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【水先転入生】龍と巡る、水の都

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【水先転入生】龍と巡る、水の都

リアクション

「あら? こっちではありませんわ」
 好き放題動き回るドラゴンに、グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)が困ったような声を上げる。
「急に手綱を引けばドラゴンも驚く。もっと慎重にだな……」
 隣では、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)が頭を抱えながらドラゴンの操作のフォローをしていた。
 ゴンドラは優雅に飾り付けられ、お茶やお菓子が振る舞われてはいるものの、そんな二人の様子とやたらと揺れるゴンドラに、乗客たちはびくびくしていた。
 変装をして乗り込んでいた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が遂に様子を見かねてグィネヴィアに声をかけた。
「俺が手伝おうか?」
「いえ、大丈夫ですわ。お客様はお気になさらず……」
 言い終らないうちに、ドラゴンが暴れはじめる。
「きゃっ」
 傾いたグィネヴィアの身体を、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が咄嗟に支える。
「ありがとうございます」
「どういたしましてでふ」
 ドラゴンをなだめようとするアイリスの横で、宵一も咆哮を使ってドラゴンに落ち着くよう声をかけた。
 そのまま、離れつつあった水路へとドラゴンを引き戻す。
 指針を示されたドラゴンは、大人しく予定されていたルートを進み始めた。
「あら、やっぱりお任せしようかしら? ところで……どなたですの?」
「通りすがりのドラグーンだ。水路の近くを歩いていたらたまたま見かけてな。美しくドレスアップされたドラゴンに心を惹かれ、乗り込んでみた次第だ」
「そうでしたの。どこかでお会いしたことがあるような気がしますが……」
「グィネヴィアさん、あそこのお菓子は食べてもいいでふか?」
 変装がうまくない宵一をフォローするように、リイムがグィネヴィアに声をかける。
「もちろんですわ」
 結局グィネヴィアは宵一にドラゴンを任せると、リイムとともにお茶会を始める。
「うーん……やっぱり見覚えが……あなたはご存じありませんの?」
「僕、知らないでふもん」
「……そうですわよね」
 可愛らしく首を傾げるリイムの姿に、グィネヴィアは頷いた。
「なんというか……申し訳ない」
 結局グィネヴィアに操縦を任された宵一のサポートをしながら、アイリスが謝る。
「事故が起こるよりよほど良いしな。大丈夫だよ」
「感謝する」
 そんな二人をよそに、グィネヴィアは乗客たちと優雅な時間を過ごしていた。

「外側も可愛らしい飾り付けでしたが、内装も……とても、可愛らしいですね」
 可愛いもの好きのルゥルゥ・ディナシー(るぅるぅ・でぃなしー)に引きずられるようにグィネヴィアのゴンドラに乗ったリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)がきょろきょろと周囲を見回す。
「紅茶やお菓子もたくさんありますね。グィネヴィアさんはお忙しそうですし……みなさんの分を、わ、私が入れてしまっても大丈夫なのでしょうか……」
 おずおずとティーポットの準備を始めたリースの姿に、慌ててグィネヴィアがやってくる。
「気が回らず失礼いたしましたわ。わたくしがお淹れしますから、座っていてくださいませ」
「あ、ありがとうございます」
 グィネヴィアは優雅に人数分の紅茶を注いでいく。
 手渡されたリースはふっと香りを吸い込むと、一口飲んでみた。
「あ、あの……ゴンドラのお茶とお菓子は、グィネヴィアさんが選んだ物なんでしょうか……?」
「もちろんですわ」
 誇らしげに胸を張るグィネヴィアにリースは微笑んだ。
「わ、私はイギリス育ちで、紅茶は色々飲んだ事があるんですけど、この紅茶はなんだか口当たりが良くて飲み易いですね」
「そうおっしゃっていただけると嬉しいですわ!」
 グィネヴィアは嬉しそうにそう言うと、リースの両手を取った。
「是非お菓子の感想も聞かせていただきたいですわ」
 盛り上がる二人の隣で紅茶を飲んでいたルゥルゥが首を傾げた。
「べつに……普通じゃない?」
「あー……姫さんは高級なモン飲みなれてるからだろ……」  
 苦笑いをこぼしながらナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)が小声で返す。
 並べられた高級なお茶やお菓子も、慣れているルゥルゥには特に魅力的に映ることもなかった。
「お茶とお菓子が食べられるだけなんてつまんないわ。確か地球じゃ船頭はカンツォーネって歌を歌うのよね?」
「そういう習慣はあるみたいだな」
 ナディムの返答を聞いたルゥルゥは笑みを浮かべると、グィネヴィアに近づき、猫を被った仕草で提案した。
「宜しければ私にカンツォーネをお聞かせ下さいませんか?」
「カンツォーネ、ですの?」
 突然のことに首を傾げるグィネヴィアの前に、ナディムが慌てて飛び出す。
「姫さんのただの我が侭だ。無理に付き合うことはないからな」
 リースもナディムの言葉にあわあわと頷く。
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、歌は雰囲気に合うかもしれませんわね」
 カンツォーネは難しいですけれど、という前置きの後に、グィネヴィアは数曲歌い始める。
 地球のカンツォーネとは違ったが、水の流れに沿うような、澄んだ歌声に乗客たちは思わず息を殺して聞き惚れた。
「ありがとうございました」
 歌が終わり一礼すると、ゴンドラ中から拍手が沸き起こる。
「す、すごいです……」
「良い余興じゃない」
 笑顔を浮かべるリースとルゥルゥの隣で、ナディムも惜しみない拍手を贈る。
「今度姫さんの我が侭を聞いてくれた礼をさせてくれないか?」
「喜んでいただけて良かったですわ」
 ナディムの言葉にグィネヴィアは嬉しそうに微笑んだ。