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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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【ぷりかる】老婆とお姫様の贈り物

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 騒ぎが進展する前。
 何人目かの聞き込みによってまともな情報を得る事が出来た甚五郎達。
「この子? あぁ、見たぞ。あの狂った婆さんの家の場所を聞いて来た」
 羽純に見せられた少年の画像に男性は貴重な証言をした。
「どんな人ですか?」
「たまにしか見ねぇんだけど顔に酷い火傷の跡があって目を見たら呪い殺されそうでさ。すがるから場所を教えたけど、今頃頭からがぶりと食べられているかもな」
 ブリジットに促された男性は思い出せる限りの事を話した。
「そ、それは怖いですね」
 素直なホリイは男性の言葉にぶるっと軽く肩を震わせた。
「どこから来たか知らぬか?」
 羽純が住人の出身を問うた。
「んー、噂だから確かじゃないけど、ティル・ナ・ノーグらしい。あれは絶対犯罪でも犯して逃げて来たって、すごい犯罪者の顔だからな。まぁ、触らぬ神に祟り無しで誰も近付こうとしなかったけどな」
 男性は軽く肩をすくめ、どこかで聞いた噂を口にした。
「……犯罪者の顔、ですか」
 ホリイは言葉を飲み込み、少し不安そうな顔をしていた。
「……ティル・ナ・ノーグ、か。ん?」
 甚五郎は犯人の出身について気になっていた。おそらく巻き込まれたグィネヴィアも同郷だからかもしれないが。
 もう少し熟考しようとした時、幽から連絡が入った。聞き込みで得た少年の情報だった。ついでに自分達が得た情報も伝えておいた。

「話の内容は何でしたか?」
 甚五郎が話し終えたのを見計らってブリジットが訊ねた。
「少年の事だ。少年もまたティル・ナ・ノーグから来た者のようだ」
 甚五郎は幽から得た情報を全て皆に伝えた。
「ふむ。ティル・ナ・ノーグ、か。犯人の家に行ってみた方がよかろう」
 羽純も先ほどの甚五郎と同じように気になっていた。少しだけだが少年、犯人、グィネヴィアの間に繋がりが見え始めた。
「その近辺でもう一度聞き込みですね」
 とホリイ。
 甚五郎達は男性に聞いた家へと向かった。

 薄暗い通り、古ぼけた家。周辺。

 甚五郎と羽純は家の中へ。ドアの鍵は古ぼけていたためあっさりと開いた。警戒をしていたが、住人不在で拍子抜けしつつも調査を始めた。ブリジットとホリイは周辺で少年や犯人についての情報収集をした。

「その子? 見たよ。覚えてる。あの家から住人以外が出て来るのは珍しいから。林檎がたくさん入ったバスケットを持っていたよ」
 女性がホリイに少年の事を聞かれ、答えていた。
「それ以外に何かありませんでしたか?」
「他にかぁ、そう言えば何か液体が入った小さな瓶を持っていたな。それに頭がおかしい感じだった」
 ホリイに促され、女性は少年の様子を思い出した。
「それはどういう事ですか?」
 ブリジットが詳細を追求。
「ペンダントにぶつぶつ話しかけてるんだよ。独り言って感じじゃなかった。誰かに話しかけてるような感じで」
と。女性の話はこれだけだった。
「ありがとうございました」
 ホリイが礼を言って女性を見送った。
 そこに
「……情報収集でありますね!」
「何か収穫はあった?」
 聞き込みをしながら犯人を追っていた吹雪とコルセアが通りかかった。

「……ありましたよ」
「そちらも何かありましたか?」
 ホリイがコルセアに答え、ブリジットが案配を訊ねた。
「いえ、見かけた人がなかなか見つからなくて」
「聞き込み相手を捜している時に見かけたであります!」
 コルセアと吹雪はそれぞれ自分達の状況を話した。
「そうですか。実はこの家が犯人宅ではないかという事なんです」
 ブリジットが古ぼけた家の方に顔を向けた。
「……そう、この家が」
 コルセアも古ぼけた家の方を見た。
「……何かが出て来そうな予感でありますよ!」
 吹雪は何かがある予感に少しの期待があったり。
 吹雪達はホリイとブリジットと一緒に家の中に入った。

