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リアクション
【十二 退くが肝要】
竜造は、古代遺跡群方向から駆け出してきているヘッドマッシャーに気付いた。
先の戦闘で受けた打撃は甚大ではあったが、ここで再び相まみえたのだから、手を出さない筈がない。据え膳食わぬは何とやら、といったところか。
しかし竜造は、追撃の為に少しばかり歩を進めようとしたところで、すぐに足を止めた。
今、彼の前を通り過ぎようとしているヘッドマッシャーには、両腕があったのである。
つまり、先の戦いで竜造に手酷い打撃を与えたヘッドマッシャーとは、別の個体であると考えられるのだ。
(まさか……奴らは複数体、存在するってことなのか?)
単独で行動している為、その辺りの情報は全く入ってきていない。
竜造はこの時初めて、ヘッドマッシャーが部隊として存在している事実を認識した。
(何てこった……鏖殺寺院は、あんな化け物を部隊単位で揃えてるってのか?)
恐れるというよりも、寧ろ呆れた。
と同時に、随分と戦意が失われてしまった。
(唯一無二の化け物だと思ってたんだが、単なる量産品だったって訳か。何か一気に、やる気が失せちまったなぁ)
内心で残念そうに溜息を漏らすと、手近の岩に腰を下ろして一服した。
帰ってから、何食おうか――既に竜造の意識は、今夜の夕食へと切り替わっていた。
だが、古代遺跡群の方ではまだまだ、事態が収まる兆しは見えていなかった。
ヘッドマッシャーは全て散弾地雷自爆で肉塊と化すか、或いは撤退していった為、当面の危機は脱した。
ジェニファーを守り抜くという最大の目的は達した訳だが、しかしその結果としてもたらされた被害は決して尋常ではない。
何よりも衝撃的だったのは、捕虜の管理を任されていたヴァーノンが殺害された、ということであった。
彼は死に際、
「軍服野郎にいきなり、やられた」
といい残して、息を引き取った。
更に、ヴァーノンを殺した敵は捕虜として捕えていたパニッシュ・コープスの兵達も殺害していた。恐らくは目撃者をひとりも残すまい、という措置であろう。
ヴァーノンの死に衝撃を受けたのは、アヤトラ・ロックンロールの面々だけではない。レキとチムチムも、少なからず動揺していた。
以前、ヴァーノンと戦った時は相当に手強い相手だと認識していたレキとチムチムにしてみれば、そのヴァーノンがこうもあっさりと殺害された事実に、信じられないといった思いを抱く以外に無かった。
一方、アヤトラ・ロックンロールの面々はというと、確かにヴァーノンの死は衝撃と悲しみを与えはしたのだが、同時に、仕方が無いというような、諦めに似た空気が漂っていたのも事実であった。
その奇妙な空気を、日奈々とアリーセ、そして真人の三人は敏感に察知していた。
「デーモンガスさん……ヴァーノンさんが死んだのに、どうして、その……納得したような思いを、抱いているのですか……?」
日奈々の指摘に、デーモンガスは苦々しげな呻きを漏らした。
更に真人とアリーセが言葉を続けて、一気に畳み掛ける。
「もしかして、この展開はある程度予測していた、ということはありませんか?」
「それに、ヒラニプラからの情報で、あなた方がヘッドマッシャーについて最初から知っていた、という報告もありますが、その点についてはどうお考えですか?」
ここまで来ると、最早隠し立て不要だと考えたのか、デーモンガスは鋼鉄製マスクの中で、大きな溜息を漏らした。
「既に知っているなら、もう良かろう。お前達のいう通り、こちらはヘッドマッシャーの何たるかについては、お前達以上に情報を持っている」
そのひと言で、全てが一変した。
アヤトラ・ロックンロールは、ただの野盗団などではないということが、ようやく白日の下に晒された格好となった。
デーモンガスとジェニファーは、レオンからの接触があった時点で、ヘッドマッシャーがパニッシュ・コープスとは関係無く、別の目的の為に襲ってくるであろうことを予感していた、というのである。
