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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

 まずは両機ともに急上昇。高度の確保は空戦におけるセオリー通りだ。
 上昇可能な高度まで到達した両機はまず正面からぶつかり合う。この激突において相手の高度を下げた者が空戦的優位を得るのだ。
 ファスキナートルは果敢に攻め込み、敵の背後を取れるか試みるが、漆黒の“フリューゲル”もさるもの。後ろを取ろうと迫ってくるファスキナートルを圧倒的な機動力で振り切るととともに急旋回。一転してファスキナートルの背後を取る。
 漆黒の“フリューゲル”は背後を取ったファスキナートルに向けてプラズマライフルを構え、それとほぼ同時にトリガーを引き絞って光条を放射するが、その寸前にファスキナートルは螺旋を描く軌道のマニューバ――バレルロールを繰り出し、光条は飛行軌道の螺旋の中心を貫通するように通り過ぎていく。
『やるじゃねえか!』
 通信を入れて賞賛するとともに口笛を吹く漆黒の“フリューゲル”のパイロット。直後、漆黒の機体は大出力のビームサーベルを抜いた。
 一方のファスキナートルも水平飛行に復帰すると同時に急旋回し、再び漆黒の機体の背後を取ろうとする。
 旋回性能の差においては漆黒の機体に圧倒的に分があった。背部の飛行ユニットが生み出す爆発的な推進力と計算し尽くされた揚力は空戦における圧倒的な機動力を揺るぎないものとしており、2022年現在ロールアウトしている現行機はこれに比肩することはおろか、追従することすらできない。
 その圧倒的な機動力をもって漆黒の機体はファスキナートルを振り切り、逆にその背後へと最接近して、光刃の届く距離まで肉薄しようとする。
『もらったぁッ! ……なッ!?』
 旋回につぐ旋回の後、ファスキナートルがまたも旋回機動に入った瞬間、荒々しい叫び声とともに漆黒の機体が仕掛けた。ファスキナートルと同じく旋回機動に入り、背後へと急接近する。しかし、漆黒の機体のパイロットの叫びは雄叫びから驚愕の叫びに変わった。
 漆黒の機体と同じく旋回機動を取っていたファスキナートルはループが頂上に達しようかという所で敢えて失速、そこから更に横滑りして斜め旋回へと軌道を変更することで旋回半径を大幅に短縮したのだ。
『まさかこのマニューバはッ……!』
 旋回半径を大幅に短縮してのけたファスキナートルに危うく背後を取られそうになりながら漆黒のパイロットは驚愕に震えた声を絞り出す。空戦用の機体を駆る者として、ファスキナートルがやってのけたこのマニューバは当然知っている。
 かつて人類史に燦然と輝く伝説的名パイロットが成し遂げたとされる空戦機動――
『左捻り込み――ッ!』
 佐那の技量に驚嘆の叫び声を上げた時、既にファスキナートルは漆黒の機体の背後を取っている。
『ご名答。これで決めにさせてもらうわ』
 通信で漆黒の機体のパイロットの叫びに佐那が答えると、ファスキナートルは即座に最大加速しながらエナジーバーストを発動。トップスピードで機体ごと当りに行く。
『当てられて……たまるかよッ!』
 背後からトップスピードで突っ込んでくるファスキナートルに対し、漆黒の機体は推進機構のノズルの向きを小刻みに変えての急激な方向転換――ベクタード・スラストを繰り出すことでからくも回避するが、すぐさまファスキナートルはスラスターを吹かして急速に上昇。一気に高度を稼ぐと同時に自らもベクタード・スラストを行い、それを活かして水平飛行中に進行方向と高度を変えずに機体姿勢をピッチアップし迎角を90度近くに変え、そのまま後方に一回転させ水平姿勢に戻る機動――クルビットに繋げる。
 一連の動作によって漆黒の機体を眼下に捉える位置に陣取ったファスキナートルはヘッドオンの状態から容赦なく射撃を開始した。
 20ミリレーザーバルカンとレーザーマシンガンの光条、そしてミサイルポッドから発車された弾頭の数々が頭上から漆黒の機体へと襲いかかる。
『うおおおおッ!』
 もはや弾幕に近い一斉掃射を頭上から受けて漆黒の機体は一気に窮地へと立たされるものの、持ち前の圧倒的な機動性と先程から垣間見せる卓抜した操縦技術を駆使して、頭上から迫る射撃のことごとくを紙一重で回避していく。それだけではない。漆黒の機体は回避だけに留まらず、敵弾の合間を縫って上昇を繰り返し、こともあろうに掃射をかいくぐりながらファスキナートルの背後を取ってみせたのだ。
『あっぶねぇ所だったぜ……だが、これで終わりだッ!』
 再び背後を取った瞬間、漆黒の機体は推進機構からの膨大なエネルギー放出による爆発的加速でファスキナートルの至近距離まで一気に接近し、大出力のビームサーベルを振り上げる。対するファスキナートルも負けじと速度を更に上げて再びトップスピードに至り、追いつかれまいと高速で飛行を続ける。