百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション公開中!

【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

『久し振り。先日は見事な一騎打ちだったわ』
 たった今割り込んできた機体から入った通信を聞き、唯斗は相手が誰であるかを理解した。
『成程。そなただったか』
 割り込んできた機体のパイロット――富永 佐那(とみなが・さな)は唯斗に向けてなおも語りかける。
『性能差は百も承知。でも、何の考えも小細工も無しに来たわけじゃない。だから今度は、あたしの勝手を聞いて欲しい』
 そこで一旦言葉を切ると、佐那は小さな声で付け足した。
『最初で、最後の我儘になるかもしれないから』
 唯斗が静かに耳を傾ける中、ややあって佐那は真剣な声音で言う。
『あの黒いのとドックファイトを、やらせて欲しい』
 佐那に続き、彼女サブパイロットを務めるエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)も唯斗に語りかける。
 今回、佐那の仲間である足利 義輝(あしかが・よしてる)立花 宗茂(たちばな・むねしげ)は学園に待機しており、勝負に臨むのは佐那とエレナの二人だ。
『勝手な御願いとは百も承知です――しかし、これもまた騎士の立ち合いに同じ。大空の騎士は古来よりドッグファイトにて雌雄を決して来たのです。斯様な相手に礼節を論じるのは違う事も承知ですが、ドッグファイトを認めて頂きたいのです』
 二人から語りかけられ、ほどなくして唯斗も口を開く。
『うむ。前回のこともある。ならば今回は俺が見届けよう』
 そう答えると、唯斗は魂剛を操作して後方へと退いた。
『話は済んだみたいだな』
 唯斗に続き、今度は漆黒の機体のパイロットからの通信が佐那へと入る。
『ええ。時間を取らせたわね』
 そう前置きしてから佐那は漆黒の機体に向けて毅然と言い放った。
『貴方に一騎打ちを申し込むわ。一対一のドッグファイトで決着を付けましょう』
 漆黒の機体の前に仁王立ちする佐那の機体は再び戦闘機形態に変形する。短い沈黙の後、再び入ってきた通信は敵機からのものだった。
『いいだろう。サシでガチンコの勝負――乗ってやろうじゃないか』
 漆黒の機体は佐那のファスキナートルから程よい距離まで移動しホバリングすると、抜き放ったままのビームサーベルを構える。それと当時に通信回線を通して聞こえてくる音楽がより激しい曲調と疾走感のものに変わる。どうやら漆黒の機体のパイロットが再生中の楽曲を変えたらしい。まるで爆音のような演奏と咆哮のようなヴォーカルが破壊兵器のように響き渡るその楽曲は、きっと敵パイロットにとって勝負用のBGMなのだろう。一騎打ちに応じるというのもあながち嘘ではなく、むしろこのパイロットとしてもやぶさかではないのかもしれない。
『合図はどうする?』
 敵機からの通信に佐那は即答する。
『三つ数えたら始めましょう』
『いいぜ』
 佐那の提案に了承すると、漆黒の機体は手足を弛ませる。来るべき瞬間に備えて手足から必要以上の力を抜いていく様は実に人間味のある動きだ。
『3……』
『3……』
 通信を通して佐那と漆黒の機体のパイロットの声が重なり合う。
『2……』
『2……』
 来るべき開戦の瞬間に向けて、二人の声も自然と引き締まっていく。
『1――』
『1――』
 そして、両機はまったく同時に動き出した。