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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 ウィルコは自分の耳を疑った。
 いままでの記憶と情報が絡み合い、耳にした真実を受け入れることが出来ない。

(……なんだよ、それ?)

 それが、最初に思い浮かんだ台詞だった。

「じゃあ、姉さんは……俺のせいで……今の病気にかかったってのかよ」

 言葉にした瞬間、その事実をウィルコは受け入れてしまった。
 体からすーっと力が抜け、その場にへたり込んだ。

「…………っっ!」

 ウィルコの中で、あらゆる感情が一気に込み上げる。
 拳を地面に打ちつける。力を入れすぎたために、皮膚が裂けてしまった。

(全部、全部、俺のせいだったのかよ。
 姉さんを幸せにするどころか、不幸にしていたなんて……ッ)

 ウィルコは懇願するように、なななを見上げた。

「殺してくれ、金元ななな。俺は、お前のかけがえのない人を奪ってしまった」

 なななが首を左右に振った。

「あの人は死んでない。なななが信頼するお医者さんが助ける、って言った。だから、死ぬはずがない」

 ウィルコを真っ直ぐ見つめ、なななは言い放つ。

「なななはこの事件を本当の意味で解決する。そして、そのために必要なものは全部揃ったの」

 いつの間にかなななの傍に寄ったトマスが時計を確認し、口にした。

「――時間だ」
「え……?」
「君は求めた。誰も傷つけない方法を。そして、シエロを救う方法……いや、言葉を」
「なにを、言っている……?」
「残念ながら、その言葉を言うのは――僕でも、なななでも、ない」

「――ウィルコ」

 聞きなれた声。
 間違えるはずがない。
 ウィルコは振り返る。

「姉、さん……?」

 視線の先では、エドワードに押される形でシエロが車椅子に座っていた。

「なんで、だよ。なんで、姉さんが、ここに……!」

 手から短剣がこぼれ落ちる。
 エドワードはそれを見て、シエロに耳打ちして車椅子から手を離した。

「く、来るな……!
 姉さんを不幸にしたのは、俺のせいなんだから……!」

 シエロは自分の力で車椅子を動かして、ウィルコにだんだんと近寄っていく。

「そうだよ。俺のせいだ。全部、俺が悪いんだ……!」

 ゆっくり、ゆっくりと。
 目と鼻の先まで来たシエロに、ウィルコは泣きそうな子供のように呟いた。

「やめろ、やめてくれ……!
 それ以上近づいたら、俺は確実に――!」

 言葉を遮るように、シエロは彼の体を抱きしめる。

「離せ、離せよ!
 姉さんっ! 一体、何を……!」

 シエロの心臓の音が、ウィルコにまで届く。
 とくんとくんと鳴る鼓動が、彼の心に響き渡った。

「私は、自分のことを不幸だなんて思ったことはないよ」

 予想に反したその言葉に、ウィルコが口をつぐんだ。

「私の病気は治る見込みはないかもしれない。私は周りから見れば不幸な人間なのかもしれない。
 けどね、私は自分のことをむしろ幸せな人間だと思ってる。
 だってこんなにも、自分のことを想ってくれる弟に出会えているんだもん。病気ぐらいじゃお釣りがくるわ」

 シエロは、笑った。
 強がるでもなく、自嘲するでもなく。
 それは、どこまでも明るくて、誇らしい笑顔だった。

「だからね、ありがとう。私をこんなに幸せにしてくれて」

 ウィルコの目に、その笑顔はひどくまぶしいものに映った。

「なん、だよ、それ……。
 そんなの、俺は……俺はぁ……!」

 涙腺が、熱を帯びた。
 あふれ出す感情は涙となって、目尻に浮かぶ。

「チクショウッ! 姉さんは、ほんとに、馬鹿だ……!
 う、うぅ、ばか、だ……! うぁああ…………っ!」

 とうの昔に錆びていたはずの涙腺から、透明の錆びがこぼれ落ちた。