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リアクション
『猫のお祭りを楽しもう!』
●アピシニア:お祭り会場
契約者たちが事件を解決したことで、アピシニアの猫祭りは例年通り、賑やかに行われていた。
人々は猫の姿に仮装し、思い思いに歌や踊りを舞い、屋台では色んな食べ物が売られていた。
「ほらほら、焼きそばですよ。これを食べてぜひ「きゅっぷい」って言ってください」
「言わないッス! てかなんだか目が怖いッス! すっごい食べられそうな気がするッス!」
詩穂がにっこり笑顔で六兵衛に焼きそばを迫り、六兵衛が何か危機感のようなものを感じたか必死に抵抗する。
「結局この子たちは、自分をかわいがってくれた子のために頑張っていたってことなのかな」
栗が、屋敷から連れてきた猫をふにふにしながら、呟く。突如姿を消してしまった女の子にもう一度会いたかったのか、猫の考えは読めなくともなんとなく想像は出来た。
「うぅむ……私はあのオービタルストーンがどのような力を持っておったのかが気になるがな。
思うに、物や人をどこか別の場所……それこそ世界を飛び越えて移動させるような力を持っておるような気がするのじゃが……」
「また、機会があったら調べてみたらどうかな。僕は……今はお菓子が食べられて満足だから」
綾香がオービタルストーンについて推測を並べ、レテリアが屋台で購入した猫型のお菓子を頬張って満足気に微笑む。
「豊美ちゃん、今回は災難でしたわね」
「はぁ……皆さんには心配をかけてしまいました。助けてくださってありがとうございますー」
「我らは言うほど何もしていない。……結局、レイラも置き去りになってしまったわけだしな」
「そうでございますね……レイラさんが既に亡き者となっているとはいえ、悲しいお話です」
ユーリカとイグナ、アルティアに労われ、豊美ちゃんが安堵したため息を吐く。
(……結局、レイラという少女がいた空間はどうして生まれたんだろう。それにオービタルストーンの在処……あれがもし悪用されるようなことがあったとしたら……)
一行の後ろでは近遠が、今回の事件で未解決である部分に考えを巡らせていた。
「近遠ちゃん? どうしたんですの」
「ん、ああ。いや、何でもないよ」
ユーリカに呼ばれ、とりあえずそれらを一旦棚上げして、近遠は一行に追い付く。
「うわー、本当に猫だらけね。……って、今は私もセレアナも猫なんだけど」
「本当ですね。普段ならこのような格好は、その、恥ずかしいのですが……これだけ居ると、少しは気が楽になります」
アピシニアの町中を、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が歩く。ちなみに二人とも猫の仮装をしており、セレンフィリティは白と茶のまだら模様、セレアナは白であった。
「あっ、あっちで猫型のお菓子売ってる! 行ってみよっ」
「セレン、そんなに急がなくても屋台は逃げませんよ」
「そうだけど、でもちょっとでも長く、楽しみたいじゃない! セレアナと一緒にさ」
笑って言って、セレンフィリティがセレアナの手を取る。
「……ええ、そうね」
セレアナも笑って、セレンフィリティに手を引かれて屋台へ向かう。
「ねえ、これ耳から食べた方がいいの? それともこの顎の部分から食べた方がいいの?」
セレンフィリティが猫型のお菓子(地球で言うところのどら焼きのような生地で、猫の顔を模している)を手に、どう食べ始めるべきか真剣に悩んでいる。
「……どちらでもいいのではないかしら」
「いいえ、これは重要な問題よ。どちらでもいいなんて話で済ませちゃダメ」
なおも真剣に悩むセレンフィリティに呆れと微笑みを混ぜた表情を向けて、セレアナがお菓子を口にする。
「あ、美味しい」
「すみませーん、これとこれとこれとこれを……」
ある屋台で売られていた、猫のアクセサリーや置物をセレンフィリティが右から左へ片っ端から買おうとして、セレアナが口を挟む。
「セレン、そんなにたくさん買って、どこに置くつもり?
