕は漆黒の機体のパイロットの方が一枚上手だ。無数のフェイントの中に混ぜられた一発が魂剛へと迫り、そして魂剛はそれをかわしきれない。
『……なッ!』
 先刻、魂剛が『空に足を付けて走った』時は驚きの声を呑みこんだ敵も、今回ばかりは驚きのあまり声を上げるのを禁じ得なかった。
『刀と足場にバリアを集中させた変わりに機体を護るフィールドは無いけどな。ビームなら斬れば良い。アイツと俺の条件は同じ……なら、出来る!』
 なんと魂剛はアンチビームソードで真正面からビームの銃撃を斬り払ったのだ。
『やるじゃないか……ミスター・ニンジャ!』
 気を吐くや否や、漆黒の機体は圧倒的な加速力で超高高度へと急上昇する。そして、プラズマライフルの銃口を斜め下に向け、その銃身にありったけのエネルギーを充填していく。
『その時を待っていた!』
『行け! 唯斗! 今が攻める時だ! 微調整はわらわが随時補正する! 全てを出し切れ! 出し惜しみは敗北に繋がるぞ! 引き出しは全て開けろ! そして己を過信するな! だが信じろ! 限界など何度でも突破してやれ!』
 魂剛も負けてはいない。超加速を開始すると、力場を纏った足で階段あるいは坂を駆け上がるように高高度まで一気に追いすがり、エナジーバーストでコーティングした鬼刀で、超高速を超えたその先にある速度で刃を振るう絶技『 』(うつほ)を繰り出そうとする。
 だが、漆黒の機体がトリガーを引く方が一刹那早い。最大出力で発射された超巨大な光条が光の柱となって呑み込まんと襲い掛かるが、魂剛は構わず突撃した。
『その程度の砲撃なんざ斬り払ってやる! 負ける訳にはいかないんだよ! 彼奴に、名も知らない剣士に勝った以上は!』
 超高速の反応速度でプラズマライフルの最大出力すらも斬り払う魂剛。防いだ一瞬の間を更に加速して踏み込み必殺の一撃を叩き込む。鬼刀をビームを斬る事に使わされても奥の手――『返しの太刀『虚』(うつほ)』がある。魂剛は鬼刀を振った勢いに乗せ逆手に持ったアンチビームソードで更にもう一歩踏み込んだ超高速の連撃を放った。
 逆手に持ったアンチビームソードは間違いなく漆黒の機体を斬りつけた。しかしながら、面妖なことに魂剛が振るった刃は、まるで空を斬るように漆黒の機体を通り過ぎて行ったのだ。
『……危ない所だったぜ。さっきの銀色の奴といい、ミスター・ニンジャといい、随分と凄いパイロットが集まってるじゃないか』
 突如として入った敵からの通信にはっとなる唯斗。そんな唯斗を叱咤するようにエクスの声が響く。
『後ろだ! 唯斗ッ!』
 咄嗟に魂剛が振り返ると、そこには傷一つない姿で漆黒の機体がいた。その手には大出力のビームサーベルが握られており、今まさに魂剛へと振り下ろされようとしている。
 魂剛、危機一髪。その時、また新たな機体が高速でこの空域に飛来し、魂剛と漆黒の機体の間に割り込むようにしてフライパスした。一歩間違えれば激突しかねない割り込みをやってのけたその戦闘機型の機体――ファスキナートルは即座に人型に変形し、更にエナジーバーストを展開して発生したバリアを纏わせた高周波ブレードで敵の光刃を受け止める。