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リアクション
5
もしも白塗り人間が明倫館の人だったら攻撃したら危険だし、それに流石にこんな数は相手にしていられない。当初、社と終夏は物陰に隠れて白塗り人間を避けつつ無事である学生を探していたが、困難を極めていた。
「やっしー。これじゃ埒があかないよ」
「う〜ん……。確かにオリバーの言う通りやな。鬼さんに追いかけられるのも疲れたわ」
「じゃあさ、アレ……やっちゃう?」
終夏がニコリと笑う。純粋さに悪戯っぽさの加わったその笑みを見て、社もニィッと口角を上げた。
「オリバー。俺はオリバーのこと、信頼してるで。俺の前、後、右、左。全部任せられるのはオリバーだけや」
「ありがとう。私もやっしーのこと、世界で一番信頼してるからね! 任せてよ!」
2人は突如、物陰から勢い良く飛び出した。そのまま社は一段高くなっている場所へ立ち、ギターを片手にして白塗り人間の軍勢に向けてビシッと指をさす。
「ここは一つ、助けに来たアピールでもしとくか! よっしゃお前ら! 俺の歌をきけぇ〜!」
言った矢先、社は情熱的にギターを奏で、【驚きの歌】を響かせた。【熱狂】した社は今や明倫館中の者を引き付ける魅力がある。白塗り人間達が社へ向かったその時、彼らの手足には植物の蔓が巻き付き、自由を奪った。
「やっしーには指一本触れさせないよっ!」
終夏が【ハイ・ブラゼルの花の種】を、傍にあった鉢植えに蒔き、魔力を注ぐことにより【エバーグリーン】が発動、植物を急成長させたのだ。明倫館内には盆栽が廊下の至るところに置いてあり、和の雰囲気を保っている。
白塗り人間達は呻き声を上げつつ社に近づこうとするが、植物の蔓で動けない。終夏が心の中でガッツポーズを決めた後ろで、カタリと音がした。
「! 誰!?」
終夏が振り向いたその先には、びくびく震えながらこちらを見ている学生の姿があった。茶色のロングヘアの少女で、和装を身に纏っている。白面ではない。
「あ、あの……助けに来てくださったのですか?」
「ってことは、君、無事だったんだね! 良かった〜……。って、怪我してるじゃない!」
「さっき、そこの白い人達に殴られてしまって……」
少女は右腕に傷を負っており、恐怖のせいか腰も抜けていてうまく動けないようだ。
「やっしー見つけたよ! 無事な子! もうちょっと頑張れる?」
「おお、良かったな! 任せとき、オリバーが応援してくれたらいくらでも頑張れるわ!」
終夏はすぐさま少女に駆け寄り、愛用しているヴァイオリン・ゼーレを構え、旋律を奏で始めた。静かに奏でられる【金色の風】を受け、黄金の粒子が舞う中、少女の傷はみるみる内に回復していった。
「ありがとうございます……。少し、落ち着いたみたいです」
「うん、良かった。ひとまずここから脱出した方が良さそうだね」
「んじゃ、一気に逃げるでぇ! 【神速】っ!!」
社がギターを弾く手を止め、白塗り人間の中に突っ込んでいく。白塗り人間達は動けないので社は傷を負うこともなく、強引な突破口が出来上がった。
「……やっしー。目立ち過ぎだよ」
苦笑しつつも、終夏も「行こう」と少女に肩を貸して、社の後に続いた。
「ここは危険です! 安全な場所まで案内しますので、一緒に来てください!」
一方、サイアス達も無事である学生を2名発見し、彼らの避難誘導を行っていた。学生は怯えた様子でおずおずとついてきたが、その後ろから優しい声音が聞こえる。
「我は戦うために作られた存在だが、貴公らの護衛ぐらいは出来る。だから、安心してほしい」
「私達が全力で護衛するから安心してね。もう大丈夫だから」
ウィルとルナが微笑むと、学生にも少し笑みが零れた。サイアスとウィル、ルナの温かい雰囲気に和んだのだろう。ぽつりと彼らが呟いた。
「……僕達、聞いたんだ。突然真っ白い女の子が現れて、『ユルサナイ』って言ったのを」
「そうしたら、周りにいた学生はみんな頭を抱えて蹲って、気付いたらあんな姿になっていた」
「成程。ということは、あの白塗り人間達は明倫館の学生で間違いないようですね」
重要な手掛かりが掴めた。サイアスは気を引き締めて集合場所まで急ぐ。しかし不幸なことに、集合場所には白塗り人間が数十人固まっていた。社と終夏はまだ到着していないようで、あの場所には白塗り人間達しかいないようだ。あのまま放ってはおけない。サイアスは学生に止まるよう告げると、
「ルナ、ウィル! 彼らの正体が学生です。気絶させるだけにしてください!」
「分かったわ!」
「御意」
回避ではなく、気絶させてこの場所からどいてもらうしかない――。サイアスは【神速】で突進すると、鉄甲を嵌めた拳で【鳳凰の拳】を白塗り人間の身体に叩き込んだ。白塗り人間は呻き声を上げると、その場に倒れた。
続いてルナも怪力の籠手を嵌めた拳で【羅刹の武術】による打撃攻撃を行う。
「生かさず殺さず無力化する。難しいけどやれないこともないわね」
2人は学生を視界に入れながら次々と白塗り人間達を無力化していくが、隙をついた白塗り人間が学生達に襲いかかってきた。しかしさすがはサイアス達である。予めウィルが学生達の近くで剣を構えており、彼らの打撃攻撃を【ブレイドガード】で弾いた。
「少し痛むが、死にはしないから安心するがいい」
すかさず【ツインスラッシュ】で反撃に出る。振られた剣の圧力によって白塗り人間達は同様に呻き声を上げて気絶した。
「まだまだ数は多いです。ルナ、ウィル! 日下部さんと五月葉さんが戻ってくる前に、安全な場所へと作り変えましょう!」
学生達は尊敬の眼差しで、サイアス達を見つめていた。
数分後。気絶した白塗り人間はまとめて校舎の外へと座らせ、合流場所は安全地帯となった。社と終夏も戻って来、無事である学生は3名となったが、社が頭を傾げた。
「ところで華摘っちゅう子は一緒に逃げてたりせぇへんの? その子にちょいと聞きたいことがあるんや。この異変に夏雫が関係あるんやないかと調べとる仲間がおるんでな」
「それって、私達のことかしら?」
社達が振り向くと、ゆかりとマリエッタが微笑んで立っていた。学生達の元へと近づくと、まずゆかりは社と終夏、サイアス、ルナ、ウィルに向かって目尻を下げる。
「ありがとう。これだけ多くの白塗り人間がいたんだもの。救出作業は大変だったでしょう?」
「事件究明はあたし達に任せといて! 他にも、そっち方面で調べてる人いるし……。みんなで力を合わせて、この事件を解決しよう!」
マリエッタがえいえいおー、と拳を上げると、ゆかりは軽くマリエッタの頭を撫でて学生の聞き込みに当たった。もちろん、社と終夏、サイアスとルナ、ウィルからの情報も聞き漏らさずに。