ここで初めてデーモンガスは、ジェリコの存在について明らかにした。
「奴らの狙いは、ジェリコの所在を確認することにあったのではないかと推測しておる」
プリテンダーであるジェリコは現在、本来の姿とは異なる別人となって、アヤトラ・ロックンロールにかくまわれている。
ヘッドマッシャー達はジェリコが誰の姿を取っているのかを確実に見極めた上で、一撃必殺での抹殺を企てていたのではないか――デーモンガスは、そんなことまで予測を立てていた。
そして、その予測は当たっていた、と彼はいう。
「もしもの時の為に、奴らに対する目くらましとして、ヴァーノンにはジェリコの体内に埋め込まれていた認識コードチップを移植しておいた。ヴァーノンが襲われたのはまさに、奴らがジェリコ抹殺を企てていたことを示す最大の証拠だ」
チップを移植しろ、といい出したのはヴァーノンだったという。
つまり今回彼を襲った悲劇は、自身でも納得ずくであったらしい。だから彼は、死に際には恨み言など一切口にしなかったのだが、その代わり、重要な情報を伝えてくれてもいた。
「軍服野郎にやられた、といっていた……ってことは、もしかして」
理王が、言葉を失う。
彼がいわんとしている内容を肯定するかのように、アキラが重苦しい表情でその続きを口にした。
「敵の狙いは、プリテンダーを俺達の中に紛れ込ませて、ジェリコなる人物の暗殺を狙っていた、ってところだろうな」
アキラの推測に、デーモンガスは深く頷いた。
「ジェリコは、我らアヤトラ・ロックンロールのメンバー全員の脳波を把握している。もし仮に、我らの中に敵プリテンダーが紛れ込んだとしても、脳波の違いですぐに見分けがつく。だが、お前達は今日ここに来たばかりだ。如何にジェリコとて、初めて感じる脳波の中にプリテンダーが紛れ込んでいたとしても、見分けなどつく筈がない」
つまり、レオン率いる交渉部隊は、ヘッドマッシャーの隠れ蓑として活用されていたことになる。
ではまさか――理王は続けて、グエン殺害の本当の理由をすぐに察した。
「パニッシュ・コープスを守る為じゃなく、教導団の部隊をこの地に寄越すことを、最初から目的としていた……」
「お前達は、奴らに利用される為にここへ来たに過ぎない。そしてスティミュレーター達の攻撃は単なる偽装だった。奴らはプリテンダーによる暗殺から我らの目を背ける為の、囮に過ぎなかったのだ」
そう断言した上で、デーモンガスは幾分、怒気を含んだ声で続けた。
「俺自身の読みも甘かった。どうせ交渉部隊など、来てもせいぜい十人程度だろうとたかをくくっていた。その程度ならば、プリテンダーを返り討ちに出来ると予測したのだが、それがそもそもの間違いだった。俺の甘さのせいで、ヴァーノンは命を落とした」
深い溜息を漏らすデーモンガスに、ルースは申し訳無さそうに頭を掻きながら、やや控えめに言葉を挟んできた。
「あなた方には大変気の毒なことをしてしまったが、敵の狙いが分かった以上、我々がこの人数で、これ以上ここに駐留するのは却って大迷惑になると思います。よって、早々に撤退することを検討しますが……出来れば、その、ジェニファー女史には我々に同行頂き、デバイス・キーマンとして一肌脱いで頂けないですかな」
正直なところ、ルースは断られると半分諦めていた。
しかし意外にも、ジェニファー本人が応の意を示してきた。
「あなた方の交渉材料はまさに、ここから撤退すること、といって良いですわね。であれば、こちらも応じない訳にもいきませんわ。デバイス・キーマンとして、あなた方に同行しましょう」
ヘッドマッシャーの狙いがジェニファーではないことは、既に判明している。ならば、彼女が教導団の要請を聞き入れたところで、然程の危険が無いというのが本人の判断だったのだろう。
交渉は、まとまった。
教導団の部隊は即刻、アヤトラ・ロックンロールの前から撤退する代わりに、ジェニファーがデバイス・キーマンとして同行する。
部隊に参加していた朱鷺は、不死鳥ブリーフをデーモンガスに渡そうかどうかと散々迷った挙句、折角だからということで、一枚プレゼントした。
