リアクション
9
「皆さま。それに華摘さん! 良かった……皆さま、ご無事で何よりです」
社と終夏、サイアスとルナ、ウィルが華摘と共に全員と合流すると、鈴鹿が走ってきた。
「那由他さんと彼方さんの金縛りは?」
「解けないままだよ。白塗りさん達は全員撃退出来たけれど……」
秋日子が告げると、鈴鹿はやはりといった顔で返した。
「金縛りをかけたと見られる少女を、外で見つけました。動く気配がなかったので、とにかく情報を共有しようと参った次第ですが……白塗りさん達を撃退出来たとは一体?」
華摘が事情を説明すると、鈴鹿は少し悲しそうな顔で告げた。
「そうだったのですね。では、あの方も舞いで何とか出来るかもしれないですが、金縛りをかけてくる危険があります」
「そうね……。けど、大丈夫よ。皆で舞えば怖くない。霊に想いが通じている間は魂は鎮まり、攻撃しようとしてこない。ただし一瞬でもミスをすれば霊は我に戻って攻撃してくる可能性があるわ。一丸となって臨む必要がある」
誰一人反論しなかった。……大丈夫、自分達になら出来る。最高の舞いだと絶賛を浴びた、あの舞いだったら。
美しい少女は空を仰ぎ見ていたが、雲が青空を過ったのを機に視線を真正面に戻した。そこには鈴鹿が、雨と雲を模したような、灰色に青の混じる舞扇を持ち佇んでいた。ぱっと舞扇を開くと少女は片手を上げたが、危険は顧みない。自分には頼れる仲間がいるのだから。
舞扇を差し出して魂を誘う。次いでひらりと翻して雨を誘うように。少女は瞬間、はっと目を見開いた。
先程と同じように、全員が舞いを披露する。鎮魂の舞い、霊に通じる神聖なもの。少女は一々に魅了されて呆けている。最後に華摘がしずしずと進み出て、少女と目を合わせた。
「……姉さん」
呟かれた言葉に一部は心の中で驚きの声をあげる。華摘は金色の地に銀の粉を散らせた豪華な舞扇を持ち、舞い始めた。
(ここに来るまでの間、悲哀さんが持っていた本を見せてもらいました。……姉さんはずるいよ。私だけ生き残らせて、自分だけが犠牲になったなんて。それにサイアスさんからも聞いた。『ユルセナイ』って。姉さんは最高の舞いを舞ったと、最期に語っていたわね。けれど私がそれを超える舞いを開催してしまい、嫉妬に狂い、自分が犠牲になったこと、それに葦原島を救った話がどんどん消えていくのに怒りを感じたのでしょう? だから、関係のない人を巻き込んでまでこんなことを……。学生達に乗っ取った霊、あれはきっと水を求めて争い、死んだ人々の霊なのね? 姉さんが連れてきて、私達に八つ当たりしようとしたのでしょう?)
舞扇が激しく閃く。
(でも、見に来てくれたんだね。舞いの最後、舞台脇に咲いている紫陽花が歌うのを聞いたの。あれは姉さんだったのね。嫉妬しながらも、怒りながらも、お疲れ様って私達を祝福しに来てくれたんだよね。……ありがとう。ねぇ、姉さん、安心して。私が姉さんの想いを引き継ぎます。『夏雫』の起源、背景、2人の巫女。全てを伝え続けていきます。だから姉さん、どうか安らかに眠って。私は嫉妬と怒りに狂った姉さんなんて見たくないよ。……次の『夏雫』が開催される時、姉さんはきっとまた見に来てくれるって信じてるよ)
激しく、身を散らすような舞いに少女は引き込まれる。そしていつしか、2人は背中を重ね、瞳を閉じて舞っていた。その舞いは最高の、極上の舞い。互いの動きは見えていないのにぴったりと重なる相舞いに、全員が魅了されていた。
(姉さん。『夏雫』は最高の舞いだったわ。けれど、姉さんとの相舞いだって負けてない。いつかまた、こうやって一緒に舞いましょう)
華摘が舞いきると、少女の身体は光に包まれてゆっくりと天に昇っていった。『アリガトウ』という言葉を残して。その瞬間、那由他と彼方の金縛りがゆっくりと解け、葦原明倫館から邪悪な気配が完全に消え去った。
10
『地球とパラミタが繋がる前、葦原島には全く雨が降らず、人々が水を争って血を流していた時代があり、遂には他者の命を奪ってその血を啜る者まで現れてしまった。
とある日、巫女である双子の姉妹が立ち上がり、2人は自身の魂を捧げることと引き換えに、雨乞いをし始めた。
巫女の苗字は華摘。姉の名は菫、妹の名は若葉という。しかし若葉はまだ幼く、何とかして生き残って欲しいと考えたのか、菫は舞いを終えた直後に若葉を雲海に突き飛ばした。
巫女達の思いは叶い、念願の雨が降り注ぎ、争いは鎮まった。菫の魂は天に昇り、身体は地に横たわったままであったが、とある住民が「菫を食べれば自分達の汚れた血が浄化される」と信じ、複数人によって菫の亡骸は人によって食べられてしまった。
以降、100年に一度、菫の魂が人間達を苦しませようとして水不足になる事態が引き起こされている。これを止めるには、再び『夏雫』を舞うしか方法はないだろう。しかし、巫女達を超える舞いなど、この世に存在するのであろうか――。
雨が降らなかった原因は今でも謎とされている。一部では葦原島にて望まぬ死を遂げた者の魂によるものとされている。
また、若葉がどのような経緯で難を逃れ、葦原明倫館へやってきたのかもまた然り』 著者不明「葦原島を救った巫女の話」より引用
久遠奏唄です。悲劇の歴『磔天女』のリアクションをお届け致します。
ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。
(『磔天女』とは、華摘のお姉さんのことでした)
今回、戦闘に謎解き、舞うシーンなど、描写するものが多く文章量が多めとなってしまいました。
読みづらい点がありましたら申し訳ございません。以降気をつけます。
何はともあれ、これで『夏雫』の謎は全て解けたということになります。
毎度のことではございますが、基本的に全てのアクションを採用致しました。
ですがストーリーの進行上どうしても描写出来ない部分は割愛させて頂きました。ご容赦頂けますと幸いです。
次回のシナリオでも、またお目にかかれますように。この度は悲劇の歴『磔天女』にご参加頂き、ありがとうございました。