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【水先転入生】龍と巡る、水の都

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【水先転入生】龍と巡る、水の都

リアクション


第二章

 シェヘラザード・ラクシー(しぇへらざーど・らくしー)のゴンドラでは、早速高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が新生活について占ってもらっていた。
「一言で言うと、波乱万丈ね」
「ええええええええ」
 さっくりと告げられた一言に、瀬蓮が情けない声を上げる。
 隣で一緒に聞いていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がその様子を見て吹き出した。
「瀬蓮ちゃん大変だねー」
「ちょっと、美羽ちゃん他人事だと思ってっ!!」
「後でアイリスにも伝えなきゃ」
「わー!!」
 楽しそうにじゃれる二人を見ながら、シェヘラザードが続ける。
「ただ、助けてくれる人たちは多いみたいだから、まあ楽しく頑張って」
「う、うん……」
 不安そうに頷く瀬蓮の頭を、美羽が撫でる。
「何かあったら私にも相談してね! 絶対協力するから!」
 力強い美羽の言葉に、瀬蓮が嬉しそうに頷く。
「それに、困ったことがあれば呪術で何とでもなるわよ」
「いやいやいや、シェヘラ、だから、なんでも呪術でカタが付くわけじゃないからな……」
 さくっと言ってのけるシェヘラザードに思わずシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)がツッコミを入れる。
「やってみなきゃわからないわよ」
「たまに見せるその妙なポジティブ、なんなんだ……?」
「あんただって基本ポジティブじゃない。ほら、次の占いはどうするの?」
「あ、あたしも色々聞きたい!」
 すかさず手を挙げるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の隣で、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は思わず苦笑をこぼした。
「セレアナ?」
「たまたま乗ったゴンドラが、占い付きなんて、セレンにぴったりだったわね、と思って」
「女子に生まれた以上、占いに興味を持つのはトーゼンじゃない。とりあえず、金運と、今月の運勢とラッキーアイテムを……」
「じゅ、順番にいくわね……」
 勢い込んで尋ねるセレンフィリティに、シェヘラザードが慌てて占いを始める。
「金運は、普通ね」
「普通!?」
 思わず聞き返すセレンフィリティの様子に、セレアナがくすくすと笑いをこぼす。
「宝くじとか馬券とか株とか色々あるじゃない? どれ買えば大金ゲットできる!?」
「セレン、それは占いで聞くことじゃないでしょう」
「えー、でも気になるじゃない」
「今月の運勢は、中の上ね」
「え、大金スルー!?」
 淡々と続けるシェヘラザードを慌てて振り返るセレンフィリティの様子に、ゴンドラ中が笑いに包まれる。
「今月の運勢は、私も気になるわ」
 そう言うセレアナに頷くと、シェヘラザードは占いを続ける。
「……あら」
 自分の占いの結果に動きを止めるシェヘラザードの姿に、セレンフィリティとセレアナは思わず顔を見合わせる。
「どうしたの??」
 その様子に、思わず美羽がシェヘラザードに問いかけた。
「まったく一緒だわ。中の上。誰かのために動けば、その分運気も上がる。二人とも一緒よ」
「ね、ねえ、セレアナとあたしの恋愛運は?」
 セレンフィリティの問いかけに占いを始めたシェヘラザードの様子を、二人は少し緊張した面持ちで見守る。
「しばらく大きな障害はなさそうね。お互いのことをちゃんと見て、勝手に行動したりせずに、話し合っていれば大丈夫よ」
「良かった〜! 色々見てくれてありがと。あたし、ちょっとお土産買ってくるわ!」 
 結果に安心したのか、笑顔を浮かべるとセレンフィリティはすぐに切り替え土産物コーナーへと走っていく。
「ちょっとセレン! ……はぁ……勝手に行動したりせずに、って……」
「でも、あんたがちゃんと見ててあげるんでしょ? だから大丈夫よ」
 自由なパートナーに微笑みながらもため息をつくセレアナに、シェヘラザードはそう声をかけた。
 セレアナは頷くと、大騒ぎしながら買い物を楽しむセレンフィリティの様子が見える位置に座ると、ゆったりと流れる景色を楽しみ始めた。
 
