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ドラスティック・掘る掘る

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ドラスティック・掘る掘る

リアクション



10

 ドジックら一行は、ヅェオールより明かされた地下研究施設への入口を掘り起こすべく奮闘していた。
 それはグレドール生態研究所内に隠されたソリオン・グレドールの私室であり、病に冒された自分を世界から隔絶させた場所であった。
 その大まかな位置は特定できているものの、発掘を進めながらの探索には時間を要するものである。
 神月 摩耶とクリームヒルト・オッフェンバッハ(愛称:クリム)は、土砂の中よりその全貌を現わしたグレドール生態研究所の屋内へ侵入し、土塊に埋もれた部屋の中を掘り起こしていた。
「ねえねえクリムちゃん、お部屋にいっぱい土が入ってるのって、何だか不思議だよねっ」
「ふふっ。あたしもこんな光景に出くわすのは初めてだわ。お部屋の掃除だと思って、すっきり片付けてしまいましょうか」
「えへへっ、賛成ーっ! 掘ったら何が出てくるか、楽しみだなあっ。ミムちゃん、手伝ってっ」
「はーい! ミムちゃんも、摩耶ちゃんと一緒にがんばるのーっ。アンネちゃんも一緒だよー」
 摩耶のパートナーはミム・キューブで、その仲良しさんがアンネリース・オッフェンバッハ(愛称:アンネ)。彼女はクリムのパートナーである。
 整理すると、摩耶(MC)とミム(LC)、クリム(MC)とアンネ(LC)が、それぞれ契約関係に相当するものだ。
 4人がそろってスコップを振るうと、採掘効率は格段にアップした。
「うわあっ、みてみてアンネちゃん。ミムちゃん、いいもの見つけたのー」
 ミムが掘り出したのは、金の鎖が付いたロケット(ペンダント)だった。
「あらあら。ミム様、すばらしいですわ」
「中に写真が入ってるー」
「ミムちゃん、ボクにも見せてー」
「いいよお、摩耶ちゃん」
 ミムがロケットのフタを苦労して開けると、そこには若い女性のバストショットが納められていた。
「この人、誰なのかしらねえ。顔の造形が、シャンバラ人って感じがするけど」
 クリムの指摘は正しかったようである。
「ここに何か書いてあるっぽいよ。アンネちゃん読めるう?」
「……ええ。摩耶様、ここには“ソリオン”と刻印されております」
「あっ、この人が、ソリオン・グレドールさん……」
 肉付きの薄い面長の顔に、眼の周りが少し落ちくぼんでいるように見えるため、身体が弱そうな印象を受ける。
「後でキャセルちゃんか、ヅェオールのおじいちゃんに聞いてみよっと」
 ロケットを大切にしまい込んだ摩耶たちは、更に採掘を進めていった。
 グランド・エントランスから土砂を除去した摩耶たちは、元々図書室のようであった小部屋を発見した。
 こちらも窓が破られて土砂が侵入していたため、同じように採掘を兼ねた清掃を行う事になる。
「摩耶、ミム、アンネ、張り切っていきましょうっ」
「はーいっ」
「ミムちゃん頑張るよー」
「御意。クリム様が仰せの通りに」
 摩耶とクリムが部屋の奥より土塊を掘って背後へ放ると、それを受けたミムとアンネが部屋の外へと運び出していった。
 土中から現われたのは、ティーセット、年代物の果実ジュース、刃が丸められた手斧、割ったように見せかけられたマキ、角をとってある砕けた機晶石、積み木のようなもの、割れた姿見、腐食が進んだ葉巻のようなもの、割けたお菓子の紙容器、ばらけた化粧品、古びたアルバム、子どもの絵描き帳、インクが染みついた何かの羽根。小動物の巣箱、鳥かご、ドラゴニュートのパペット。竜の絵画。リトル・マルーンの成長にっき、そして、木組みされたオルゴールの小箱。
 すべてが泥にまみれていて、当時の面影はあまり残されていない。



