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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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 北都は他の仲間や住人と協力して治療を終えた人達を安全な場所へ送り届けた。
 淳二は励ましになればとヨッシュの側にいた。
「……これは」
 淳二は見られているような気配を感じた。あまり良い気配ではない。
「……悪いが少しここを離れる」
 確認をしたい淳二は隣に立つヨッシュに言った。
「兄ちゃん、どうしたんだ」
 ヨッシュは不安そうに淳二の顔を見上げた。
「いや、用事だ。すぐに戻って来るから大人しくここにいるんだ。何かあったら他の人に声をかけろ」
 淳二は簡単に用件を言って背後の道へ走って行った。
「うん」
 ヨッシュはこくりとうなずき、淳二を見送った。

 気配を感じ追って入り込んだのは静かな通り。
「……あれはもしかしたら犯人」
 淳二はそう思い、周囲を見回すも何も無い。
「……気配が無い。いたら一発ぐらい殴って自分のやった事の罪の痛さを分からせてやろうと思ったのに……逃げたか」
 淳二は怒りがこもった言葉を洩らした。淳二の言葉は正しかった。淳二が気配を感じていた時、犯人はちらりと見に来ていたのだ。ついでに陽一が気配を感じていた時もいた。

「……いない」
 淳二と同じように何かを感じたオデットが空から降りて来た。
「もしかしておまえも」
 淳二はもしかしたらと思い、訊ねた。
「えぇ、そうよ。この近くの空で契約書を処分していた時に誰かいる気がして確認に来たんだけど」
 オデットは周囲を確認しながら答えた。
「……この状態、か」
 淳二ももう一度周囲を確認するが何も見当たらない。
「そう。もう少し早く気付けば良かったんだけど」
 とオデット。淳二の予想通り。
「そうだな。それで契約書の方はどうなんだ?」
 淳二は契約書破棄について訊ねた。
「……順調よ。見かけたけど、消火はもう終わったのね。大きな火事だったから心配してて」
 オデットはそう答え、先ほどまで炎上していた建物がある方向に目を向けた。
「怪我人の治療をしている最中だ」
 淳二は街の救助状況を話した。
「……大変みたいね……あ、あれは、私、戻るね」
 オデットは話中に空を飛ぶ小鳥を発見し、慌ただしく契約破棄の仕事に戻った。
「……しばらくしたら解決してグィネヴィアも元気になるな」
 淳二はオデットが行った空を見上げた。
 そして、
「……さて、戻るか」
 淳二は何も無いと知りながらも最後に一度だけ周囲を確認してから現場に戻った。ちょうどローズがヨッシュの父親の治療が終了した頃だった。

 ヨッシュの父親の治療をするローズ。
「……これは……傷が残らないようにしないと」
 酷い有様に驚くも傷が残らないように奮闘する。傷が残れば父親は気にはしないだろうがヨッシュが今日の事を思い出し、自分を責めてしまうから。
 ところどころある傷口には菌が侵入しないように消毒液を使い、布を当てて包帯を巻く。火傷の患部は水で冷やし、消毒し傷跡が残らないように住人達に頼んで用意して貰った素材を調合した薬を使う。仕上げに『命のうねり』を使った。『薬学』と『医学』を持つローズは迷いも間違いも無く治療を終えた。
「……姉ちゃん」
 ヨッシュが恐る恐るローズに聞いた。
「終わったよ。すぐに目を覚ますから」
 ローズが笑顔で言った。
「……うん」
 ヨッシュはこくりとうなずきながら目を覚まさない父親を見た。淳二も戻っていたが家族の目覚めを逃すまいとするヨッシュには気付かれなかった。
 治療が終わるなり皆は人々を安全な場所へと住民達と協力して送り届けて行く。

 父親を見ていたヨッシュの耳にか細い女の子の声が耳に入ってきた。
「…………にいに」
 ヨッシュの小さな妹が目を覚ましたのだ。
「エン!」
 ヨッシュは妹に駆け寄った。
「にいに!」
 妹は嬉しそうにヨッシュに抱き付いた。
「ごめんな」
「おとしゃ」
 謝るヨッシュ、妹は眠っている父親の方に顔を向けた。
「……父さんは」
 ヨッシュが妹にどう説明しようか困っていた時、
「……ん」
 まぶたが震え、父親が目を覚ました。
「父さん!」
「おとしゃ」
 ヨッシュと妹が駆け寄る。
「……大丈夫ですか」
 ローズが起き上がろうとする父親を補助して上体を起こした。
「……ヨッシュにエンちゃん、無事だったか、良かった」
 父親は子供達の姿を見て心底ほっとしていた。
「おとしゃ」
 娘は嬉しそうに父親に抱き付いた。
「父さん、ごめん」
 ヨッシュは泣きながら謝り、父親の胸に飛び込んだ。
 父親は子供達の無事にほっとしながらしっかりと抱き締めていた。
 この後、ヨッシュ達は安全な場所へ送り届けられた。ヨッシュの手にあったチョコバーは無事に妹にあげたのだが、妹の希望で半分こして兄妹仲良く食べていた。

 全ての被害者が安全な場所へ送り届けられた後、
「……ふぅ、みんな何とか無事で良かった。お疲れ様」
 ローズは疲れよりも無事命を助ける事が出来て心底安心し、他の仲間を労った。
「……そちらもご苦労様。ところで犯人を追っていたみたいだけど」
 北都はローズを労った後、淳二に訊ねた。淳二だけでなく仲間全員が感じ取っていたのだ。ただ手当や搬送のため動けなかったのだ。
「いいや、逃げてしまったみたいだ」
 と淳二。
「まぁ、火事の消火して人も助けられたんだからいいんじゃねぇか」
 と白銀が息を吐きながら言った。
「ここが最後の現場だけど、一応街を見回った方がいいよな」
 ソーマが念を入れるよう提案。
「そう思うよ。犯人が捕まるまでは気を抜かない方がいい」
 陽一はソーマに賛同し、用心を促した。
「えぇ、火事は消えてもこの騒ぎで怪我をした人がいないとも限らないし」
 とローズ。騒ぎに巻き込まれ、避難中や犯人に遭遇しての怪我を追った人がいないとも限らないから。
 この後、消火救助組は犯人捕縛まで街を見回ってからグィネヴィア達の元に戻った。道々、人混みにもまれて怪我をした人や明らかに魔法薬の被害に遭った人の手当をしたりした。特に魔法薬が酷かった。両目は白目に泡を吹いていたのだ。言わずとも犯人の仕業である。消火救助組によって速やかに治療され命は無事だった。