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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第1章 エリドゥ・調査 Story1

 実戦の授業を通して成長した祓魔師たちに、2人の教師はそろそろ本格的な任務を行ってもらうことにした。
 その初任務として火山の噴火を阻止させ、何人かの黒フードの者…ボコールを投獄したのだった。
 捕らえた者の尋問で得た情報を元に、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)はエリドゥへ再び向かってもらう必要がありそうだと考えた。
 町で目撃情報があった、黒魔術を教えたという存在の情報を集めてもらうためだ。
 だが、捜索ばかりでは、魔法学校にやってくる依頼を積んでしまう。
 そこでラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)と相談し、エリドゥでの情報収集と葦原で任務を行う班に、別れて行動してもらったほうがよさそうだと決めた。



 いつもの如く魔法学校の門の前で、スロースターターな2人の姿があった。
「ふと思ったけど実戦段階だし、ご褒美とかあっても良いわよね?」
「―…どういうことかな?」
「真宵。それは、何か違う気がしますよ。テスタメントたちは、依頼を片付けにゆくのですからね?それと皆さん、先に行ってしまいましたよ!」
 “これからは授業でなく、正式に任務を請けて遂行するのですよ!”というふうに言い、早く現地へ向かおうと急かす。
「い、言われなくたって、分かってるわ!といっても、プリンなんとかの情報収集と、葦原…どっちに行くか…」
「はっ!?プリンですね!プリンのリベンジですね?エリドゥですエリドゥに行くべきです。行かざるを得ません!」
「えっ、まだ何も…」
「ふぅ…、真宵の企みは分かっています。さぁ…、さぁさあ、急ぐのですよ!!」
 おそらくそれが質問なのだろうと理解したベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)は、日堂 真宵(にちどう・まよい)を引きずるようにエリドゥへ連れて行く。



 エリドゥの町で魔性の被害に遭った者の様子を気にかけ、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)はアフターケアを兼ねて訪ね歩く。
「お話を聞くもの大切ですが、彼らの精神状態は今…どのような状態か…。見ておく必要もありますよね、フリッカ」
 治療後の経過は良好か、直接会って確かめたほうがよいとフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)に言う。
「えぇ、そうねルイ姉。治して終わりって、ほったらかしにするわけにもいかないから」
 ノートに書き写していたリストへ目を落として頷く。
「露天で見かけたあの子の家は…、あの煙突がある家みたいね?」
 四角い茶色の煙突を見上げ、合っているかどうかノートを見て確認する。
 授業での実戦後、帰還前に治療してない人がいないか、リストでチェックしていたのだった。
 ニクシーの呪いにかけられた娘がいるという家の特徴も、簡単なイラストを描いて書き記していた。
 被害者の彼女は広場で目撃したから、家まで行って訪問治療することなかった。
 フレデリカはドアをノックし、“イルミンスールの者よ。不幸続きだったって言う女の子と、お話したいのだけど。…今、いる?”と声をかけてみた。
「―…え、何々。何で知ってるの!?」
 パタパタと足音を立てて玄関へやってきた彼女が扉を開けた。
「友達とかにしか話してないのに、誰か喋ったわけ?もうっ…。―…あっ!!」
 誰かが興味本位で来たのかと怒り顔で言い、フレデリカたちの姿を見たとたん、驚きの表情へと変えた。
「あなた、あの時の霊媒師さん!確か…赤毛の魔女の人に、身の回りで不幸なことが起こってないかとか、聞かれて話したんだっけ」
 広場で会ったことを思い出した様子で声を上げる。
「覚えててくれたのね、ありがとう」
「うーん…魔女は誰かわかるけど。霊媒師って?」
「その人のこと」
 ハテナと首を捻るスクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)に、娘はフレデリカへ顔を向けた。
「えっ、フリッカが?」
「レスリー、黙ってなさいよ」
 目を丸くするスクリプトが余計なことを言わないように、肘で脇をつっつく。
 その娘が言い出したことだったが、恐怖心を与えないようにそういうことにしたのだ。
 今更、訂正して無駄に怯えさせるわけにもいかない。
 彼女には“霊媒師”と思わせておくことにした。
「あれから悪いことが起きたりはしてない?」
「ううん、特にないかな」
「そう、よかった。…念のため、調べるから。ちょっと目を閉じててくれる?」
「えー。どんな感じでやるか見てみたい♪」
「見られていると集中しづらいの。…レスリー」
「あ、おっけー。…目閉じてようね?」
 “見えないようにして!”という視線に気づき、両手で娘の視界を塞ぐ。
「いーじゃん、ちょっとくらい」
「あわわ、暴れないでよっ。フリッカ、なんとかしてーー」
「まったくもう、仕方ないわね」
 暴れる娘の背後に回り、振りほどこうとする手を掴む。
 今のうちに調べるようにルイーザへ視線を送る。
 ルイーザはエレメンタルケイジに手を当てて、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「(“影”はいないようですね)」
 淡い輝きを見せたホーリーソウルの光りが、ゆっくりと消えた。
 どうやら呪いは完全に消えているようだ。
「急に気分がイライラしたり、沈んだりしたことはありませんでした?」
「なかったよ?」
「(私たちが離れている間、悪霊からの被害はなかったようですね)」
 ニクシーの対処を行っている時に、グラッジに憑依されていなかったか確認した。
「フリッカ、レスリー。もう離してもいいですよ」
「ルイ姉、どうだったの?」
「問題ありませんでしたよ、フリッカ」
「(あれから何も何事もなかったということね。よかった…)」
 ホーリーソウルのよる異常の反応は見られなかったことが分かり、ほっと安堵の息をついた。
「よくない気ってやつは、なくなったのかな」
「えっ?…ええ、そうね」
「ごまかすのも大変っぽいね」
「うるさい、レスリー」
 にやにやと言うスクリプトに、フレデリカは柳眉を吊り上げる。
「あの…。海で若い女に、不幸の海に沈んでしまえと言われた時…。幼い子供は見ませんでしたか?」
 呪いをかけられて不幸な目に遭った彼女に、嫌なことを思い出させてしまうに違いない。
 その過去について触れるのは心苦しいが、どんな些細な情報でも得なければならいとルイーザが聞く。
「おかしなやつに、ムカツクこと言われた時ね。あいつ大ッキライ!むかつくーっ」
「やはり、そうですよね」
 解決したこととはいえ、何も知らない娘にとっては腹立たしい過去。
 仮に説明したとしても、まだこの町の海にいると知ったら、何をしでかしに行くかわかったものじゃない。
「え、えっと、それで…」
「ん?あー、子供ね?見なかったわ」
「他に何か、不審な点はありませんでした?」
「そーねぇ…。特になかったと思う。あなたたち、人探しかなんかしてるの?その子、迷子かなんかなわけ?」
「ええ、まぁ…。そんなところですね。お話ありがとうございました」
 災害を起こそうとした者たちと、関わりがあるから…などと正直に言えるはずもなく、丁寧に礼を言ったルイーザはフレデリカたちと民家から出ていった。



