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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 同日 紅生軍事公司 香港支社 イコン格納庫
 
「ご苦労だったな。これが報告を受けた機体か?」
「ありがとうございます。では、早速説明を始めましょうかね」
 専用の航空機で香港支社へと急行した鋭峰は、タラップから降りるなり、格納庫へと急いだ。
 格納庫入口で待っていたのは、禽竜および剣竜の調整を担当した技術者。
 今回の件に関して、団長から直々に命令を受けた彼は、団長に先んじて香港支社へと向かい、機体の確認を行っていたのだ。
 そして、今、二人の目の前にあるのは一機のイコン。
 その姿は禽竜や剣竜と同じく、教導団が誇るイコン――鋼竜のものとどことなく似ているようにも思える。
 だが、その一方で、もはや似ているのは、人間で言えば面影程度だ。
 機体には大量の重火器が搭載され、機体のサイズは鋼竜に比して何割も増大している。
 きっと、重量も同様だろう。
 一応、鋼竜がベースとなっていると思しき機体である為か、二足歩行が採用されてはいる。
 しかし、機体重量を支える為に脚部パーツは補強されて大型化しており、更には足部にキャタピラが取り付けられている。
 その機体を見上げる鋭峰に向けて、技術者は問いかけた。
「かつて、団長がイージス艦の保有を考え、この香港支社にパーツの搬入を手配したのを覚えておいでですね?」
 鋭峰は技術者に向き直り、静かに頷いた。
「無論だ。そしてそのパーツも、F-22ラプターのパーツと同様に何者かの襲撃を受け、輸送中に強奪された」
 技術者も静かに頷き返す。
 鋭峰は事情を察した様子で頷くと、技術者に向けて再び問いかける。
「成程――そしてこれが、そのパーツを組み込んで建造され、その上で『返却』された機体か」
「ええ。イージス艦のパーツが元になっただけあって、その機能はとんでもないもんですよ」
 搭載された重火器の数々を指さしながら技術者は語ります。
「見ての通り、ガトリングガンのMk15Mod2ファランクスやMk 41といった垂直ミサイル発射システムがゴテゴテ取り付けられてるだけあって、その火力はもはや規格外です。勿論、イコンに搭載できる規模に調整されてはいますが、それにしたって破格ですよ」
 語りながら技術者は少し歩き、機体の後頭部を指さす。
「後、イージス艦のパーツを使っただけあって、後頭部にはフェーズド・アレイ・レーダーがついてます。あれが名残ですね」
 数々の重火器をじっくりと見据える鋭峰に技術者はなおも告げる。
「あれだけ積んでるおかげか、この機体は多数の目標を同時に捕捉および迎撃可能でしてね。それを実現する為に、火器管制は機体をパイロットと接続することで行われて、それを最大限活かせば、『パイロットが撃ちたいと思う』だけでミサイルを発射したりも可能でしてね――」
 強調するように一拍置いて、技術者は続ける。
「――それこそ目線イコール射線といえるほどの超高速かつ超精密なロックオンも可能なほどです。ですが、一つ問題がありまして……」
 一度そこで間を置き、技術者は口を開いた。
「ただし、パイロットは多数の目標を捕捉しつつ大量の火器管制を行う必要がありまして、更には射撃に必要な極めて高い空間把握能力を求められるもんですから、神経伝達物質を増幅する劇薬の投与を余儀なくされるんです」
 その事実に、鋭峰も驚いたようにみえる。
「この機体のパイロットに求められる情報処理量はおよそ人間の限界を超えてましてね。いかに心身ともに進化した契約者とはいえどもそう簡単にできることでもないんですよ。だから、それを解決する手段として劇薬の大量投与という方法に落ち着いたようです」
 痛ましげな表情で技術者は語り続ける。
「そのおかげでパイロットは大量のミサイルが飛んでこようともそれを片っ端から撃ち落とす……それどころか、あくまで理論上ではありますが、砲弾に砲弾をぶつけるなんて真似もできるわけです。ですが代償として、パイロットの五感は激しく疲弊すると思われます。そんなわけで、これも禽竜と同じくパイロットを省みない機体なんでしょうな」
 技術者がよじ登ってコクピットを開けると、中から現れたシートには、まるでタコ足のように無数のチューブが伸びている。
 しばし絶句する鋭峰。
 技術者は床に降りると、今度は機体の両肩に装備された一対の砲を指さした。
「後、特徴的なものといえば、あの砲ですね。あれは磁軌砲です」
「磁軌砲だと? そんなものはイージス艦のパーツに含まれていなかった筈だが?」
「どうやら、奪取したパーツの中にあったオート・メラーラ社の艦載砲を改造したらしいですね。そして、もう一つは腰に取り付けられてる四基のアンカーです」
 技術者が指さす先、機体の腰部には確かにアンカーが四基、取り付けられている。
「この機体はコンセプトからも判る通り、激しく動きまわるよりは一所にどっしりと構えて迎え討つタイプの――いわば拠点防衛用の機体です。その関係か、拠点や母艦との連携が前提ですが、あの両肩の二連装磁軌砲には凄い運用方法がありまして」
 あらかた説明を聞き、鋭峰は頷いた。
「ふむ。概ね理解した。それとまだ聞いていなかったな、この機体の名前を――」
 すると技術者は待っていたとばかりに答える。
「先程お話した通り、この機体はイージス艦のパーツが組み込まれた拠点防衛用の機体です。ゆえに、盾竜――我々は、そう呼んでいます」