 古ぼけた家。吹雪達が来る少し前。

「……犯人の姿を確認したいところじゃな。これがよかろう」
 羽純は、魔法の鏡に注目した。家の中に入って一番に目に付いた物だ。
「甚五郎、読み取る間、ちょっとわらわの手を握っておれ」
 羽純は新しく使えるようになった力、『サイコメトリ』で犯人の姿を見る事は出来ないものかと考えていたのだ。
「あぁ」
 甚五郎は言われるまま読み取る間、羽純の手を握っていた。
「……」
 読み取れたのは、魔法の鏡を通してグィネヴィアの様子を見ている老魔女。口元には嫌らしい笑みを浮かべ目には妬みに狂った光が宿っていた。顔には酷い火傷の跡。
「どうだ? 大丈夫か?」
 甚五郎は、少々疲れた様子の羽純を気遣いながら訊ねた。
「慣れん能力で少し引き込まれそうになったが、読み取る事は出来たぞ。あまりにも不愉快じゃ。この魔法の鏡でグィネヴィアを嫉妬に狂った目で見ておった。姿は……」
 そう言って羽純は読み取った内容を話した。
「そうか」
 甚五郎はうなずき、周囲を見回した。

 その時、
「甚五郎、何か分かりましたか? 吹雪とコルセアに会いましたよ」
「……怖い家ですね」
 聞き込みを終えたブリジットとホリイが入って来た。二人はまだ家に入っていなかったのだ。
 続いて
「……気味が悪いものばかりね」
「手掛かりはないでありますか」
 コルセアと吹雪も入る。中の様子に不愉快な表情をするコルセアと何か手掛かりは無いかと物色する吹雪。

「これは魔法を感じるでありますよ!」
 物色の結果吹雪が見つけたのは、いくつもの木製の檻ばかり。
 中に入っているのは小動物の死体ばかり。半分白骨化しているものや両目がそれぞれ違う方向を向き、四肢がおかしな方向に曲がっていたりとあまりにも酷い姿ばかり。そしてフレンディス達が聞き込みをした消えたペットもいくつかある檻の一つに無残な姿で入れられていた。
「……薬や魔法の実験に使われたのかもしれませんね」
 吹雪の言葉からブリジットが推測する。
「……可哀想です」
 優しいホリイは犠牲となった動物達に手を合わせ、冥福を祈っていた。
「……そうね。異常よね」
 コルセアはホリイにうなずいた。
「この中に手掛かりの予感でありますよ!」
 吹雪は棚に並ぶ薬瓶や素材、研究書類、術書を発見した。
「……薬もですけど、他の物もほとんど人に悪影響を及ぼす物ばかりです」
 『博識』を持つホリイが来て確認を始め、分かったのはこれまた住人の暗黒の部分。
「しかし、こんな悪人と取引してまで欲しい薬とは何じゃ。甚五郎、どうした?」
 取引された薬が気になる羽純は甚五郎が木製のテーブルを注意深く見ている事に気付いた。
「ここだ。水滴が染み込まずにそのままだ。わずかに魔法を感じる」
 甚五郎はテーブルに残っている無色の水滴を指さした。テーブルに染み込まず、粒の形を維持していた。魔法を含んでいるためかもしれないが。
「……新しい物という事じゃな。つまり、少年と取引で渡した薬の可能性があると」
 羽純はすぐに甚五郎が言いたい事を察した。
「……そういう事だ」
 羽純に答えるなり『博識』を持つ甚五郎は何とかこの家にある素材を使って数種類の本当に簡単な試薬を作り、水滴を試薬に混ぜて薬の正体を暴く。
 そして、結果が出た。
「……危ない薬じゃないんですね」
 ホリイは結果を知るなり思わず声を上げた。住人の悪人ぶりを知った後なのであまりにも予想外だったのだ。液体は、多少混ぜた素材の効果を上昇させるだけの無色無臭の魔法を含んだ物だった。皆でその薬を作った証拠を探し回るが、素材も研究書類も残っていなかった。おそらくは処分されのだろうと皆は予想した。
「……おかしいわね。ここにある物から考えると普通は劇薬のはずだけど」
 コルセアは結果に肩をすくめた。
「もしかしたら薬だけは良い物かもしれないでありますよ!」
 吹雪は様々にある可能性の一つを口にした。
「吹雪、そんな善良な物を作る人ならこんな騒ぎは起こさないでしょ」
 コルセアが常識的な言葉で吹雪にツッコミを入れた。中には外面が良い腹黒もいるだろうが。
「……目的はもちろんの事ですが少年に何をさせようとしているのでしょうか」
「そして、なぜ今グィネヴィアを狙うのか。ただの嫉妬の暴走か?」
 ブリジットと甚五郎がまだ明らかとなっていない疑問を口にした。
「……分からないばかりじゃ」
 羽純は息を吐き、不愉快そうに言った。
「そうだな……ん」
 甚五郎が羽純にうなずいていた時、少年と遭遇し逃げたという稲穂からの連絡が入った。
 甚五郎はついでに『薬学』と『医学』を持つダリルに見解を貰った。

