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忘却の少女

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忘却の少女

リアクション

   
〜 最終日・午後6時 学園エントランス 〜
 

【ヤクモ】が目覚めてからは、遺跡の予定は実に簡潔な流れで終わりを迎えた
 
ただ素直に、清涼な光景を楽しむ彼女と皆が共に散策をし談笑をして終わる
彼女としては、もう少し突き詰めたところまで話を進めると思っていたのだが、何故か誰もそこまでは至らず
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も仲間と共に満足したような様子で
渡しそびれた【薔薇とガーベラのプチブーケ】を彼女に届けて去っていった
 
ついでに何か自分が忘れたような気がして、少し逡巡していたヤクモだが
それが自分が手にしていた指輪だと気がついた時には、入り口で待っていた山葉 涼司(やまは・りょうじ)と共に
すでに遺跡を後にした後だった

雅羅達に尋ねると皆誰もが口をそろえて【落としたんじゃない?】というのが不思議だが深く考えるのはやめる
そもそも今日一日がどこか夢見心地のような不安定な感じなのだ、記憶はあるがどこか現実感があいまいな不安定さ
それが自分の【整備不足】という不安なのかと思ったら
それを察したダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、あとで診てやるからと優しく答えてくれた
 
 
そんなわけで、ぞろぞろと皆揃って校門を抜けた時
遠くに見える小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と思わしき迎えの影の隣に、一人の人影をヤクモは見つける
向こうもヤクモの影を見つけて元気良く駆け出してくる
それが同じ髪と目の色を持つアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)だと気がついたときには元気良く抱きつかれた後で
突然の事にあわわわと戸惑うヤクモに顔を近づけて、満面の笑顔で迎えの言葉を彼女は送った
 
 「おかえりなさい!ヤクモ」
 
たったそれだけの言葉なのに、なんだか抱きつかれた事も含め、嬉しい気分にヤクモも嬉しげに笑みを返す
その一幕に黒幕を察したルカルカ・ルー(るかるか・るー)がパートナーを見ると
自然を装って当のダリルが目をそらした

やや世話焼きの度が過ぎてるきらいもあるが
アイビスの生い立ちと、それが今回の謎の解明の切っ掛けになった事を考えるとやむなしと思うルカルカである
共に人から機晶の体を持った者同士、偶然とはいえ共通の容姿を含め、共に歩んでいければいいと思う
 
 
 「さ、全てのスケジュールは終わったわけだし、後は最後の締めだけだよ!」
 
美羽の言葉と共に、そのまま校庭に案内されてみると
そこには仮設で作られたステージ、そしてこの3日間で関わった全ての者が戻ってきたヤクモ達を出迎えていた
 
 「あの……すいません、これは?」
 「決まってるでしょ!【新入生歓迎会】……文字通り、新しい新入生をみんなで歓迎しようってわけ!」
 
当然とばかりに胸を張って言う美羽に目を白黒させていると
半被姿で気合十分のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が元気良く走ってきた
 
 「いやぁ、前にも言いましたが
  学校案内を殆どの人に奪われちゃったんで、あちきが出来る事を考えたらこんな事になっちゃいまして
  目黒プライベパラミタ支部取り仕切りのプライドにかけて
  取りあえず記憶がないなら愉しい記憶を植え付けちゃいましょうって事で!あっはっは」
 「……もしかして、雅羅さんが昨日忙しそうにしてたのはこの為だったんですか?」
 「そ、突然言われて大変だったんだから……彼女のプランに任せると花火まで打ちあがりそうだし」
 「レティのペースで突き進んだらきっと彼女疲れちゃいますから、時々ブレーキを掛けて速度調節をしませんとね」
 
レティシアの隣で会話に加わった新たな人影をヤクモは見つめる
目が合いミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)はニッコリと微笑んでヤクモの手をとった

 「はじめまして、ミスティ・シューティスと申します
  さ、一緒に付いてきてください、専用の席も用意してますから」
 「は、はわわわわわわわわ」
 
ほらほらと手を引っ張り、ステージの前まで連れて行かれ、ヤクモの戸惑いの声だけが軌跡を残して遠ざかる
美羽や雅羅だけでなく、山葉夫妻やルカルカ……遠くに見える1日目に一緒だった面々までも共犯だったらしく
ヤクモを見送りながら、それぞれがよーしと意気込んで持ち場につき始める
 
 「おかえり、とりあえずお茶でもどう?」

清泉 北都(いずみ・ほくと)が迎える席に着き、差し出されたミルクティーを手にとって見渡せば
席にはリネン・エルフト(りねん・えるふと)川村 詩亜(かわむら・しあ)皆川 章一(みながわ・しょういち)
それぞれの仲間が席に座ってこちらを見ている
奥の方では【林田家ご一行様】とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)琳 鳳明(りん・ほうめい)達もいるようで
何だかそれぞれの仲間とぎゃあぎゃあ騒いでいる声が、数日前のままに聞こえてきた
 
そうして満を持してステージのライトが灯る

そこにはステージ衣装に身を包んだ五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)ベル・フルューリング(べる・ふりゅーりんぐ)
そして瀬乃 和深(せの・かずみ)の姿があった
 
