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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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第一章 眠り姫のために


「聞きましたわ、グィネヴィア様が悪しき者にたぶらかされて倒れられただなんて」
 白鳥 麗(しらとり・れい)サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)と共に救援に駆けつけるなりイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)に詰め寄った。
「……えぇ」
 イングリットは事情を話した。皆が来るまでに署名した紙が小鳥に偽装した事を耳に入れ、グィネヴィアの様子からもしかしたら何かの契約書だったのではと推測していた。
「……イングリットが一緒にいてこんな事件に巻き込まれるなんて! その紙を確認され時に紙を取り上げるなりグィネヴィア様を連れて離れるなり危険回避出来ましたでしょうに」
「……その前に書いてしまったのですわ」
「……その前に……まぁ、グィネヴィア様は人を信じやすい方ですからそういう事もしますわね」
 詰め寄った麗もイングリットの言葉を否定しきれず納得してしまう。
「おいおい、大丈夫か」
「来ましたわ。グィネヴィアさんの具合はどうですか?」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が麗とイングリットの会話に割り込んだ。
「イングリットさんにリーブラさん。時間が経つにつれ、顔色が悪くなって。このままでは」
 イングリットがリーブラの質問に不安を含んだ声音で答えた。
「イングリット、縁起の悪い話は無しですわ。グィネヴィア様は必ずお助けしますもの」
 麗が厳しい口調でイングリットの言葉を遮った。
「えぇ、それは分かっていますわ。でも」
 麗の言葉は理解しながらも不安は消えないイングリット。

 そこに次々とやって来る救援者。

「様子はどうかな? 診るよ」
「大丈夫ですか」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)

「大変な事になってるって聞いたよ」
「原因は何だ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)

「倒れたと聞いたけど」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)

「……お願いしますわ」
 イングリットは四人に頼んだ。『薬学』を持つダリル。『薬学』と『医学』を持つ涼介、ミリィ、ローズによってグィネヴィアの原因はすぐに明らかとなった。
 林檎にはただの眠り毒しかなく、グィネヴィアには生命力略奪の呪いがあり、契約書が影響している事が判明し解く事が出来るのは林檎の毒だけだと。二つには遅延効果が付加されている事も判明した。そのためグィネヴィアに発現するのが遅かったのだ。

 グィネヴィアの症状緩和と林檎の解毒については
「……それは僕に任せるでふ」
 とリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)。隣では十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)がグィネヴィアを心配そうに見ている。

「僕も手伝うよ」
「料理に使えるようにしましょう」
 風馬 弾(ふうま・だん)ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)
 グィネヴィアの症状と林檎について任せる目処が付くなり、涼介達、ルカルカ達、ローズは自分は事件解決にそれぞれ向かった。その前にダリルが契約書についていくつか言った。

「あ、あの私達はグィネヴィアさんと一緒にいます」
「イングリットちゃん、大丈夫よ」
「グィネヴィアのお嬢さんの事は心配するな」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)
「グィネヴィアおねえちゃんはボクにまかせるですよ〜」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はぎゅっとイングリットの手を握り、笑顔で見上げた。街中で大変な事にグィネヴィアを発見して駆けつけたのだ。

「……イングリットちゃんは心配、しないで」
 騒がしいのが苦手ながらも友達のためにと頑張って駆けつけた冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)

