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A NewYear Comes!

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A NewYear Comes!

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「あ、『ストーク』もうなくなるので追加お願いしますー」
「了解」

 寿子たちの右隣のブースでは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)たち、サークル『イコプラのフロンティア』が忙しそうに働いていた。
 イコンのプラモデル、通称イコプラをメインに作っているサークルで、ガレージキットやオリジナルのパーツなどを配布・販売している。カスタムパーツやカスタムモデルも多く、イコプラファンの間で少しずつ名前が知られてきた店だ。
 また、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が実際に作ったフルスクラッチイコプラも展示していた。そんな製作者であるアレーティアは、訪れたお客がの質問に丁寧に答え、展示物のフルスクラッチについての説明もしていた。
 彼女の横で柊 早苗(ひいらぎ・さなえ)アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)が笑顔で接客をしていた。
 アニマはアレーティアのように展示しているイコプラや配布物などの説明をし、早苗は売り子として忙しそうに、だが楽しそうに動いていた。

「ありがとうございましたー」

 今まで続いていた客足もいったん途切れ、一息つく余裕ができた。

「大丈夫? アニマさん疲れてない?」
「平気ですよ早苗さん。何だか今日はいろんな人とお話しできてとっても楽しいんです」

 コスプレ用にと作られたはずが、実戦用でも使えるような仕様(さすがに制御はかけてあるが)にアレーティアによって作られた衣装を身につけてアニマは笑顔で答えた。

「それならばよい。楽しんでくれれば何よりじゃ」
「はいお母さん。お母さんが作ってくれたこの服もみんな褒めてくれてとっても嬉しいです」

 『お母さん』と、アニマを設計・修復したアレーティアに告げれば、どこか嬉しそうに返事が返ってきて、アニマもつられて嬉しくなる。

「適度に休憩を取るんじゃぞ。わしは改めて隣に挨拶にいってくる。真司、桂輔。休憩がてら買出し行って来い。そろそろお腹も空いてきたころじゃろ?」

 ひゃっほう、とカメラを取り出した柚木にひんやりとした感触が後ろから当たる。

「もう解ってると思うけど、桂輔」
「……はい。買出しですよね、アルマさん」

 ホールドアップの態勢でギギギと後ろを振り向けば、わかっているならよし、と満足そうに頷くアルマの姿があった。

 紫色のパイロットスーツ風のイコプラコスがよく似合っている。

「アルマのやつももう少し大人しくしててくれたら可愛いのになー」
「……それ、お前が怒らせなければいいだけなんじゃ……」
「うわ、あそこのコスレベル高い! 先輩、行って見ましょうよ〜」

 置いてきたとばかり思っていたカメラをすちゃっと手に構えて目を輝かせる。
 先ほど怒られたばかりだというのに懲りていないな、と呆れる柊の視界の端に何かが映った。

「あれ……?」
「どうしたんですか?」

 柊がすたすたと方向転換して歩きだしたので、柚木も慌てて追いかける。
 追いついた柚木の目に映ったのは、他のサークルを眺めて歩いている長谷川の姿だった。

「真琴、お前何やってるんだそんな格好で……」

 柊の姿をみて固まった長谷川に、少し気まずそうに頬をかいて柊は続けた。

「……まぁいい、今買い出しに行くとこなんだが、ついでだからそっちの分も何か買ってくるが何か欲しい物はあるか?」

 一人だけならまだしも、知り合い二人目に遭遇して、長谷川は動揺を隠すことができず、上ずった声のまま「水!」とだけ叫んだ。

「ふふ〜、教官〜。ここで再び会ったのも何かの縁ですよ。しかもさりげなく衣装チェンジしてるじゃないですか! さ、もう一枚!」

 先ほどと同じようにブルースロートを元にした衣装なのだが、先ほどよりも少し露出が高くなっている。
 一度写真に収めたらもう撮らないと思ったのだろうか。安心しきって動揺しまくりの長谷川に追撃をかけるようにカメラを手ににじり寄っていく。

「おい柚木、その辺にしといたほうが……」
「せっかく長谷川教官がこんなに可愛らしい服装でいるって言うのにもったいないじゃないですか!」

 柚木の言葉に長谷川は口から出す不思議な音程とともに顔の熱も上がっていくようで、みるみるうちに赤くなっていくのが分かる。

「いつもの整備服やスーツもいいけど……こういうものを見られる機会なんてそうそうあるもんじゃないし!」
「いや、でもな」
「大体こんな状況で写真に撮るなってほうが苦行って言うか、わざわざ映画館行ってでも結局映画見ないで帰るようなそんな感じなんですよ! ともかく、ここはせめて一枚だけでも――」

 柊の同意を得ようとくるりと後ろを振り向く柚木。しかし、柊の側には先ほどまではいなかったはずのアルマが気配を消して立っていた。

「あれー……アルマさん、いつからそこにいらっしゃったんで……?」

 だらだらと背中を嫌な汗が流れていく。
 肩のレースを優雅になびかせながら、アルマは無表情に柚木のことをじっと見つめていた。そしてすっと銃を取り出すと、ほんのわずかに口角をあげて柚木に向ける。
 だから言ったろという顔で柊が柚木にこくりと頷く。
 再び、柚木は外へと向かって走り出すのだった。

「私、なんかまずいことしちゃいましたかねー……?」

 長谷川が少し困った顔で柊を見上げてくる。

「あー……気にしなくて大丈夫だと思うぞ」

 少しだけほっとした様子の長谷川を見送って、柊は当初の目的である買出しへと向かうのだった。

「なんじゃ、まだこんなところにおったのか」

 買い物袋をいくつもさげてブースに戻る途中の柊にアレーティアが声をかけた。

「アルマから聞いたぞ。また柚木が遊んだらしいな」
「ああ、まあ、何というか」

 その後結局捕まってしばらくお説教を食らった後、より厳しくなったアルマの監視付きで仕事に従事させられているらしい。そもそも手伝いに来ていたはずなのだから、強いられているというのもおかしいが。

「ところで……なんでそんなもの持ってるんだ?」

 真面目な顔をしたアレーティアの持つ紙袋から、肌色成分の高い表紙の薄い本がちらちらと見え隠れしている。しかも、男と男だ。

「これか。さっき寿子のところに挨拶に行ったんじゃが、今回の配布用のガレキを渡したら代わりにとよこされたんじゃよ。詳しくは見てないが、寿子たちが作ったんじゃろ。後でちゃんと見ないと――」
「いや、むしろそれはやめといたほうが」
「なぜじゃ?」

 詳しく説明できないもどかしさに頭を抱えながら、柊はアレーティアとともに再びブースへと歩き出すのだった。