 「はじめまして、ヤクモさん……えっと、五百蔵 東雲といいます
  色々話を聞いていて、ヤクモさんを元気づけたいと思たんだけど……励ます方法が思いつかなくて……
  俺に出来ることと言ったら、歌ぐらいで、和深もベルもそうだから、こうやって歌を届けようと思ったんだ」
 「わたくしも同じ【機晶姫】なのです
  でもわたくしが作られた存在意義は【歌うこと】なんです、そんな生き方もあるんですのよ
  だからこそ、この先どんなことがあっても歩いていける勇気がもてますように
  そう願いをこめて、貴女の幸せへの祈りとともに、歌を届けさせて頂こうと思いますの」
 「あんたの心に何か響くことを願って……聴いてくれると嬉しい、よろしくな」

それぞれの言葉と共に、ステージの所定の位置につく

 「それじゃ!満を持してのスペシャル新入生歓迎会の始まりです〜!!」

レティシアの声と共にステージから音楽が鳴り響く
調べにあわせて東雲達の歌声が校庭に響いていく……その三重の旋律に誰もが耳を傾け
軽やかな歌声が夜空にどこまでも伸びていく
 
 
その何処までも広がる想いの旋律が、体を振るわせる様な気がして……その調べにヤクモは身をゆだねる
歌に込められた願いが体を通り抜け、その煌びやかな音色が体に溢れている気がして……
 

 
気がつけば、ヤクモは旋律にあわせて共に歌を歌っていた
 
ステージの東雲だけでなく、雅羅達もその歌声に驚き、静かに彼女を見つめる
それは東雲やベルに負けないくらい、何処までも透明な音色
自分達のそれと絡み合い、広がっていく旋律に東雲達は顔を見合わせ、和深がヤクモの前に降り立ち手を引く
 
 「どうせなら、一緒に歌おうぜ!」
 「………はいっ」
 
戸惑いつつ、体から溢れる調べを止められず、ヤクモはステージの上に移動した
 
 
 「そうか……これが【ツクモ】の言ってた……」
 
遺跡での会話を思い出し、雅羅が全てを悟る
 

 『ひとつだけ、この子が生きていけるように、贈り物を残します』
 
 

 「ヤクモさん……【歌姫】だったんですね」

アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)も気がついたようで、雅羅に静かに話しかける
それは、争いを嫌い、共に幸せを願った彼女の【両親】が彼女の為に送った贈り物
 
新しく生を受けた少女が、今を紡ぐ為に渡されたたった一つの宝物
 
 
 「大丈夫、彼女はこの世界で生きていけるから……心配しないで……【ツクモ】」
 
彼女の生を託した【母親】に誓うように、雅羅がヤクモを見つめながら呟く
みれば、ヤクモは何処までも広がる歌声と共に、その夜空に精一杯の両手を広げる
 
 
 
どこまでも祈りの声が届くようにその手の向こうまで広がる歌声



それが届いたかのように、指の間から見える無数の星空が、彼女に向けて瞬いた気がした
  


 
 

担当マスターより

▼担当マスター

OGA-SAN

▼マスターコメント

今回当シナリオを担当させて頂きました、OGA―SANと申します。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回で8回目のマスタリングになりました
 
夏のゴタゴタ巻き込まれ、まぁいつもの如く遅延です…もうデフォルトです、土下座もんです、すみません
 
そんでもって、予告どおり、前シナリオ【水晶の花に〜】の続きシナリオになります
前回のカラクリが何ともロマンもへったくれもなかった分を取り戻すかのようなこの【乙女回路】は何だろね
なんか途中、気が触れたかのようなポエムっぽいのもあったりしてマジスンマセン
 
まぁもうみなさんお解りの通り、自分のシナリオの軸となるキャラをぼちぼち……と考えたとき
この世界に入りたての自分と同じ存在にして、一緒にこの世界と触れ合っていこうと思って考えたシナリオです
【記憶が無い】【なんだか前回の良くわかんない謎ひっぱり】というクエスト要素が少ない条件で
本当に皆さん、真摯に彼女に接したアクションを書いてくださって感謝感激です
 
『記憶を取り戻す事をどう思うのか』というテーマゆえ
皆さんの意見もシンプルになるので、皆が同じ言葉を発する結果になってしまうのですが
それでもPLさんが積み重ねてきた、そんなそれそれの時間の連なりで意味も重さも変わります
 
ゲームシステム的にはやや【ご都合主義】になってしまうのですが
みなさんが彼女の事を考えて紡いだ言葉を無駄にしないように、色々判定と構築をしたので
やはりアクションと行動が変わってしまった方もいらっしゃいます
 
それでも、これもひとつのシナリオで自分の拙い作風ですので、ご理解いただけると助かります
いやでもホント採用したい素敵台詞が多かったんです……拾えない自分の技量が悔やまれる(血涙)

まぁホントぼちぼち慣れてきたので、ガチアクションのガチ判定のシナリオもやりたいと思いますけどね


今回の称号ですが、明確に【友達になりたい】という意思をアクションと共にはっきり書かれた方にお送りします
ちょっと抽象的な名称ですが、彼女が今後出てくる話で、友達の証として掲げて頂けると嬉しいです


ちなみに髪と目が一緒な某方ですが、本当に類似点があって驚きでした、いやミラクルってあるのね

そんなわけで、また機会がありましたらよろしくお願いいたします
次も今までのシナリオとちょっとクロスフェードする内容を考えてます
そうやって少しずつ広がりながら、各シナリオに関わったPLさんが交流していければいいなぁと……てへ


ではでは皆様、次のシナリオでお会いしましょう


………しっかし時期的に新婚さん多いのな、そうやって今の幸せを満喫するといいさ(←リアル既婚者心の声)