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無人島物語

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無人島物語

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 さて一方。
 浜辺と反対側、断崖絶壁から密林へと続く周辺地域に辿り着いた一行も、特に深刻なトラブルと遭遇することもなく、島の時間をゆったりと過ごしていた。浜辺のメンバーと合流しなかったのは、島が広いからではなく、ここで十分居心地が良かったからだ。
 次の日……。
「ほんっっとに、あのバカどこに消えたのよ」
 時折、海を見つめながら夏來 香菜(なつき・かな)は、ぶつぶつ言っていた。この無人島に漂着して、自分たちは生活の準備も終えてなじみ始めたというのに、彼女のパートナーは姿を現さなかった。
「でも、キロスも薄情だよね。船が沈没して波に飲まれて、香菜だって心細かったのに、見失っちゃうなんて」
 ちょっと怒った口調で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は言った。
 彼女も例によってこの島に流れ着き、意外と逞しく生きている香菜とルシアを発見した。以降、一緒に暮らしている。
「美羽先輩と一緒にしないでください。あの男にそんな甲斐性があるわけないでしょう」
 香菜は、少し羨ましそうに美羽を見た。
 美羽のすぐ傍では、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、手伝いをしている。
 美羽とコハクは、波に流されながらも片時もはなれず、一緒にこの島にやってきたのだ。
「どうせなら、もう二度と戻ってこなければいいのに。私もせいせいするわ」
「またそんな意地張っちゃって」
 美羽は、ニッコリ笑う。
「やっぱり、なんだかんだ言って心配なんだね。まあ、彼のことだから今頃海の上で楽しくやってると思うよ」
 絶壁側に流れ着いていた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、一日の仕事の準備をしながらも、香菜を労わるような口調で言った。性根が生真面目な香菜は、この島に辿り着いてから一人一生懸命働いていたのだ。もちろん、ジェライザ・ローズも一緒に食べ物の準備をしたり住処を整えたり大忙しだった。今日も一日、他の遭難者ために水と食料の確保に取り掛かるところだった。
「よかったら、別のところも探して見ようか。もしかしたら、キロスの持ち物などが流れ着いているかもしれないし」
「ううん、ありがとう。ちょっと気になっていただけで、本気で探すつもりなんかないんだから。全然、心配なんかしてないんだから、勘違いしないでよね」
 ちょっと意地を張って言う香菜。そんな彼女を見てジェライザ・ローズは微笑む。
「そうだ。ところで香菜、服を洗濯しないかい? 今、真水を作っているところなんだ。飲んでも良いけど、服も着っぱなしだろう?」
 ジェライザ・ローズは、昨日から作っていた簡易ろ過器が想像以上の効果を挙げていることに驚いていた。
 船から落ちてこの島まで流れてきたのは、何も人間だけじゃないはずだ。海岸沿いを丹念に捜索し、容器類や布地などを要領よく回収して道具を作った。特に、ペットボトルや鍋が手に入ったことは大きい。
 その中に葉っぱや小枝、砂利や土を順序よく入れて、下に向かう口に布を当てる。海水を注ぎこめばろ過されて真水になるという仕組みだ。
 その作業が面白かったらしく、今ルシアがどんどん水を作っている最中だった。
「う〜ん、そうね……」
 香菜も決めあぐねているようだった。貴重な水は飲んだほうが良いのではないか。しかし、衣装の汚れも気になる……。石鹸に似た効果の植物も密林にはあるかもしれない……。
「やる気になれば、結構何でも出来るものね」
 美羽は、感心しながらも香菜と力を合わせて生活を整えていた。
 と……。そんなやり取りを、少しは離れた所から見ている少年がいた。
「っつーか、あいつら何であんなに頑張ってるんだ? みんなでゴロゴロしようぜ」
 やる気のなさそうな口調で言ったのは猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)だった。
 彼は、昨夜くらいから大木を集め縄を結ってイカダを作ろうとしていた。食べたりなかったので腹が減っていて全然元気が出てこない。それより何より、このイカダ作り、すごくつまらないのだ。木を並べて縛るだけ。早くも飽きてきていた。
 彼は、だらだら仕事をしているうちに、救援部隊でも迎えに来てくれないものかと何とか時間をつぶす方法を考えていた。
「洗濯、か。俺も服洗おうかな、……ってか、洗ってもらおうかな、なんてね……えへへ、えへへへ……」
 ジェライザ・ローズの提案を聞き流していた勇平は、ふとあることに思い至った。
「そういえば、洗濯ならパンツも洗うよな。しかも、ここでは手洗い、か……」
 香菜や、ここにはいないけどルシアの……。そして、他のメンバーも……。
 みるみるやる気が出てきて、勇平は凄い勢いで手を上げた。
「はい! 俺やります、洗濯! パンツ洗いの勇平といえば、実はパラミタでもちょっと有名で……、ごふぅ!」
 背後から稲妻を食らって勇平はその場に倒れた。
「実は私、以前からとても興味がありましたの。勇平くんの脳みそがどうなっているのか? 一度くりぬいて確かめてみましょうか?」
 勇平のイカダ作りを手伝っていたパートナーのウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)は、ニッコリ微笑みながら『稲妻の札』を放っていた。
「私たちは、私たちのすべきことをしましょう。イカダつくりましょうね」
「イヤー、シゴトガアルッテシアワセダナァ」
 起き上がってきた勇平は、引きつった笑みを浮かべながら作業を続行する。
「じゃあ、行って来るよ」
 そんな二人のやり取りを微笑ましく見ながら、ジェライザ・ローズは仕事に出かける。



「こっちこっちー」
 波打ち際で、美羽とコハクが手を振っていた。
「先行ってるから」
 ジェライザ・ローズの姿を見て、二人は海に飛び込む。 
「さて、と……」
 島にいる仲間たちを食べさせるために、ジェライザ・ローズは、今日も海辺へとやってきていた。丈夫な枝と、木のつる、尖った石で作った槍を手に、海で魚を取るために。
 彼女の家系に海女さんはいないが、それに倣って衣装を工夫して纏い海へと入っていった。
「ちょっと待って。私も手伝うわ」
 香菜が追いかけてきた。魚を取るジェライザ・ローズを手伝うつもりらしい。
 予め言っておくが、香菜は脱がない。彼女もジェライザ・ローズに倣って衣装を動きやすく纏めてから海に飛び込んだ。当然、先に海に入っていった美羽たちもだ。
「香菜、これを……」
 ジェライザ・ローズは、このことあるを予想して作ってあったもう一本の槍を香菜に手渡した。
「ありがとう」
 香菜は槍を手に取ると、深いところへ潜っていく。
「 V 」
 離れたところで泳いでいた美羽たちがVサインを出してくる。魚の群れを見つけたらしい。そちらへ向かってみる。
(きれい……)
 香菜がゼスチャーした。海中はとても澄んでいて、魚が泳いでいるのがはっきりとわかる。
 その中でも良さげな獲物に十分狙いをつけて、一息で突く! 
「取ったどー!」
 大物を仕留めたジェライザ・ローズは、野生に帰ったように海中から顔を出して叫んだ。
「私も!」
 香菜と、顔を見合わせて頷きあう。
 生きるためとはいえ、食べる際には魚や動物に感謝しないといけない……。
 その向こうで、美羽とコハクが魚を抱えて海から出てきた。
 程よく収穫できたところで、ジェライザ・ローズと香菜は戻ってきた。取った魚は燻製にでもしてみようか……。
「……」 
 ふと、イカダ作りに視線をやってジェライザ・ローズは首をかしげた。
 勇平たちは、作業を放り出していなくなっていた……。

 一体、彼はどこへ……?