その瞬間だけは僅かに喜色を見せたデーモンガスだが、しかし矢張りヴァーノンを失ったという痛手は大きいらしく、すぐにまた、悲痛な感情を全身から表すようになっていた。
「意外と、仲間思いの方なのですね」
デーモンガスの人情家としての性格に、朱鷺は意外な感想を抱いていたが、しかしそうであるからこそ、ひとつの組織のトップに立っていられるのだろうと、納得もした。
ところで撤退の際、レオンは再び、千歳とイルマから責められるという醜態を晒した。
ローザマリアが意識不明の重体に陥っていた際、刀真からの連絡を受けても即座に対応出来なかった拙さを、指摘されていたのである。
「部隊長としては、失格ね。あなたにとっては部隊員のひとりでも、パートナー達にとってはかけがえの無い命なんだってことを今一度、認識した方が良いんじゃない?」
「……あぁ、肝に銘じておく」
レオンは千歳の言葉に、ただただ神妙に頷くばかりであった。
ところが、その時の表情がどこか無機質的であったのを、イルマは見逃さなかった。と同時に、ヴァーノンの死に際の台詞が、彼女の頭の中に、鮮明に蘇ってきた。
この後、単独で行動していたリブロがセフィーに出迎えられる形で、帰路に着く交渉部隊と合流した。
一応の目的は果たせたものの、何故か彼らの心の中にはどうにもすっきりしない、灰色の雲のようなもやがかかっているように思えてならなかった。
* * *
その日の夜、刹那は教導団内のある人物に、ジェリコ抹殺の失敗を報告せよ、という旨の指示をヘッドマッシャーのひとりから受けた。
連絡先の人物から案内があったルートを進むと、刹那は驚く程簡単に、教導団内のある施設へと足を踏み入れることが出来た。
現れたのは、左手首に蛇皮のアクセサリーを巻きつけている年若い男性であった。
「ご苦労。彼らに一切了承した、と伝えてくれたまえ」
刹那はすぐに、施設の外へと送り出された。
その施設が何なのかは、刹那にはよく分からないのだが、どこか生臭い雰囲気を漂わせていることだけは、間違いなかった。
それにしても、と刹那は思う。
教導団内部に鏖殺寺院の連絡員が、これ程までに堂々と入り込んでいるというのは、自分の立場も忘れて、世も末だ、と思わざるを得ない。
刹那が会ったその人物は、制帽を目深に被り、サングラスで目許を隠していた為、顔ははっきりとは分からなかった。しかし特徴的な渋い声は、中々忘れられそうにもなかった。
* * *
傭兵稼業をしていると、国軍ともそれなりの繋がりが出来る。
茜はパニッシュ・コープスへの強襲作戦が実施される日の数日前に、スタークス大尉からの召喚要請に応じて教導団の対パニッシュ・コープス部局へと赴いた。
「中々、色々な方面から情報を集めているそうじゃないか。是非、我々にも教えて欲しい。勿論、情報料はそれなりに弾ませてもらおう」
悪い話ではない。
茜は、持ち帰って検討すると保留する姿勢を見せて相手を焦らしながら、もう少し値段を吊り上げてやろうと考えた。
スタークス大尉の部屋を辞する際、彼女はひとりの下士官と入れ違いになった。
その下士官は、スタークス大尉直属の秘書官らしく、曹長ながら、少尉級の扱いと権限を与えられている人物らしい。
茜は軽く会釈して、その下士官と擦れ違った。
その際、彼の左手首に巻かれた蛇皮のアクセサリーが随分と変わったデザインで作られていることに多少の感心を覚えたものの、それ以上は特に気になる程の人物でもなかった。
『ヘッドマッシャー』 了
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担当マスターより
▼担当マスター
革酎
▼マスターコメント
当シナリオ担当の革酎です。
このたびは、たくさんの素敵なアクションをお送り頂きまして、まことにありがとうございました。
色々引きを残しましたが、しばらく多忙になる為、次のガイド発表時期は未定です。
そもそも続きやるのかという疑問もありますが。
それでは皆様、ごきげんよう。