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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:いつか辿り着く戦場

 炎が吹き荒れた。
 警告音が操縦席に鳴り響き、外面装甲の熱量が上昇するのが計器を通して確認できた。
 上へ下へ、右へ左へとブースターを吹かせて移動する。
 地上を見れば自機と隣を行くイコンの影が見えた。
「ごめんなさいね。あれだけ濃密な訓練を受けたから一対一ならそう簡単にやられはしないだろうって考えてたのだけど……」
 通信が開き、メイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)の声が東雲姉弟たちに届いた。
 彼女の後ろからさらに声がかかる。
「メイちゃん、やっぱり初陣でドラゴンはスパルタ過ぎたんだよ」
 メイのパートナー、マイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)だ。
 彼女は葛城たちの記録していた東雲姉弟の訓練内容を思いだす。
 脳裏に浮かぶのは恭也が自爆した場面だ。
(あの人達の訓練よりドラゴン相手の方が緩い気がするのは多分気のせいだよね?)
 彼女たちの乗るダスティシンデレラの後方に幾匹かのドラゴンの姿があった。どれもかれもが火を噴いてこちらに迫ろうと翼を羽ばたかせている。
 予想以上にドラゴンの数が多く、さすがに危ないと判断して離脱したのだ。
「いえ、貴重な体験が出来て嬉しいですよ」
 珍しくメインパイロットとして操縦できるのが愉しくて仕方がないのか、優里が笑みを浮かべて答えた。彼の後ろ、風里がつまらなそうに呟いた。
「サブは楽で良いわ」
「あはは、僕はいつもそこで楽してるんだからたまには代わってくれてもいいでしょ?」
「そうよね。優里はロボット大好きですものね」
 ブースターの出力が徐々に上がっていくのが計器越しに見えた。
 それが答えなのだろう。やれやれといった様子で風里は腰を深く落とした。
 操縦席に身体を預ける。
「ドラゴン退治は出来なかったけれど、実戦でも問題なくイコンは動かせるのが分かったのは収穫でしょうか」
 ダスティシンデレラが手にした銃でドラゴンたちを威嚇する。
「プラヴァーの性能に助けられている部分もあると思うんですけどね」
「イコンで戦うということはそういうことです」
 メイの言葉に優里は肩を落とす。
 それは未熟という事実も意味するからだ。
 先日のイコン訓練を思い返して悔しさが彼の胸を過ぎる。
「終わったことをいつまでも考えてもしょうがないわよ」
 優里の心中を察してか風里が声をかけた。
「将来はあいつらと生身で戦うんでしょ。まだこれからよ」
 風理は言うと後方を飛ぶドラゴンを見やる。
 熟練冒険者でも戦うのが厳しいとされる竜種。
 それを倒すのは優里のパラミタでの目標の一つであった。
「そうだね。頑張るよ」
 優里の声を聞いていたメイが笑みを浮かべて言った。
「私たちも後輩に追い抜かれないよう頑張らないといけないですね」
「メイちゃんは真面目さんだから大丈夫だよ」
「マイ姉さんがいてくれればいくらでも頑張れます」
 仲の良い姉妹なのがその言葉の端々から受け取れた。

 山から離れるとドラゴンたちが巣へと戻るのが見えた。
 東雲姉弟がドラゴン退治を成すのはいつになるのか、それはまだわからない。