▼△▼△▼△▼


「ここは……浴室でございましょうか」
「そうみたいね。さあふたりとも、頑張って掘りましょう」
「えい、えい、おー」
「ボクも頑張って、掘る掘るするよー」
 ザックザックと掘り進めたら、水道の蛇口、残念なタオル、そして、
「浴槽の栓みたいのがあるよっ」
 と、摩耶がそれを手で引き抜いた時だ。
 しゅぽんっ、と景気の良い音をたてて、桃色のガスが勢いよく噴きだした。
「摩耶様っ!? 皆様も、お下がりくださ……あ、ああっ…!?」
 充満するガスで視界が遮られ、なにも見えなくなってしまう。
「クリムちゃん、どこーっ。どこに居るのー」
「ここにいるわ」
 クリムが摩耶の後ろから両肩に手を置くと、くるりと摩耶が反転した。
「「っ……!!」」
 お互いの視線が真っ正面から交錯した時、胸の奥で熱いものが一気に弾け、張り裂けんばかりに膨れあがっていく。
「クリムちゃあーんっ!」
「摩耶ぁーーっ。さあ、いらっしゃーいっ」
「うわぁーーいっ!!」
 両腕を広げて相手を受け止めようとしているクリムのお腹に、摩耶は両腕で抱きついた。
 そしてクリムの豊かな胸元に顔を埋めた摩耶は、まるで幼子であるかのようにほおずりを繰り返した。
「えへへっ……クリムちゃん温かくて、夢の中にいるみたいっ!」
「摩耶ったらもう、甘えん坊さんねえっ」
 胸元から頬を離して幼気な瞳で微笑む摩耶の素顔を、クリムは両の手のひらでそっと包み込んでから、視線の高さが同じになるようにしゃがみ込んだ。
「どうしてこんなに摩耶は可愛いのかしら」
 かああっと紅潮させた摩耶の口もとに、クリムは自らのくちびるを強く押し当てた。
「――――――――――っ!? !!」
 両目を見開いた摩耶は驚きと歓喜で心が揺さぶられ、一滴の涙が頬を伝った。
 ぺったりと尻餅をついてしまった摩耶のくちびるから、クリムは一時も離れようとせず、もはや彼女を仰向けに押し倒さんばかりの勢いである。
 クリムの勢いに耐えられなくなった摩耶の身体が震えはじめると、彼女はくちびるを離して額と額を押しつけた。
 興奮と動揺でふたりの呼吸は早くなっていたが、それでもお互いを拒むような所作は見られない。
 彼女の指先が、摩耶のえり元を飾っているリボンの端をゆっくりと引いた。
「こういうのって、好きじゃない?」
「こういうのは……嫌いじゃないの」
 上衣のボタンが外されて、摩耶のブラウス姿が露わとなった。



▼△▼△▼△▼


 勢いよく噴出した桃色のガスからみんなを守るべく、しかしそれをまともに吸い込んでしまったのは、アンネだった。
「クリム様っ、摩耶様っ、ミム様っ、くっ……これはいったい」
 辺り一面にガスが充満すると、どこに誰が居るのかさえ分からなくなっていた。
「あーん、ミムちゃんここだよーっ。アンネちゃんドコにいるのーっ!?」
 闇雲に歩いたミムは、目の前に現われたアンネにぶつかって尻餅をついてしまった。
「いったーっ……でもアンネちゃん、みーっけっ」
「なんとっ、もうしわけございませんミム様っ、お怪我はありませんか?」
「ぜーんぜん、平気だもんっ。ミムちゃんはねっ、ミムちゃんは――」
 アンネがミムの手を取って引き起こそうとしたところで、ふたりの視線が重なり合った。
「――ミム様っ」
 ぐいとミムの身体を引っ張り込んだアンネは、そのまま彼女をひしと抱きしめて、むぎゅーっと抱擁したのである。
「はっ、はうわあっ、アンネちゃんっ、苦しいよおっ、うううっ……でもでもミムちゃん、だーい好きなのっ!」
 お互いの身体をすり寄せるように、ふたりはピッタリと抱き合って頬を擦り合わせた。
「アンネちゃんのいい匂いがするねっ。フワフワあったかで、なんだかママみたいっ! えへへっ」
「その様なお言葉はとても、もったいございません。ああですがこのわたくし……愛狂おしいミム様の為ならば、万全にお応えせねばなりません」
「ミムちゃんはね、いつものアンネちゃんが大好きなんだよっ! だからこれからもずーっと一緒にいて、むぎゅーってして欲しいのっ! いいでしょ? ママっ! どこへ行くのも、一緒だよっ!」
 ミムはアンネの頬にキスすると、片腕に抱きついて、しなだれかかった。
「ああもうわたくしはっ、わたくしはミム様の事を……ミム様が愛おしくて、どうにかしてしまいそうですっ……なんて愛おしいことかっ」
 全幅の信頼を寄せてくるミムの頭を優しく撫でつけると、心地よさそうに瞳を細めて、身を打ち振るわせたのである。
「アンネちゃん……」
 哀願の瞳で見つめるミムの横髪を指先でゆっくりと梳いてから、額に、頬に、首筋、鎖骨、二の腕、と続いて足の先まで、キスの雨を降らせていく……