 連絡を終えた甚五郎は皆に話を伝えた。

「薬は完成途中の可能性があり完成させるための素材が少年の故郷にあるかもしれないそうだ」

 と甚五郎はダリルの見解を言葉にした。
「甚五郎、それなら良い薬もできるかもしれませんね」
「しかし、彼に指示をしている者が善人とは限りませんよ。少年が目を覚まさない限りは」
 ホリイは希望を抱きブリジットは危惧を抱く。
「……そうね。むしろ悪人の可能性が高いわ。老魔女に会うように指示をしてグィネヴィアを貶めるきっかけを作ったのだから」
 とコルセアもブリジット同様、悪い方の未来を考えていた。
「とりあえず、自分達は犯人を捕まえて話を聞くでありますよ!」
 吹雪は今出来る事を口にした。これを合図に吹雪き達は犯人である老魔女捜索に戻った。
 甚五郎達はしばらくして追加の調査結果を皆に連絡してからグィネヴィアと他の仲間達の元に戻った。

 フォリンが逃げ、仕事に戻った後、
「さて、集めた契約書の処理をするか」
 ダリルはリュックサックに集めた大量の小鳥達処理をしようとしていた。
 その時、ルカルカがこちらにやって来る舞花に気付き、声をかけた。
「舞花!」
 舞花の腕にはサイコネットで捕まえた数羽の小鳥がいた。
「これから契約破棄をしようとしていたところです」
「お疲れ! よかったら一緒に処理するよ」
 ルカルカは舞花を労い、処理を請け負う旨を言った。
「そうですか。では、お願いします」
 断る理由はないので舞花は捕獲した小鳥を全て引き渡した。
「任せて」
 ルカルカは小鳥達を受け取るなり、眠り針で眠らせてからダリルに渡した。
「……契約書に戻そう」
 舞花が捕獲した小鳥を全てリュックサックに入れた後、ダリルは曲がり角の向こうへ姿を消した。

 しばらくして、曲がり角の向こうからほのかな小鳥最期の声が天高く響く。ダリルの『グラビティコントロール』で圧死されているのだ。

「……鳥の鳴き声が聞こえますが」
 冷静な舞花は落ち着いた様子で舞花に訊ねた。
「大丈夫だよ! すぐに契約書に戻るから」
 ルカルカは明るく言った。
「……無事に終了だ。おそらくこれで契約破棄は完了のはずだ」
 涼しい顔のダリルは散り散りになった契約書を繋げて復元し、『博識』とホムクルンスで得た知識を使い契約書を破棄した。
「犯人のアジトも発見済みで契約書を破棄して生まれる魔力光を追う必要が無くなってあとは犯人だけ」
 とルカルカ。もう自分達の仕事はない。他の仲間達に契約破棄終了を伝えた。
「そうですね。早く戻ってグィネヴィア様の様子を確認したいですね」
 と舞花。原因は取り除いたが、グィネヴィアを確認するまでは安心出来ない。
 ルカルカ達と舞花はこのままグィネヴィアと他の仲間達の元へ急いだ。