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無人島物語

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無人島物語

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「あんなクソつまんねー作業なんか、やってられねー」
 勇平は、こっそりと逃げ出していた。追っ手のパートナーを気にしながら密林の中へ入って行く。
 もっと遊びたかったのだ。楽して食いたかった。腹は減っている。だが、働きたくなかった。
「そう、楽して食う。これこそ人生の極意」
 勇平は、立ち止まるとニヤリと笑った。
「そうだよね。せっかく島に来たんだから、もっと刺激的なことをしなきゃ」
 勇平のパートナーの猪川 庵(いかわ・いおり)も、一緒にイカダ作りを放り出してついて来ていた。
「どうせなら、パーッと行こうよ! この島で豪遊だよっ」
「そうだな。楽して豪遊だな」
 勇平は頷く。
 さて……。

「あれ?」
 こそこそ抜け出した勇平たちの姿を見送ったのは、密林でキノコ取りをしていた鳴神 裁(なるかみ・さい)だった。彼女は、香菜やルシアたちと合流していた。
 伊達に放浪生活はしていない。サバイバル経験もあり、野営地で食べることの出来る知識もある。飢える心配はなかった。皆の手伝いをしながら山菜を採集しているところだ。
「あー、この人数じゃ足りないかもって思ったけど。二人人抜けるからいいのかな? 彼らの分は要らないだろうし。働かざるもの食うべからず」
 数を数えていた裁は、程よい感じのキノコを見つけてパートナーのアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)を振り返る。
「あれも食べられる、これも大丈夫、あっちのも……」
 アリスもキノコをより分けながら順調に収穫が進んでいるようだ。
「ねえ、アリス? これ毒キノコだと思ったんだけど食べれたっけ?」
「え、毒? 『キュアポイズン』かければ平気よ」
 アリスは、毒があろうがなかろうがあまり関係なさそうだった。まあ、彼女はそれでいいとしても、他のみんなにはそんなキノコは食べさせられない。裁は聞きなおす。
「まあ、ちょっと危険だとしてもよ、焼いたら毒もぬけるかな?」
「焼く? ダメダメ、火なんか熾したら追っ手に見つかっちゃうわ。だから生で食べるの」
 アリスの説明に、裁はふ〜んと納得しかけてまた聞きなおす。
「いやあの、追っ手ってなに? 私たち今、キノコの話をしているのよね?」
「ふふふふ……」
 アリスは、手にしたキノコを見つめながら気味悪く笑い始める。
「この世に食べられないものなんてないわ。お腹を壊しても、治療系スキルがあるから大丈夫。でも、採り過ぎたらダメ。足跡を残してもダメ。焚火なんて絶対にダメ。痕跡を残したら、怖い人たちがやってくるよ。一度気がつかれたら、何人でもやってくるよ。だから、何でも好き嫌いなく、生で食べるの。お腹を壊したら治療系スキル。お腹を壊したら治療系スキル。お腹を壊したら治療系……」
「アリス? ちょ、アリスさん?」
 裁は驚いてアリスの顔を覗きこむ。アリスは、何かのトラウマが発動したようで暗い笑みでぶつぶつと呟き続けている。
「げ、目から光消えてる。カムバーっク! ボクと契約する前に一体何があったの!?」
「あまり揺り動かさないほうが良いぞ。大丈夫だ。しばらくしたら落ち着きを取り戻す」
 異変に気づいて向こうからやってきたのは、柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)だ。
「誰にでも、知られたくない過去の一つや二つはあるものだ。そっとしておいてやるのが一番だぞ」
 そう言いながら、唯依はまだぶつぶつ言っているアリスの手からキノコをそっと取り上げると、優しく向こうへ連れて行く。裁にも言った。
「ちょうど、新しい拠点を作るところだから休んでいくといい」
「ありがとう。お礼にボクが料理を振舞うよ」
 裁はキノコ取りを中断して、集まってきていた食材で調理を始めることにした。
「そうか。頼むぜ」
 戦士として優秀な唯依だったが、不覚にも気づいていなかった。裁が『謎料理』スキルを装備していることに。皆の料理は裁に任せて、唯依は、自分の持ち場に戻った。
「さて、それじゃ拠点作成といくぞ、那美。急病人も出たことだし、手早くな」
「承知しているでござるよ、唯依殿」
 準備万端整えて答えたのは高天原 那美(たかまがはら・なみ)だ。
「作る拠点はログハウス型で良いで御座るな。残念ながら釘は無い故、はめ込み式で御座る」
 その言葉通り、唯依が真空波で木を切断し、組み立てられるように器用に加工する。グラビティコントロールを使いながらサクサクと形作っていく。
「組み立ては那美のほうが詳しいだろう。詳細は任せるぞ」
「任せておくでござるよ」
 唯依と那美は力を合わせて拠点を組み立てていった。
「一応、恭也の居場所も作っておいてあげろよ。そのうちやってくるだろう」
 唯依は、義理の弟でありマスターでもある柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)を思い出して言った。彼は、この島に着くなり嬉々として密林へと潜っていった。今頃修行に励んでいることだろう。
「兄上ならそのうち帰って来るで御座ろう。心配無いで御座るよ?」
 那美は言う。
「熱いでしょ。ちょっと休憩しようよ。ボクがジュース入れてきたから」
 裁が、拾ってきた容器に飲み物を入れて持ってくる。
「おお、これはうまそうでござる」
 那美は遠慮せずに手に取った。抹茶にも似た緑色で、濃厚でコクのある独特の香り。健康にもよさそうな飲み物だ。
「助かるよ。ちょっと喉が渇いていたんだ」
 唯依と那美は液体を一気飲みする。裁も笑顔でジュースを飲んだ。
「……ぶはっ!!」
 三人は、同時に口から飲み物を噴き出した。
 まずいなんてレベルじゃなかった。危うく白目を剥きそうになる。
「あれ、おかしいな。どこが悪かったんだろう……」
 裁は咳き込みながら、飲み物をもう一度確認する。
『謎料理』で作った、蒼汁(アジュール)なるスライムジュース。
「あ、あほかーーーーーー!?」
 唯依と那美は全力で突っ込んでいた。