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【YEAR END STORY 稽古場】
 舞台タイトルが書かれた張り紙のある稽古場の中はヒロインの泉 美緒(いずみ・みお)がいなくなってしまった事態にざわついていた。
公演はもうすぐで、最終練習中。焦っているのだろう。

 ヒロイン候補たちが犯人なのでは? じゃあ誰がやったんだろう。配役が合ってないとか文句言ってた人いたよね?
 そんなもしかして、という疑惑が飛び交い、空気が重くなる。美緒以外に候補とされている役者たちにじろじろと視線が集中する。
「皆さんお静かに! トラブルはわたくし達で解決しますわよ」
 エンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)はパンッと手を叩く。落ち着いているように見せるが、妹分である美緒の行方がわからないとなっては不安だった。
「確かに不安でしょう。私も気がかりで、美緒を探しに行きたいところです。ですが美緒が戻って来た時に万全な状態で迎えてあげたいですわ」
 そうだな、と頷く声が聞こえる。美緒のファンでこの公演に参加した者もいるし、準備が中断されたままでは公演に間に合わない、という声もあった。

「私に加勢してくれる方はこちらに!」
 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)は捜索班に加わってくれる人たちを集め、稽古場の外に移動した。稽古に集中しなければいけない時に、残った役者たちの気を散らすようなことはしたくない。
一次別室に移り、作戦を立てることにする。

 脚本の登場人物は役者の下の名前はそのままに、苗字だけ変えてフィクションの人物として描かれている。見ている人がキャラの名前を把握しやすいように、本人が役に入り込みやすいようにとエンヘドゥが考えて書いていた。
 ヒロインの項目には「神代 美緒」といった具合になっている。

 美緒が戻るまではエンヘドゥが代役として練習を続けることになった。脚本担当ということもあり、美緒のことはよく知っているからか皆もその方がやりやすいと納得してくれているようだ。
 年末の忙しい時こそ、舞台を見てほっと落ち着ける時間を過ごして欲しい。
 エンヘドゥはそんな思いで企画した。自分たちも年末進行で忙しい時だけれど、トラブルが起こったからと準備が穴だらけになってしまっては、美緒にも観客にも顔向けできない。