リアクション
▼△▼△▼△▼ 「随分と冷てえ奴らじゃねえか。お仲間が戻ってきたってのによっ。さすがにこの場じゃ、まともに剣も振るえねえかっ」 雲海の渦に迫った機動要塞・扶桑を発見したキロスたちだったが、己自身も周りの巨大デーモンから狙われる立場であるのには変わらなかった。 敵の吐き出すさび色の焼け付くブレスを巧みな操術で上方へ回避する。体当たりを仕掛けてくる魔獣とは正面からデーモン同士を組み合わせて動きを封じておき、キロスが魔剣で翼膜を切り落としに掛かるのだ。デーモンには相手の鼻先を食いちぎらせてブレスを封じる作戦である。 だが、こうして雲海に滞空するデーモンの影を、扶桑から敵を狙い続ける対空機銃が見逃すわけがなかった。銃身から無数に放たれた光弾が、キロスたちの乗っているデーモンの腹部をぶち抜いてしまう。 「こりゃいきなりダメなパターンかあああっ!?」 「ぎゃあーキロスさーん、あっしら死んじまうううー」 「バカ諦めんなっ、デーモン様のしぶとさ、ナメんなあっ!」 腹部に大穴を空けたデーモンが、力なく万歳をしながら錐もみ状態で墜ちていく。 宙に身を躍らせたキロスと操縦士も、為すがままである。 「ダメっす、急降下で決まりっす、ナラカの底までまっしぐらっすよおー! ぬほぇえええー」 雲海に広がる真っ白な雲に埋没すると、一瞬で視界がゼロになってしまった。 「終われねえ……オレのリア充はこれからだっ。絶対にやれる、勝ってみせるっ」 「ワケ分かんないですよおおー、神様、仏様、氏神様、鬼嫁様ーっ、どうかあっしをお助け下せええええっ」 雲の下へ抜けた頃には、墜落してきたイコンなどを回収するための蒼学イコン部隊の影が見えた。 「おいパイロットっ、蒼空のイコン部隊に拾ってもらうかっ! アイツらのどれでもイイ、オレを見習って宙を泳げ、狙いを定めろっ!」 「泳ぐって何ですかあっ、航空学部じゃ習ってないですよお。もうヤケクソだあー」 真っ逆さまに落ちるキロスは力強いクロール泳法で落下地点を定めようとするが、単なる気休めでしかないように思える。 はじめは灰色の点の集まりにしか見えなかったイコン部隊の展開が、やがて中型イコンの編隊であることが分かるようになり、そして軽量化されたパレット・ライフルを1丁しか装備していないことも目視で分かるまでに迫ってしまった。 もうアカン、と呟いた小型飛空挺の操縦士が気絶するのを見て、さすがのキロスにも緊張が走った。 「さっさとオレたちに気づけよ、クソ共がっ。これでどうだっ!」 全身が龍鱗化によって硬質な鱗で覆われた後に龍顎咬によって頭部が龍のそれへと変化し、龍の咆哮によって、辺りには火龍の咆哮が響き渡った。 「キロスくんめーっけっ!」 蒼学イコン部隊の合間を抜けて遙か下まで落ちていったキロスたちをすくい上げたのは、蒼空学園所属のグラディウスという金色の機体に深紅のマントをまとう中型イコンだった。 コックピットに相乗りしたキロスは、パイロットを務める小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、そのナビゲートを務める乗員に礼を告げた。 「助けてくれてサンキュー。今度ばかりは礼を言うぜ。ついでに頼みたいんだが、気絶してるその男を(読み:かえ)還してやってくれ」 「えっ? キロスくんも私たちと一緒に帰るんだよ。これよりも無茶なコトしたら危険だもん」 「オレの事は気にすんな。この大剣ならばデーモンの100体や200体、余裕でぶった切ってやるからよ。最前線にいる扶桑って戦艦がピンチなんだろ? 目と鼻の先にあるんだから、そこまで飛んでいって、落っことしてくれ」 「そんなコトはできないよお、お友だちを見殺しにはできないもん」 「死ぬの前提かよ。つーかひょっとして、扶桑までは飛べないって事か?」 わざと美羽を挑発して利用しようと企んだキロスだったが、彼女の誇る音速美脚が彼の横顔にめり込んだ。 「言うことを聞かない子には足技をお見舞いしちゃうからねっ」 「ぐほうっ。このクソ狭い中で、アゴにめり込むほどの足技をかますとはっ」 「それじゃあ帰ろっか、ベアトリーチェ」 「待て、オレは帰らないぞ。何だったら近くに飛んでる蒼学の中型イコンまで行って、載せ替えさせろって。後はそっちに頼むからよ。扶桑まで飛んでいけないヘボなら、他の奴に頼むまでだ」 事の成り行きをずっと見守っていた長髪にメガネを掛けたサブパイロットベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、毅然とした態度でキロスに反論をはじめた。 「行けますよ。この程度のデーモン相手ならば、まったく問題ありませんので」 「へへっ、いい(読み:め)瞳をしてるじゃねーか」 「美羽さんを悪く言うのだけは止めてください」 「ふたりとも、ケンカしたらダメだよーっ」 「いいぜ。それじゃあ早速、メガネっ子のお手並み拝見と行こうじゃないか。オレを扶桑まで連れてってくれ」 「分かりました。ですけどキロスさん、お連れの方をアイランド・イーリへ連れて帰ったら、また迎えに行きますからね」 「話が早えな、そういう所は気に入ったぜ」 「どういたしまして」 「ベアトリーチェったら――」 「――キロスさんなら大丈夫ですよ。たとえウィッチ・クラフト・ライフルをすべて打ち込んだとしても、キリッとしているでしょうから」 微笑みを取り戻したベアトリーチェの様子に、美羽は彼女のプランを採用することにした。 「それじゃあ、出発だね」 「はい、美羽さん。雲海の上に出たら、飛行経路上に点在するターゲットに対して、ウィッチ・クラフト・ライフルによる先制攻撃をしかけます」 「了解っ。撃ち漏らした相手が迫ってきたら、私が新式ダブル・ビームサーベルに持ち替えて攻撃すればいいんだねっ」 「よろしくお願いします、美羽さん。システムは現在、正常域で稼働しています」 「キロスくん、邪魔しないでよね。グラディウス、発進っ!」 真っ白な雲海を突き抜けた黄金色のイコンが、深紅の外套をはためかせて飛翔する。 次々と飛び交うデーモンを打ち払いながら、ゆるやかな弧を描いて機動要塞・扶桑との距離を縮めていった。 |
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