それにさっきから、あなたちょっと無駄遣いし過ぎよ? 少しは貯金しなさい!」
「むー、セレアナ、お母さんみたいだよ! 大丈夫だって……多分」
「多分、じゃないでしょう、もう……」
これではまるでデートというよりは、母親と子供のようだと一瞬思いながら、セレアナはやっぱり買おうとするセレンフィリティを押し留める。
「あっ、何あれ、面白そー! セレアナ、ちょっと行ってくるね」
そう言って、セレンフィリティが広場の一角で行われている催し物に飛び入り参加を申し込む。それは猫の足を模したグローブをつけての叩き合いで、その名も『猫パンチ選手権』だった。
「ふふふ、我が奥義『猫の千手観音』をくらうがいい!」
「いたたたた! ど、どうして猫の手が分身してるの?」
そんな感じで、楽しそうにしているセレンフィリティを見ていると、セレアナもなんだかんだで楽しい気分になってくる。
(もう……私も随分、あの子のペースに引きずられているのかしらね)
『恋は盲目』という言葉が果たして適切なのかはさておき、気付けばセレアナも声を上げ、セレンフィリティの応援をしていた。
「美紀は……その、猫の仮装はしないのですか?」
セラフィー・ライト(せらふぃー・らいと)の問いに、彩光 美紀(あやみつ・みき)は少し恥ずかしそうに呟く。
「うん……私がやっても、似合わないと思うから。恥ずかしいのもあるし……」
「そ、そう……」(ああもう、そんな事無いのに! 美紀がやったら絶対似合うのに! 私が保証してあげる!)
心の中で悶え苦しむもう一人の自分を意識するセラフィー。彼女は美紀のことがどうしようもなく好きであり、ヴァルキリーとして主である美紀の安全を護るという使命の裏で、美紀が恥ずかしい目に遭うのを期待してしまっている自分に葛藤することがあった。
「あら、そうなの? うーん、困ったわね」
そこに、猫の仮装をした女性が何やら困った顔を浮かべているのが目に入る。
「えっと、どうしましたか?」
美紀が気になったらしく、その女性に声をかける。話によると急用が出来たらしく、少しの間売り子を手伝って欲しいとの事であった。
「わ、私でよければ、お手伝いしましょうか」
そう申し出る美紀に、セラフィーはあぁ、やっぱりこの子は心優しくて素敵、と改めて惚れ直す。
「ホント? ありがとー。じゃあ奥に着替える場所あるから、そこで着替えてきて。服も置いてあるから」
「え? その……着替えないとダメ、ですか?」
美紀が不安げな顔で尋ねる、というのも女性の服装は随分と身体のラインが出ているものだったからである。
「今日は猫のお祭りなんだから、ね? ほらほら、あなたなら大丈夫、きっと似合うから」
「え、あ、その」
結局押し切られる形で、美紀が店の奥へ連れて行かれる。
(こ、これは美紀のきわどい格好が見られるチャンス!?)
そう思うと、セラフィーの心は今から既に有頂天であった。
「み、美紀? どう、着替え終わった?」
「えっと、ま、まだ、かな」
部屋の向こうで今か今かと待つセラフィーが、堪え切れなくなって扉を開けてしまおうかと思った矢先、中から美紀の声が聞こえる。
「セラフィー、は、入ってきていいよ」
聞いた瞬間、セラフィーは扉に手をかけ中へ入っていた。見た人がいたら「爆発的な加速力だった」と言っただろう。
「ど、どう、かな。うぅ、やっぱり恥ずかしいかも」
もじもじとする美紀の衣装は、女性が着ていたのとほぼ同じ、結構きわどいものだった。
(き、きたー!!)
ひときわ胸が高鳴るのを必死に抑え、セラフィーはなんとか言葉を口にする。
「その、似合っていますよ、美紀」
「本当? ……そっか、セラフィーがそう言ってくれるなら……うん、ありがとう」
笑顔を向けられたセラフィーの中で、何かがプツン、と切れる。
「――――!!」
「わ、せ、セラフィー?」
瞬間、セラフィーは美紀を抱きしめていた。唐突な行動に戸惑う美紀に、ハッ、とセラフィーが我に返る。
(あああああどうしよう、やっちゃったよーー!!)
バッ、と離れ、気まずさから背を向けるセラフィー。次の言葉に悩んでいると、背後から腕を回される。
「えっと……この格好、ちょっと寒いから」
「――――!?!?」
美紀に抱きしめられていると分かったセラフィーの顔が真っ赤になって、直後、ふにゃあ、と脱力する。
「あれ、セラフィー?」
「きゅう……」
どうやら刺激に、セラフィーが耐えられなかったようである。
この調子で、果たして二人の仲は深まるのであろうか……。
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