「さて、待たせたわね。何を占うの?」
 一通りの乗客の占いを終えると、シェヘラザードはシリウスに向き直った。
「ちょうど白百合団の方で大きな仕事が入りそうなんで、いっちょう武運長久……じゃねぇや、仕事運かな? 占ってもらおうかなってな」
「……仕事運より最初のほうが気になったんだけど」
「仕事運でお願いします」
 軽口をたたきながらも、シェヘラザードは占いの態勢に入る。
「……なぁ、シェヘラ。とりとめもないことなんだけど。これ、占いしてる間…ゴンドラの操船ってどうなるんだ?」
 何気なく口にされたシリウスの言葉にシェヘラザードがガバっと顔を上げた。
「呪術的な何とかで手を放しても大丈夫とか?」
「……………………」
「それとも、誰か変わりがいるとか……いる、よな?」
「ふふ……仕事運だったわね」
「いや、今この話逸らすな怖いだろ!!」
「シリウスはもっとドラゴンを信用したほうが良いわね」
「いないのか!?」
 やり取りを聞いていた美羽がぴょんとゴンドラの上に飛び上がり、ドラゴンを見ると、とんっとゴンドラに戻る。
「いないね!」
「「わーーーーー!!!」」
 楽しそうな美羽の言葉に、シリウスとシェヘラザードが別の意味での叫び声をあげた。

「あ、アイリスー! さっきシェヘラザードに、瀬蓮ちゃんの新生活がどうなるか、占ってもらったんだよ! 波乱万丈だってさー!!」
「ちょっと美羽ちゃん、その部分だけ伝えるのやめてーっ!」
 美羽は船頭がいないことを気にした風もなく、隣を通り過ぎるゴンドラに乗っていたアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)に手を振る。
 隣では瀬蓮が慌てたように美羽にしがみついた。

「まあ……うん、大丈夫なら大丈夫だな」
 どこか遠い目をしながらシリウスが呟く。
「仕事運だけど。良くはないわね。色々厄介ごとが舞い込んでくるわ。ま、あんたの場合舞い込んでくるっていうより背負い込むんでしょうけど。とにかく、一人でやろうとしないことね。苦労はするけど解決はする、そんな感じの運勢になってるから」
「そっか。ありがとな」

 一通り占いが終わると、皆思い思いにゴンドラでの時間を楽しみはじめる。
 周囲に瀬蓮に危害を加える者がいないか気を張っていた如月 和馬(きさらぎ・かずま)は、安全が確認できた段階でシェヘラザードのところへやってきた。
「オレも占って欲しいんだが」
「もちろんいいわよ。アイリスのゴンドラに乗ると思ってたけど……占いがしたくてこっちにしたの?」
「いや、正直瀬蓮と別のゴンドラに乗ると思わなくてな。こっちの護衛に切り替えたんだ」
「仕事熱心ね」
「仕事……も、あるっちゃあるんだが……なんというか……」
 歯切れの悪い和馬の様子にシェヘラザードが的を射たという表情で頷く。
「恋愛占いね」
「あ、ああ。想い人との恋が実るか占って欲しいんだ。直接会ってやり取りしたことはあるが、あくまで今は上司と部下の関係だしな……」
「なるほどね」
「一歩踏み出すには何が足りないのかと、転機がいつ頃くるか占って欲しい」
「分かったわ」
 シェヘラザードは表情を引き締めると占いを始める。
 結果が出るとゆっくりと顔を上げた。
「今はまだ、そういった意味では何の糸も触れてないわ。今のところ、転機も見えない。ただそれは、まだ行動を起こしていないから、ということもあると思うのよね」
 和馬はシェヘラザードの言葉に耳を傾ける。
「まずは、異性として意識してもらえるような行動を取ってみたら? 運命が動くのは、まず行動を起こしてからよ。そうしないと、可能性の有無も無いでしょう?」
「そうだな」
 シェヘラザードのアドバイスに頷くと、和馬はまた密かに瀬蓮の護衛のため場所を移動するのだった。