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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

――時間が多少前に行く。

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がゆったりと遠方を眺めて囁く。
「今頃皆でスーパーウルトラセクシーヒーローしてるのかしら」
 ライジング違いではあるが、剣と銃の活劇には変わりない。いずれにせよ勝者となるのは決まっている。
「……今何か?」
 脳裏に囁くシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)の《テレパシー》を幻聴と思い、無視する。さて彼女が頭上のそれに気付くのはいつのことやら。
 では、彼女の話をしよう。
 リカインはESCに乗り込まず、自分らと同じ迷い人たる集団、パラミタ十字教団と難民のキャンプ地にいた。一重に教団のクィーンであるアリスティアを手伝いつつ監視するため。
 未だにアリスティアが教団が欲するような人物には思えないが、仮にその存在理由があったとして、それが何なのか確かめるべきだと思惟する。
 当の本人はというと、大使館から戻ってきてからも献身的に奉仕的に甲斐甲斐しくも負傷者の手当をしている。
 戦闘による負傷者ではなく、戦争による純然たる被害者を介抱する。
 そう見える。
 優しき女王は庇護無き無頼の民におのが身命を削ぎ渡す。まさに聖女というべきか。
 王のこまねかれた手もまた、女王の行いに感化され、彼もまた献身する。剣兵もまた武器を降ろし、衛生兵に成り果てていた。
 成り果てて、果たして彼らは誰を救おうとしているのだろうか。
 ケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)の詩情の思いにはその答えが見えない。
 さしも卑しく地べたを這いずる彼らを異人が救う意味はあるのだろうか。
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は献身の最中に思う。
 まるでここは両壁に挟まれた収容所ではないかと。
 国境線上の僻地。
 よくよく見れば彼らは【ノース】の人間なのか不確かに思える。
 国境の外で見てきた【ノース】人の身体的特徴は白色系でありながら堀の浅い顔をしている。
 対し、【グリーク】人は堀は深いものの、口元は外世界の黄色人種に近い。
 では、難民はというと、そのどちらでもありそのどちらでもない。そしてその大半はそのどちらでもない者達が占めている。
「おじさん。ちょっと聞きたいんだけど、【ノース】の人じゃないですよね?」
「そう、違うよ。俺らのほとんどは別の国の人間だ。【ノース】みたいな排他主義国家には住みたくないね」
 つまり彼らはどちらの国の人間でもない。
 なるほど、隔離される意味合いも難民であるところの意味も何ら間違ってはいない。
 続けて彼はこう話してくれた。
「【ノース】の奴らは基本差別的だからな。特に【グリーク】に対しての差別意識が高くて、昔はハーフの子供を川に投げ捨ててたとかいう話もある。噂だけどな。もっぱら観光客にh愛想はいいけどな」
 後に知らされる、この世界がたったの二カ国しか残っていないことをあわせて考えれば、難民がどうしてこのようになっているのかも納得がいくだろう。
「アリスティアさん。お昼の炊き出し終ったよぉ」
 ゆるい口調で、清泉 北都(いずみ・ほくと)が告げる。後ろの寸胴鍋に白濁したスープが湯気を立てていた。これをすべての難民に配るのは難しいだろうが、多くの人々が甘い香りに誘われて集まってきている。
「分かりました。わたしが配りますので、次のスープを作っていてください」
「少し休んだらどう? アリスティアくんずっと介抱しぱなしだよ」
 リカインが休憩を薦めるが、アリスティアは拒否する。
「まだまだ大丈夫です。カナンの死を待つ人々の家(ホスピス)にいた時よりもだいぶマシですから」
「神の愛の宣教者会(ミッショナリースオブチャリティ)に属していたの?」
「ええ……マザーに憧れて。わたしカルカッタの修道院で育ったんですよ」
 懐かしむようにいうアリスティアだが、何やら悔しむ顔を一瞬だけした。
「さあ配りますよ。手伝ってください」
 表情を払い、列車から持ってきた食器にスープを注ぐ。
 さて、少し視点を変えて鍋の前でオタマをかき回している北都があれと辺りを見回していた。
「あれ……リオンどこ行ったんだろう?」
 リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)の姿がいないことに気が付く。
 さっきまで老婆に話をしていたのは覚えているが、そのさっきまでというのもだいぶ前のことだけど。
 と、北都の脳裏にリオンの声がした。《テレパシー》だ。

リオン:北都大変です!
北都:もうリオンどうせまた迷子になっているんでしょ? 《超感覚》で探してあげるからそこをうごかないで……
リオン:いえ、それより……! ああ、ビルにビルに……!

 どうやらリオンはSANチェックが必要なようだ。