「ではお願いしますわ」
 イングリットは頼りになる仲間達にグィネヴィアを託す事にした。

「オレは犯人捜しに行くぜ。グィネヴィアをこんな目に遭わせやがって絶対許さねぇ。行くぞ、相棒!」
「はい。急ぎましょう」
 シリウスとリーブラは犯人捜しに出た。

「すすみません……あああのどういう、が、外見で……女性にむかってナレナレしくシツレイ! ハンセイ!」
 口下手で赤面症のアリステア・オブライエン(ありすてあ・おぶらいえん)はしどもどろにイングリットに少年について聞こうと声をかけた。
「……アリステア、落ち着け」
 隣の鬼束 幽(おにつか・かすか)が落ち着かせようと言葉をかけた。
「あーエート……少年の情報ください。追跡にヒツヨウフカケツ、OK?」
 アリステアは呼吸を整え、イングリットに少年の事を聞いた。
「……少年の情報ですわね。何か写真でもあればよろしいのですけど」
 イングリットは言葉で伝えた後、人捜しに言葉だけでは不十分だと思った時、
「それなら問題ありませんよ」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が現れた。救援を受けて駆けつけ、アリステアの横で事情を聞いていたのだ。
「この林檎、少しよろしいでしょうか?」
「えぇ」
 舞花はイングリットの許可を得てから『サイコメトリ』を使い、少年の容姿を確認し、『ソートグラフィー』で籠手型HC弐式に画像を念写した。
「間違いありませんか?」
 舞花は画面をイングリットに見せた。
「えぇ、間違いありませんわ」
 イングリットは顔や服装を確認してから答えた。
「データを送りますね」
 イングリットの確認を終えてからアリステア達にデータを送った。もちろん他の捜索者にも送った。
「……あ、は、はい」
「助かる」
 アリステアは急いで送られた少年の画像を確認し、幽は舞花に礼を言った。アリステア達は少年捜索に出発した。
「グィネヴィア様が心配ですから私は契約書を回収し破棄していきますね」
 舞花は小鳥に偽装した契約書を探しに行った。
「はい。お願いしますわ」
 イングリットは事件解決を願いながら舞花を見送った。
 救援者達を見送り、あとはイングリット自身がどうするかだけとなった。

 救援者が皆行った後、残っている者が何人かいた。
「全くわたくし達の大切なグィネヴィア様に姦計を弄するなど許せませんわ。そんな不埒者、見つけ次第捕まえてぶっちのめ……」
 麗はイングリットが動けるようになるまで待っていた。その間、友人を傷付けられた怒りの火は鎮火しせず、ますます燃え上がるばかり。
「お嬢様、お言葉使いが」
 すかさずアグラヴェインが呆れたように言葉を挟んだ。麗の気持ちは分かるが振る舞いはいかなる時でもご令嬢らしくして欲しい。
「分かっておりますわ。こっほん。おしおきをして差し上げてグィネヴィア様に手を出したらどんな目に遭うのか骨の髄まで叩き込んで差し上げますわ」
 麗は何とか怒りを鎮め、言い直した。
「わたくし達も参りますわよ、アグラヴェイン、イングリット」
 麗はイングリットの説明係としての仕事が終了したのを見計らってアグラヴェインとイングリットに言った。
「了解致しました、お嬢様。犯人確保の為、微力ながらお手伝いをさせていただきます」
 アグラヴェインは麗に従う。
「麗さん、わたくしは契約書を探しますわ」
 イングリットは麗の誘いを断ろうとする。
「イングリット、契約書は心配ありませんわ。それよりもグィネヴィア様が無差別でなく最初から狙われたかもしれませんのよ。ここで逃がしたらまた狙われるかもしれませんわよ。あなたは放っておけますの? 友人たるわたくし達がグィネヴィア様を守らなければなりませんのよ。何よりあなたは一度グィネヴィア様を……」
 麗は言葉を重ねイングリットの行動を変えようとする。
「……そこまで言わなくても分かっていますわ。グィネヴィアさんが倒れてしまった事に責任を感じない訳はありませんでしょう」
 イングリットは少し険しい表情になり、言い返す。一番責任を感じているのはイングリットなのだ。紙を確認した時、もっと早くグィネヴィアを引き離していれば、買い出しを中止していればと思わずにはいられない。
「それなら参りますわよ」
「……えぇ」
 二度目の麗の誘いでイングリットは動き始めた。

 そこに
「俺も犯人捕獲に同行していいか」
 友人でありライバルであるイングリットの救援を受けてやって来たマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)。同行についてはヴァイシャリーに関して土地勘が無いという事も含まれている。
「マイトさん」
 イングリットがマイトの方に顔を向けた。
「救援を聞いて来た。刑事としては犯罪を英国紳士としては淑女の危機を見過ごす訳にはいかない……無論、友人としても君を放ってはおけないし、な」
「……助かりますわ」
 イングリットはマイトの言葉に喜んだ。
「さ、ぼやぼやしている時間はありませんわよ」
 話が終わったのを見計らって麗は二人を促した。
「そうですわね」
「当然だ」
 イングリットとマイトが麗達に続いて犯人捜索へ出た。