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誰が為の宝

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誰が為の宝

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「ウィニカ、アイシァ」
 ファニ・カレンベルクが、重い口を開いた。
 キャンプに戻り、戦闘を終えた人々が残務処理をしている間も、ケヴィン、ファニ、飛都の三人と彩羽は、石の簡易的な分析を続けていた。
 ウィニカも貼り付くようにしてその様子を見つめていたが、正直、ウィニカにはほとんど何をしているのかすら理解できなかった。

 ……あたしだって、アーティフィサーなのに。

 一年やそこらの付け焼き刃でどうこうできるとは思っていなかったが、それでも実際にそれを突きつけられると、凹む。
 アイシァは、そんなウィニカの様子を、同じように、じっと見つめていた。
 ファニは、こほんと小さく咳払いをして、言った。
「言いにくいんだけど……結論から言うわね」
 周囲までが、しんと静まり返る。
「女王のいた巣の例の赤い石ね、あれは確かに『紅蓮の機晶石』と呼ばれる、特殊な機晶石だったわ」
 ウィニカの表情がさっと緊張した。
「そのエネルギー故に、あのイレイサー・スポーンは非常識な強さと生命力を得たのは間違いないと思う。ただ」
 僅かに言い淀む。
「やっぱり、そのせいで……今はほとんどエネルギーが残っていない状態なの」
「……どういうこと?」
 無言のままのウィニカの横で、苛立たし気にアイ・シャハルが声を上げた。ファニは言葉を選びながら、辛抱強く説明した。
「つまりね、これは機晶石の一種には違いないけど、アクセサリーくらいしか使い道がないような、力の弱い……」
「……クズ石ってこった」
 背後から、飛都が言葉を引き取って結論づけた。
 一同の間に、失望が広がる。
 最初から、その可能性は誰もが考えていた。
 『宝探し』で宝を手にするということは、生半可なことではない。
 しかし、そこにいる誰もが、ウィニカの切実な思いを知っていた。
 彼女がどれほど「宝」を必要としているか、その方法の是非はともかく、その必死な姿を通して理解していたのだ。
 だから、彼女の失望を思って、誰もやりきれない気持ちになった。
 一同は、息を詰めてウィニカの反応を窺っていた。

「そ……っか」

 短い沈黙の後でそう呟いて。ウィニカが小さく息をつく。
 なんともいえない張りつめた空気にも気づかぬ様子で、もう一度小さく「そっか」と口にした。
 それから、はっと我に返ったように周囲を見回した。
「や、やだ、やめてください、みんなしてそんな顔」
 ようやく周囲の空気と、自分に注がれている視線の意味に気づいたのか、それを散らそうとするように両手を大袈裟に振り回した。
「だって、あの……っ」
 何か言おうとして口ごもり、真っ赤になって顔を伏せる。
 それから、顔を伏せたままで意を決したように口を開いた。
「焦っても仕方がないって、わかったし……こんなに皆に迷惑かけて、欲しい欲しいって騒いで、それでこういうのは恥ずかしいけど……」
 少し言葉を切り、ふっと息をついて顔を上げる。
「今回は、残念だったってことで。みんな、本当にありがとう」
 何かを吹っ切ったように、以外に爽やかな表情だった。


「……ん」
 機晶石の鉱脈の残滓をエコーで追い続けていた飛都が、小さく声を上げた。
 眉を潜めて、じっとモニターを睨みつける。
 それから、猛然とキーボードを叩き始めた。
「どうした」
 その様子に気づいたケヴィンが声をかけたが、飛都は答える間も惜しいように手を動かし続けた。
 センサーが捉えたデータが分析され、岩の中で結晶化した機晶石のラインが3Dでモニターに表示される。
 そのラインから僅かにはずれた部分に、エコーが強く反応している。
 飛都はようやく手を止め、またモニターを睨みつけて言った。
「……この反応、何だと思う」 
 ケヴィンはモニターに映し出された波形に目を見開く。
「おい、まさか……」
「願望でオレの目が狂ってる訳じゃないよな?」
 ふたりは言葉を切って、ごくりと唾を飲み込み、じっとモニターを観察する。
 それから、どちらともなく顔を見合わせた。
「……ああ、貴様は冷静だ」
 ケヴィンが大真面目に請け合った。