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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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『暴かれる、事件への過程』

●屋敷:1階左

 扉を開けると、本特有の匂いが漂う。
「ここは書斎ね。ここで手掛かりを見つけましょ」
 扉を閉め、中に猫の気配の無いのを確認して、ルカルカコードが被っていたマントを取り、本棚へ向かう。
「研究員の日記や報告書が見つかるといいが……む、これがそうか?」
 一冊のファイルのようなものを手にしたコードが中身を改める。狙い通り、ある研究員が書き残した日記であるようだった。

『……所長の研究は、一人娘を不慮の事故で亡くされてから変貌してしまった。
 それまでは、地球でも使用が可能な新エネルギーの発見だったはずだ。なのにいつの間にか、娘を死後の世界から連れ戻すなどというようなものに変わってしまった。
 もう、所長の方針に従うことは出来ないだろう』


 そのファイルには、研究員がこの屋敷に配属されてからの研究に対する希望、元々ここでは多くの猫を飼っていたらしく猫の様子や絵、しかしいつからか不満や絶望が綴られるようになっていき、最後に上の文を残してその後は白紙となっていた。
「……なんだか、後味の悪い話ね。これを書いた研究員はどうなったのかしら」
「分からんな。ここを去ったか、ここで事件に巻き込まれたか……他にも手掛かりを探してみよう」
 コードの言葉にルカルカが頷き、調査を再開する。


●屋敷:1階右

 おそらくは倉庫として使われていたであろう扉が開かれ、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が中へ足を踏み入れる。すると待ち伏せていたように猫がとん、と詩穂の足元へ降り立つ……が、
「おっと。どうです? 光があるのに影がない、なんてびっくりしましたか?」
 そう微笑んだかと思うと、素早く触られないように首根っこを掴んで開いていた穴の外へ放り、穴を塞いでしまう。
「ふぅ。察知能力がほとんど役に立ちませんね。感じはするのですが微々たるものです。猫にとっては、積極的に害をなそうとは考えていないのでしょうね」
 詩穂が呟く。光を乱反射させることで影を生み出さない光を生じさせ、辺りの視界を確保してはいるものの、突然飛び出してくる猫に触れられる可能性はまだ十分に残っていた。
「気をつけて行きましょうか。
 ……さて、ここはどうやら倉庫のようですね。手前が食堂でその次がトイレやシャワールームで、ここが倉庫ですか。随分と荒らされていますねぇ」
 辺りを見回し、散乱する箱や割れたビンの欠片を見つけ、ここが食料を保管する倉庫であったことを確認する。仲間の情報から、他にも研究員が住み込みで研究をしていたようだが、段々と所長の方針に嫌気が差していったとの事なので、大方食料を持ち出して夜逃げでもしたのではないだろうか、そんな想像を巡らせる。
「うーん、少しお腹が空いてきましたね。魔法少女が自ら作ったお菓子を食べるのも味がありませんし、ここは事件を手早く解決してお祭りの食べ物を食べたいですね。
 噂では焼きそばが美味しいと聞きました。楽しみですねぇ」
 ここで得た情報をまとめ、詩穂が場所を移動する。


『豊美ちゃんの ○○○が あぶない!』

●?

「うーん、魔穂香さんとはぐれてしまいました。
 やっぱり、「私はこっちの扉にしますー」がいけなかったんでしょうか」
 豊美ちゃんが一人、空間の中をさまよっていた。魔穂香と二人で、2匹の猫を鎮めたまでは良かったのだが、現れた2つの扉に別々に入ってしまったため、離れ離れになってしまったのだ。
「困りましたねー。誰かいませんかー」
 呼びかけてみるも、返事はない……と思われたが。

「豊美ちゃん、君を助けに来たっ!
 ……と思ったらオオマチガイナノダー」

 声が聞こえ、豊美ちゃんはしかしその聞き覚えのある声に鳥肌が立つ思いで振り返る。
「その声は……アルコリアさんですね。うーん、誰かいませんかと呼んだのは私ですが、出来ればお会いしたくなかったと言いますかー」
「ふっふっふー、ここで会ったがなんとやら、今日こそ豊美ちゃんをお持ち帰りするのだー」
 苦笑いの豊美ちゃんを置いて、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は謎の機械を隣に置く。
「? なんですかそれは?」
「さあ出てこい、私っ!」
 アルコリアが機械を稼働させると、なんとびっくり、ちっちゃくなったアルコリアが10人生み出される。
「わ、アルコリアさんがいっぱいです」
「そこにわたしもまざってー。……ふふふ、この中にレベル120のわたしがひとり居ます。
 他の子はレベル12なので豊美ちゃんにはどーしよーもないですが、わたしの手にかかれば豊美ちゃんはめろめろ〜」
 掴んだ相手のエネルギーを吸い取ってしまうという手袋をわきわきさせ、あっという間にアルコリア(複数)が豊美ちゃんを囲む。手袋をしてるのはいわゆる本物のアルコリアだけかと思いきや、手袋だけはみんなしてるものだからたちが悪い。
「そ、そんな簡単に負けませんよ! せーの、『陽ノ光一貫』ー!」
 豊美ちゃんが『ヒノ』に光を収束させ、包囲網を突破すべく11人の内の1人のアルコリアへ向けて突貫するも、手袋の前に止められてしまう」
「ざんね〜ん、わたしがレベル120のわたしでした〜」
「ああっ! そういえば私、運は良くない方でしたー!」
 がっくりとする間もなく、豊美ちゃんは11人のアルコリアにいいようにされてしまう。
「魔穂香ちゃんも居ないことですし、二人でうふふであははな時間を過ごしてから逃避行の旅に出ましょうね」
「アルコリアさん今は11人いるじゃないですかー!
 あっ、や、やめてくださいぱんつ脱がさないでー!」
「なんてけしからんパンツを履いてるんですか。これは没収させてもらいます」
「た、助けてくださいー!」


