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序章 不穏
小雨の降る、風の強い陰鬱な日だった。イルミンスールの森の木々はざわめくように揺れ、不穏な雰囲気を宿している。
そんな森の外れに、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)とユーフォリア・ロスヴァイセは佇んでいた。
二人の眼前には、無数の蔦に取り巻かれた石造りの屋敷の扉がそびえている。
「こんなところに遺跡があったなんてな」
キロスは周囲を警戒するように見回しながら、遺跡の扉へと近付いた。
「ユーフォリアの道案内がなかったら、辿り着けなかったな」
「そのことなんですが……私も、今回の調査に同行させてもらえませんか?」
「調査に?」
「ええ。私、五千年前の記憶にはまだ曖昧なところがあって、思い出せないことがいくつもあるんです。
でもこの鍛錬所には、何か記憶を取り戻すきっかけがあるかもしれない。そう、思って」
「ま、確かに当時を知るユーフォリアがいてくれれば、心強いな」
キロスは蔦や花に覆われた遺跡の扉に手をかけ、言葉を続ける。
「か弱いお嬢さんなら『俺が守ってやるよ』と言うところだが、元シャンバラ女王の影武者とくれば充分すぎるほどの戦力だな」
にやりと笑うキロスに、ユーフォリアは手にした槍をくるりと回して微笑んだ。
「それに、あの空賊の女を放っておくわけにはいきませんし」
「そうだな……棺の中のことまで知っていたとなると、只者ではなさそうだしな」
「棺の中?」
「ああ。あの女首領、『琥珀の眠り姫が抱えて眠る不老不死の秘薬』を俺が狙っているんだろう、とカマをかけてきたんだが」
キロスは思案顔のまま、いつもより低いトーンで言葉を続ける。
「ーー棺の蓋から透けて見える眠り姫は、確かに瓶のようなものを抱えて眠っているんだよな」
「そのことを知っている方は、どれくらいいるんでしょう……」
「眠り姫の棺を運び出した俺くらいのはずだ。それまでは誰も気流コントロールセンターから運び出していないしな。
五千年前からそんな言い伝えが残っていたのかもしれないが、調べた限りどこにも載っていなかった」
「それは気になりますね……」
風が強まってきたのか、木々が唸るような音でざわめいている。
「……で、とりあえずここまで来たのはいいけどよ」
手をかけていた巨大な石造りの扉の表面をなぞりながら、キロスは声のトーンを元に戻す。
「この扉、封印されてんのか?」
「少し待っていてくださいね。ええと、確か……」
ユーフォリアは槍先で扉に絡んでいる蔓を軽く払うと、扉の溝に指を滑らせた。
幾何学模様を描くように規則的な動きで文様をなぞると、その扉は重く響く音を立ててゆっくりと開いていく。
「そろそろ、皆さん集まってきたようですね」
深みのある笑みを浮かべるユーフォリア。
キロスはそれ以上追求することができず、木立の陰から続々と集まってくる皆の姿を見ていた。
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