▼△▼△▼△▼


 その部屋から流れ出た桃色のガスに中てられたのは、彩光 美紀とセラフィー・ライトだった。
 彼女たちは偶然にして、その部屋の前を通り過ぎたのである。
「この煙はいったい……あ――」
 ガスを吸引した美紀は足元がおぼつかなくなり、フラフラとよろめいてセラフィーにしがみついた。
「大丈夫? 美紀」
「ごめんなさいセラフィー。なんだか一瞬、気分が悪くて――」
 ふたりはお互いに見つめ合うと、どういうワケか目線を逸らせなくなってしまった。
 セラフィーは美紀の額に手を当てると、もう一方の腕の人差し指を口元に押し当ててウィンクをして見せた。
「ちょっとお顔が赤いみたいですね。熱でもあるのでしょうか?」
「えっ……ううん。そんなコトないと思うよっ」
「おかしいですねえ、また少し赤くなった気がしますわ。お仕事の疲れが出たのでしょうか」
 額から手のひらを退けたセラフィーは、そのまま顔を近づけてお互いの鼻先をすり合わせた。
「せ、セラフィーこそ急にどーしたのっ。その、えっと……ちょっと、恥ずかしいよ。近い近い」
 お互いの虹彩にある紋様までもが、ハッキリと分かる距離だ。
「くすっ。こうして話してると、美紀さんの髪とか、お化粧とか、歯磨き粉とか、いい匂いがする」
「えぇえっ!? ちょちょっとお、待って。ねえ、急にどうしちゃったの? 変だよセラフィー」
 あまりにも超至近戦を強いらて面食らった美紀は、さすがにちょっと退いたらしく、困惑の表情で顔を背けた。
「別に変でも構いません。美紀さんの安全が保障されるのなら、私は無茶を省みないのです」
「私はホラっ、この通り平気だから。さっきはちょっと立ちくらみがしただけっ。だからもう、何も心配いらないよっ? 元気元気っ」
 ぴょんっと脇へ一歩を踏み出した美紀は、セラフィーへ振り返った。そして両拳を胸の前で固めてガッツ・ポーズを決める。
「美紀さん、めまいがしているのに、無理はいけません。呼吸もそんなにせわしなくて、それに……」
 歩幅1歩ぶんの距離でしかない間隔をズイと詰め寄ったセラフィーは、美紀のうなじに手のひらを差し込んだ。
「ひゃあっ!」
「こんなに汗をかいてしまって。このままではお身体を冷やしてしまいます」
 何と言い返せばいいのか、美紀には言葉が見つからないようだった。
 アワアワと口を振るわせるばかりの美紀のくちびるを、セラフィーが手のひらで覆いかくした。
「ジッとしていてください」
 返答を許さなかったセラフィーは制服のリボンをスルスルと解き、前身頃をはだけ、ブラウスのボタンを素早く外していった。
 人目をはばからない大胆すぎるセラフィーに、美紀はただ声を殺して、為されるがままである。
「くすくすっ。綺麗な肌……ああっ、指先でとろけ出しそうっ」
「こ……こんなところでっ……」
「おカゼをひかないように、汗をぬぐって、身体を拭き清めましょう」
 セラフィーは自らの清潔なハンカチを取り出すと、美紀の額から頬を拭ってハンカチを折り返し、続いて首筋、そしてブラウスの内側へと腕を差し入れた。そして腕の届く範囲に対して、隅々まで汗を拭い去っていった。
「美紀さん……ああっ、とっても愛おしいです」
 何もかも為されるがままの美紀は、やがてセラフィーの情愛に魅了されていくのである。



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 突如として噴きだした桃色のガス。
 後の調べでそれは、惚れ薬の作用があると判明した。
 見つめ合った二人は性差を超えて愛しく通い合うようになり、やがて内なる自分を解き放つのだという。
 ガスの効果を無くすには、施設の外に湧出している温泉に、頭からぶち込むのが良いとされている。