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クライム・イン・ザ・キマク

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クライム・イン・ザ・キマク

リアクション


<part6 激突>


 紅鶴のアジトの周囲に数十人の契約者たちが集結していた。
 蟻の子一匹漏らさぬ構え。事件解決のためキマクに来た契約者たちが連絡を受けて揃っている。重安だけは盗品漁りに夢中だったので置き去りにされた。
「まったく……人んちの生徒さらうなんて、いい度胸よね」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)も、殴り込みに集まった契約者の一人。百合園の教師が率先して暴力を振るうのも気が引けるので、フルフェイスメットとセーラー服で変装していた。
 誰かの号令で、契約者たちがアジトに突撃する。
 祥子は機晶爆弾を取り付けたレティランセットに乗ってアジトの正面玄関に飛んだ。敵構成員たちが火炎や氷弾を放ってくる。
 祥子はそれを巧みに回避し、正面玄関のガラス戸に突っ込んだ。構成員たちのひしめくエントランスホールでレティランセットを乗り捨て、猛ダッシュで奥に駆け込む。起爆ボタンを押す。
 爆発が広間を引き裂いた。
 炎と衝撃波が構成員たちを薙ぎ倒す。
 その薄くなった防御を狙って、契約者たちがエントランスホールになだれ込んだ。敵味方入り乱れる戦いが始まる。
 祥子は手近の構成員の首をヨーヨーで締め上げる。
「上園エリスは、研究室はどこ!? 言いなさい!」
「ち、地下だ……」
 構成員は呼吸困難になりかけ、息も絶え絶えに答えた。
 祥子は構成員を放り投げる。向かってくる敵を弾き飛ばしながら地下への階段を駆け下りていく。


 椿はダクトを伝ってアジトの内部に潜入していた。
 研究室の真上に来ると、天井の板を外して、ロープで静かに床に降りる。疲れ果てた様子で魔法鍋を掻き回しているエリスに、後ろからささやいた。
「エリス、助けに来たぜ。百合園の友達に頼まれてきた。もう大丈夫だぜ」
「ひゃ!?」
 エリスはびっくりして振り返った。
 その声で目を覚ましたのか、椿の匂いにでも反応したのか、寝台にくくりつけられている総司が暴れ出す。
「乳尻太腿おおおおおお!」
 拘束具をまたもや引きちぎり、椿に飛びかかってくる。その形相は人ではなく、もはや悪鬼。総司の頭の中には理性は残っておらず、ただひたすら女体に触れたいという情念だけに突き動かされていた。
 椿は総司を蹴り飛ばした。総司は壁に叩きつけられ、身を折って倒れ込む。
「ちち……しり……」
 無念そうにつぶやきながら、ぐったりと動かなくなった。
「魔法薬のせいであんなことに……可哀想な奴だぜ」
 椿は嘆かわしげに首を振った。
 研究室に控えていたファンドラが椅子から立ち上がる。
「ついに救出隊が来てしまいましたか……。戦闘は苦手ですのに……」
 ファンドラの頭上に空虚が生じた。空虚から大量の刀剣が生まれ、椿へと突き進む。
 椿はとっさに跳ね退き、壁を走った。天井に走り、ファンドラの背後に飛び降りる。
 振り向くファンドラ。空虚から刀を生んで構える。
 が、それが振られるより先に、椿が渾身の力で鳳凰の拳を叩き込んだ。
 ファンドラは研究器具を薙ぎ倒しながら吹き飛び、意識を失った。

 祥子は研究室前の廊下で刹那と対峙していた。
「おせっかいな奴らじゃのう。こんなところまでやって来おって」
 刹那が暗器を投擲する。
「うちの生徒を連れて帰らなきゃいけないのよ!」
 祥子は超伝導ヨーヨーで刹那の腕を捕らえた。電流を流し込む。
 刹那は体を痙攣させて倒れた。


 研究室も乱戦の様を呈し始めた。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は怪力の籠手で爆砕槌を握って暴れ回る。
「うりゃー!」
 まずは魔法鍋に振り下ろす。魔法鍋が弾け、中身の液体が飛び散った。
 美羽は壁際を走りながら、爆砕槌で壁をとことん殴りまくる。連続して爆発。壁がどんどん砕け落ちていく。
「てめえ!」「オレらのアジトになにしやがんだ!」「ぶっ殺す!」
 悪魔とゆる族とグラップラーの構成員が襲いかかってきた。
「もちろん破壊だよ! 破壊して破壊して破壊するんだよっ! えええええい!」
 美羽のフルスイング。三人まとめて爆砕槌でホームランする。構成員たちは崩れたばかりの壁にめり込み、下敷きになって、抜け出すこともできない。
「しっかりしてください! 今助けますからね! 歩けますか!?」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、誘拐事件の被害者を寝台から抱き上げた。
「この人たち、みんな眠ってるみたいだよ!」
 別の被害者を起こそうと揺さぶっていた静香が言った。
「運んで差し上げるしかないようですわね」
 ラズィーヤが肩をすくめた。
 ベアトリーチェと静香とラズィーヤは協力して、大急ぎで被害者たちを外に運び出す。
「んーと、こいつはレビータ=スプランドだよな……」
 椿は搬出を手伝いながら、マイトから教えてもらった被害者リストを確認する。被害者の着ている白い長衣には名札がついていて、名前と一緒に『薬品浸透度80%』などと物騒なことが書いてあった。
「エリス、ちゃんとついてきてるか……って、あれ!?」
 椿が振り向くと、いつの間にかエリスの姿は消えていた。
 そしてだいぶ離れたところに、紅鶴がエリスを抱きかかえて立っている。エリスの細い首筋に、ドスの刃を当てて。
「エリスさん!?」
 仰天するベアトリーチェ。
 紅鶴が笑った。
「ははははは、やるじゃないかい! やるねえ! こぉんなに数を揃えてこられちゃ、引き揚げるのが吉ってもんさ。なに、この嬢ちゃんさえいれば、計画は何度でもやり直せる」
「やり直させないよっ!」
 美羽が紅鶴に向かっていこうとすると、紅鶴が怒鳴る。
「動くな! それ以上近づいたら、この子のやわらかーい首が裂けちゃうよ!」
「ふ、ふえ……」
 エリスは今にも泣き出しそうだ。
 そんな脅しをされては、美羽たちも下手に攻撃できない。
 紅鶴はゆっくりと後じさり、エレベータに飛び込むと、ドアを閉じた。