『その頃、魔穂香は』

「魔穂香ー! どこー!?
 困ったなー、魔穂香と連絡取れないよ」
「どうも、魔穂香さんや六兵衛さんが送られた場所と、僕達が送られた場所は別々みたいだね。
 携帯も繋がらないし……ここは何なんだろう」
 空間を歩きながら、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が魔穂香と六兵衛の姿を探す。二人は『INQB』の事務所でお仕事中(尤も、美羽はネトゲ中であった)に豊美ちゃんと魔穂香が消されたと聞いて、合流するべく自らも猫に触れられ飛ばされてきたのだが、どうやら空間は一つではなかったようだ。
「結界みたいな感じなのかな? だったら結界の境目を探して、そこを思いっ切り斬れば、別の空間に行けるかも」
「境目がどこだか分からないよ。それに空間を攻撃したら、僕達も危なくないかな?」
「うーん……じゃあ、魔穂香の所に行けるように、祈る!
 お願いします、魔穂香の所へ行かせてくださいっ」
 手と手を組んで美羽が願うと、

「ニャアアアァァ!」

「……猫が来ちゃったね」
 数メートルに巨大化した猫が、美羽とコハクを見下ろし鳴き声をあげる。
「コハク、どうしよう?」
「一応、頼まれて買ってきたオレンジジュースはあるけど……」
「ああでも、六兵衛居ないや。猫に振りかけたらどうなるかな」
「……あれ、本当に実行するつもりだったの?
 それはともかく、どうかな。こんなに警戒されてたら難しいんじゃないかな」
 美羽のもくろみでは、魔穂香と六兵衛が巨大猫と戦っている時に飛び込み、上空からオレンジジュースを散布、主に六兵衛(と猫)がオレンジジュースまみれになることで猫を遠ざける手筈になっていた。多分六兵衛が聞けば「酷いッス! 僕をなんだと思ってるッスか」と反論しそうであった。

「ライトニング・アキューション!!」

 瞬間、猫の横合いから光線が炸裂、直撃を受けた猫がきゅう、とその場に倒れ伏す。
「美羽、大丈夫!?」
「コハクさん、平気ッスか?」
 直ぐに、『クリミエックス・ゼロ』を携えた魔穂香が、肩に六兵衛を乗せてやって来た。
「魔穂香! 良かった、無事だったんだ」
「ええ、豊美ちゃんと巨大猫を倒したのは良かったんだけど、2つあった扉を別々にくぐっちゃって、はぐれちゃったの。
 しばらくさまよっていたら猫の鳴き声が聞こえて、美羽の姿が見えたから」
 気を失っている猫の傍に降りた魔穂香が、ごめんなさい、と手を合わせて謝る。魔穂香にも、猫が自分たちと遊ぼうとしている事が分かっていたようである。
「そうッス。二人とも、女の子を見なかったッスか?」
「女の子? ううん、僕達は見てないよ」
「どうもその子が、今回の事件の鍵だと思うの。一度私たちの前に現れたんだけど、猫と戦っている間に何処かに行っちゃって――」

「わたしのこと? わたしならここにいるよ、おねえちゃん」

 どこからか声が聞こえたかと思うと、上空から何かが落ちてくる音が響く。
「上ッス!」
 六兵衛の声に一行が上を見上げ、落ちてくる“それ”がケーキや飴といったお菓子を模したものであることに気付く。……いや、実際に漂う香りからそれは本物であるらしかった。
「おねえちゃん、すごいね。おねえちゃん、だれなの?」
「私? 私は、馬口魔穂香。『INQB』所属の、魔法少女よ」
 お菓子の上に立って自分を見下ろす少女へ、魔穂香が自己紹介する。コハクの肩で六兵衛が「魔穂香さんがちゃんと魔法少女って言ったッス」と感動していた。