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リアクション
「こちら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)……潜入に成功した。大佐、支持を頼むであります」
ガサゴソ
「大佐、この先にトラップが仕掛けられているようであります……」
ガサゴソ
「大佐……」
「ダンボール被って何言ってるのよ。大佐大佐って」
ガサゴソと動くダンボールの横でコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がツッコミを入れる。壁に擬態したイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)も姿を見せる。
吹雪もダンボールから顔を出して、自身の発言に対しての弁明をする。
「スニーキングミッションの通信相手といえば大佐に決まってるであります。大佐が指示を出し、蛇のコネティックコードを持つ潜士がダンボールで敵地を駆け巡る。これはお約束であります」
「いや、それおかしいから。ワタシ通信先じゃなくて隣にいるし。あなたの言っている大佐って基本裏切っているか発狂するかじゃない」
もしくは、ご苦労だった……と言いたいところが、君たちには死んでもらう。いよいよもって死ぬがよい。の大佐。
「そんなことよりだ……」
イングラハムが割り込んで不満をぶつける。
「なぜ我よりダンボールなのだ! カムフラージュなら我を纏えば完璧ではないか! なぜダンボールを信頼するのだ!」
全身ステルス迷彩オクトカム機能持ちの便利な体をしている。このほんわか触手に絡まっていれば楽に進めるきがするが、なんとなくそれはやりたくないだろう。
「インなんとかさん。それは違うであります。さっきも言ったようにダンボールで潜入するのは必須行動なのであります。開始早々ステルス迷彩を使って楽にクリアを目指すのは例えザ・ボスエクストリームでも許されない行為であります。使うなら二周目以降に限るであります」
もしくは裸に松明、そしてワニキャップか猿のお面。
「吹雪は何を言っているのだ……我には理解できぬ……」
困惑するイングラハムはコルセアに意見を求めた。コルセアは端的に答える
「ゲームのやりすぎよ」
吹雪ならVR訓練10万時間とか軽くやってそうである。
「で、シギント。あれはなんでありますか?」
いつの間にかSIGINT(装備情報担当)の呼び名に変わっているコルセア。突っ込むのも面倒なので、指差す廊下の奥に設置されたトラップ群の説明をする。
「あれはクレイモアよ。対人指向性地雷の一種で、起爆するとC-4爆薬が点火して内部の鉄球が扇状に発射されるわ。有効被害範囲は指向方向60°有効距離50m。リモート式、時限式、トラップ連動式があるけど。あれは赤外線反応みたい。ていうか知ってるでしょ?」
パラメディック口調のコルセアが丁寧に説明したが、これは吹雪に必要なことだったのだろうか。絶対必要無かっただろう。
「で、どうするのだ? 廊下にあれが大量に設置されているぞ。奥には更に【機晶爆弾】か?」
どう見てもこのトラップ群はミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)の仕業です。【機晶爆弾】の前には【対イコン手榴弾】【シリンダーボム】【リボルバーボム】が《インビシブルトラップ》で設置されているのだが、近づかない限りそれを見ることはできない。
一個爆発すれば全部連鎖爆発する配置にしているあたり、作為を感じなくもないが、態と遊んでいる気もする。
更に、その手前の通路には強化サイボーグの巡回がいる。トラップ地帯には行かないようだが、脇の通路への侵入は彼が許さない。
「あれくらいどうってことないであります。この相棒(Myダンボール)があれば」
「ダンボールで何ができるというのだ」
イングラハムが嘲る。
「必要なのはダンボールに対する愛情。それがあれば相棒(マイダンボール)は答えてくれるであります!!」
それを証明すべく吹雪が動く。ダンボールで体を隠し、取手の隙間からワイヤークローの金属糸を射出。壁と天井をダンボールは滑り、床のトラップ地帯を分岐路まで回避する。
分岐路に来た所で巡回が来る。視界に入る前に床に降りてダンボールは動かなくなる。
しかし、こんな近くに部屋の扉もない場所に置かれた不自然なダンボールに巡回のサイボーグが不信を抱かないわけがない。「なんだこれは?」と近づいてダンボールを持ち上げる。
しかしそこは《歴戦のダンボール術》の使い手。ダンボールを持ち上げる時に生まれる死角を利用し、吹雪は底抜けたそれから素早く脱出。サイボーグの背後に回り込む。
「……誰もいない?」
そう呟いたサイボーグは次の瞬間に飛びついた吹雪のチョークスリーパーによって意識を奪われた。頸動脈を圧迫されて彼は床に倒れ込んだ。
これぞまさに《歴戦のダンボール術》――これ絶対狙ってスキルになっているよね――DQCと言うやつだ。
倒れたサイボーグはそのままに、《トラッパー》の技術で認識範囲外からクレイモアを1機匍匐状態で解除。
解除したクレイモアの近くにアンダーグラウンドで手に入れた大人の雑誌『イチャイチャパラダイム』の素敵なグラビアを開いて、設置する。その雑誌が認識範囲に少しはいるようにクレイモアを再設置する。本とクレイモアの距離は1m以上離れている。
星を浮かべて伸びているサイボーグの懐を探り、カードキーを一つ入手する。顔を2回叩いて、目を醒まさせる寸前にする。彼が起きる前に、来た時と同じようにワイヤーを使ってコルセアとイングラハムの元へと戻る。
起き上がったサイボーグはめまいを振り払った後、視界にお宝を見る。
「うほ……これは……!?」
近づいて確認する。
「――いいものを見つけた!」
ダンボールには不信を抱いたくせに、エロ本にはそれはないらしい。サイボーグになっても男の性には逆らえない。むしろ感覚器官の強化でこれも強化されているのかもしれない。性欲を持て余している。
余している部分は他の感覚をもっと他に向けるべきだろう。本を拾う瞬間、クレイモアの探知範囲に体が入る。
爆散するベアリングボールがサイボーグを襲うどころか、他のトラップもベアリングボールに破壊され、誘爆する。トラップ地帯のすべてのトラップが連鎖的に奥へと爆発を広げ、爆破の衝撃は分岐路側へと逃げ場を求めて震えた。
衝撃と爆風がサイボーグを吹き飛ばし、煙と埃の晴れた通路には焦げ付きと無数の穴が開いていた。
「完璧であります――!」
「どこがよ! これ完全にアタシたちバレたでしょ!?」
近づいてくる無数の足音にコルセアが狼狽する。
「見つけたぞ! 一人だ!」
サイボーグがコルセアを見て後方に告げる。後ろからアンドロイドたちが命令に従いついて来る。
「一人って……ええ!?」
オクトカムとダンボールの擬態には誰も気づかない。
「なんでなのよ――!?」
一人追いかけられるコルセアを犠牲に、吹雪とイングラハムは手薄になった奥へと進む。めんウンドコン愛称}っき大差
「コルセアンすまないであります。『楽園(もくてきち)出会いましょう』であります」
ダンボールはガサゴソと進む。