 アジトの屋上。
 武装ヘリが轟音を上げてプロペラを回している。
 エレベータから出てきた紅鶴は、エリスを抱えたままヘリに乗り込んだ。
「さ、早く出発しな!」
「へい!」
 パイロットを務める構成員がヘリを浮き上がらせる。
 そこへ階段からブルタが現れた。紅鶴の娘を抱えて。
「も、桃!?」
 さすがの紅鶴も驚きの声を上げる。
 桃と呼ばれた娘は、よく分からないなりに頼んだ。
「お母さん、連れて行っちゃった人をみんなに返してあげて」
「ほら、紅鶴の子供もこう言ってるよ!」
 ブルタが怒鳴った。
「ふふ、子供を使うとは考えたねえ。でもあんたらは子供を殺せない。一応、『救出者様』なんだからねえ。あたしが取り戻しに来るまで、せいぜい丁重に世話しておくんだよ!」
 紅鶴は告げると、パイロットにヘリを発進させた。
 武装ヘリは風を沸き起こらせてアジトから飛び去っていく。
「出番よ、ネーベル!」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)が騎獣格納の護符を宙に投げ、ペガサス『ネーベルグランツ』を呼び出した。美しい白毛のペガサスが出現する。リネンはペガサスに飛び乗った。
「ネーベル、追って!」
 ペガサスが飛翔してヘリを追跡する。
 リネンがカナンの剣を構え、ヘリの尻尾に急迫する。
 それを見た紅鶴が叫んだ。
「撃ち落としな!」
 ヘリが百八十度方向転換し、リネンにコックピットを向けた。左右のガトリングから、闇属性の弾丸が無数に射出される。
 リネンはペガサスを操ってジグザグに飛び、弾丸を避けながらコックピットに突進する。
 カナンの剣がコックピットを引き裂いた。同時に操縦桿も。
 操縦不能になり、いたずらに回転するヘリ。脱出シートが二台発射された。一台にはパイロット、一台にはエリスを抱えた紅鶴。脱出シートはパラシュートに頼って落ちていくばかりで、動きは制御できない。
「もらうわよ!」
 リネンはペガサスで紅鶴の横を通り抜け様に、エリスを奪い取った。エリスは震えながらリネンにしがみついている。
「もう大丈夫よ、怖くないからね」
 そう言い聞かせるリネンの言葉にも、返す力がない。
 ペガサスが地面に降り立ち、リネンはエリスを抱えてペガサスを降りた。
 アニスたちがエリスに駆け寄ってくる。
「よく頑張ったわね、偉いわよ」
 スノーがリネンからエリスを受け取り、エリスの背中を優しくさすった。
「アニスたちの元気を分けてあげるよ!」
「これが自然の恵みですぅ〜。暖かいでしょぉ〜?」
 アニスが命のうねりで、ルナが大地の祝福でエリスの体力を回復させる。
「みんなぁ……ありがとぉ……」
 エリスはルナの体にぎゅうっと抱きついた。

 リネンは再びペガサスで空を飛び、脱出シートで落下中の紅鶴に接近する。
「これで終わりよ!」
「くっ……」
 醜く顔を歪める紅鶴に、リネンの斬撃が放たれた。


 工場に扮していたアジトは、瓦礫の山と化した。
 瓦礫の山の上に立ち、美羽が満足げに爆砕槌を下ろす。
「ふぅ……。これで悪い研究も、もうできないね」
「徹底しすぎです……」
 ちょっと呆れるベアトリーチェ。
 辺りには構成員たちのうめき声が溢れ、血の臭いが漂っている。
 恐竜騎士団に睨まれた以上、紅鶴がキマクで暴れる術はない。
 こうして紅鶴の組織は、キマク制圧という野望を果たすことなく消滅したのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

天乃聖樹

▼マスターコメント

グロあり、コメディなし(多分あまりなかったと思います……)の捜査モノ。
今回は普段とは毛色の違うシナリオでしたが、とても書くのが楽しかったです。
アクションが多種多様で、こんな捜査方法もあるのか、と驚かされることしきりでした。

寒くなってきていますが、風邪など引かれませんよう、お気を付け下さい。
ご参加、本当にありがとうございました。