 家の外で待っていた真宵は口を開くなり、“アフターケアなんて、よくやるわね”と、不真面目なことを口にした。
「治療を終えたとはいえ、皆さんの体調の経過が気になりまして…」
「―…ふぅ〜ん。で、何か分かった?」
「例の子供は見かけなかったようです。ニクシーの近くで、不審なことが起きたということなども、なかったようです」
「一応、組織みたいなものだし。そう簡単に、“頭”は姿を見せないんじゃないかしら。プリンばっか買い漁ってた、へんなやつに任せてそうだし?あっちによっぽど、危機感がない限り…ね」
「危機的な状況…ですか、なるほど…」
 まだ幼い子供とはいえ、それなりの知恵者なのは間違いないはず。
 ボコールたちが祓魔師の存在を知っているのならなおさら、そう簡単には姿を見せないだろう。
「足取りをつかめそうなやつといったら、プリンなんとか?っていうやつね」
「情報収集ですね、判りました。まずはプリンの情報を……」
 喫茶店でいっさいプリンを食べられなかったテスタメントがリベンジに燃える。
 店の扉を堂々と開け、テーブルを片付けている店員を見つけ、ずんずんと近寄っていく。
「お話よいですか?プリンを全部、買い占めたという人について、聞きたいのですけど」
「大きなカートをひいていらっしゃったのですが。今ある分を全て購入していただきました」
「むっ、それではテスタメントが食べる分がなくなってしまいます!」
 せっかくの休暇でスイーツを味わおうとしたのに、その者のせいで一口も味わえなかったプリンを思い出して怒る。
「はいはい、買っていけば?」
 “食べ物の恨みは恐ろしいのですよっ!!”と怒鳴るテスタメントに、呆れた真宵は嘆息した。
「全部、テスタメントのじゃないからね。学校への手土産用にも含まれているのよ」
「あ、はい。それはもちろんっ」
「とりあえず、食べ物のことはその辺で終わらせてくれる?聞き込みが先よ」
「う…わかってますよ。えっとですね、他のスイーツには、興味なしでしたか?」
 閉店してなかったことを考えると、それ以外の菓子などには目もくれなかったように思えた。
「はい、プリンのみになります」
「プリンだけ…ですか。(なるほどなのです、それでプリンねーさんなのですか)」
 きっとそれが例の黒フードたちに、黒魔術を教えたやつかもしれないと考える。
「相手の特徴は覚えているのですか?」
「真っ黒なフードをかぶっていたので、顔は見えませんでしたが。髪は短めで、色は赤紫だったかと。声は若い女の方のようでした。背は…そちらのお客様くらいだったかと思います」
「ふむふむ。身長は真宵と同じくらいなのですね。…体系はどのような感じでした?」
「細めの方のような…」
「ほう…で、胸の大きさは?それも、真宵と同じサイズで?」
「ええっと…」
 店員は買い占めていった客の姿を思い出しながら真宵と比べ、なんとも言い辛そうな困った表情をした。
「ぁあー分かりました。真宵よりも大きいのですね。どんまいです、真宵」
「はぁ!?偽りの詰め物かもしれないじゃないの」
「怒りたくなるのも無理はありません。それが、現実なのですからね」
 テスタメントは店員の顔を見て、それはないと理解したのだった。
 そのセリフの数秒後…。
 お仕置きの頭ぐりぐりをくらったのは、言うまでもない。