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無人島物語

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無人島物語

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「なんだか騒がしいな」
 密林にいた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、にわかに騒々しくなった周辺の様子に、不機嫌そうに呟いた。
 せっかくの無人島ということで、誰にも邪魔されずに修行に専念できると思っていたのだが、誰か邪魔しに来たのか? 
 サバイバルに適した地形で、訓練に向いていることから、彼はこの島に来るなりすぐにこの密林に入り、一人黙々と修行を続けていたのだ。
 昼は『歴戦の魔術』と『ホークアイ』による狙撃訓練。夜は『不寝番』、『隠形の術』『疾風迅雷』、『ダークビジョン』、手刀による暗殺訓練。
 食事は、これらの技でハントした獣や食用モンスターたちだ。過酷な状況は、今後役に立つだろう。充実した時間を送っていたのだが。
「まあいい。まだ慌てる時間じゃないしな」
 そんな連中は放っておけばいい。恭也が訓練に戻ろうとしたときだった。
「わふーーーーーーーーーーー!!」
 突如、木々の向こうから奇妙な裸の娘が彼に向けて突進してきた。胸と腰まわりに大きな葉っぱをつけていたのだが、それが衝撃で外れて何もなくなっていた。
「わーい、行けいけーーー!」
 よくわからないが、抱えられたルシアがけしかけるように騒いでいる。
「!?」
 避けようとした恭也は、すぐに気を変えた。背後から、理知や和麻が全力で追ってきている。これが騒動の元で、捕り物らしい。
「わふわふわふーーーん!」
 レオーナは恭也の横を凄い勢いで通り過ぎようとした。
「……ちょっと手伝ってやるか。修行の成果を見せてやるぜ」
 恭也は、レオーナとルシアを捕まえることにした。抱えられているルシアに当たらないように。
「ワンショット、ワンキル!」
 レオーナに全力の攻撃を叩き込む。
「わふん!!!」
 残念ながらレオーナは戦闘に特化していなかった。戦闘用に研ぎ澄まされた恭也には野生パワーも通じず、その場に昏倒する。
「大丈夫だった、ルシアちゃん」
 理知が、ルシアを助け出した。
「うん。楽しかったわ。私も密林の中を走り出したくなってきたの」
 ルシアは全然元気な様子で、理知に飛びついてくる。
「もっと遊ぼうよ!」
 楽しそうに、理知と一緒に再び密林の奥へと姿を消す。
「よかったら、一緒に来ないか? 一人でやる訓練も良いが、大勢いたほうが効果的に鍛えることも出来るんだぜ」
 和麻は恭也に声をかける。仲間は一人でも多いほうがよかった。
「……まあ、そうだろうな。俺もそろそろ義姉たちを探さないと行けないと思っていたところだ」
 恭也は頷く。こちらも二人で去って行った。
「わ……ふん……」
 レオーナはその場に倒れたままだった。
 どれほど時間がたったろう。そんなレオーナを猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が見つけた。
 仕事をサボって密林に隠れていた勇平は、全裸のレオーナにたじろぐ。
「おとーさん。この人裸だよっ! こんなところでどうしたんだろ」
 猪川 庵(いかわ・いおり)も、恐る恐る覗き込んできた。
「ちょ……、お、お前どうしたんだよ。怪我してるぞ」
 根が純情な勇平は、レオーナに触れることも出来ずしばらくどうしようかとうろうろしていたが、見捨てるわけには行かなかった。喋らず動かないなら彼女は十分な美少女だった。
「か、担いでいくけど、気にするなよ」
 レオーナを助け起こした勇平は、うぐっ! と鼻血を吹きそうになった。背中に担ぐと、弾力が直接伝わってくる。
「おとーさん。あたしが代わろっか? なんかちょっといやな感じ」
 庵が言うが、勇平はカッコイイ顔できっぱりと断った。
「ふっ……、これは男の仕事だ。俺が潜り抜けなければならない試練なんだ」
「……そうなの?」
「か、感触ハンパネェェェェ! やっぱサボってよかった。仕事なんかやってられるか!」
「やっぱりちょっと、いやな感じ」
 庵は言う。
 ちょっと迷っていたけど、これで勇平の意は決した。
 楽して食う。そのためには、他の人たちが溜め込んでいた食糧を盗んでくるのが一番早い。
「……ここらでいいだろ」
 安全なところにレオーナを寝かせると、勇平は熱くて一枚しか着ていなかったTシャツを彼女にかけてやる。まあ風除けくらいにはなるだろう。
「くくく……、所詮この世は弱肉強食。本物のサバイバルってのが、どういうものか、俺が見せてやるよ。あ、ああ……俺なら出来るさ」
 勇平は、自分を鼓舞しながら香菜たちのキャンプへと密かに近寄っていく。
「じゃあ、おとーさん。後は計画通りだね」
 庵は、頷くと別の場所へと姿を消した。
 食べ物はどこにおいてあるか知っていた。隙を突いて盗み出すだけだ。
「……」
 レオーナは意識を取り戻していた。
 勇ましげに去っていく勇平たちを横になったままずっと見つめていて……。