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リアクション
第三章
「これは……危なくは、ないのでございましょうか?」
「それなりに危ないと、思うよ?」
心配そうに首を傾げつつも、愉しそうな様子のアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に桜井 静香(さくらい・しずか)が引きつった笑顔で応える。
「ソフィアさん、大丈夫でございますか?」
「大丈夫だ」
「根拠は!?」
普通に答えるソフィアに、静香は半泣きで声を上げた。
ソフィアの操るゴンドラは、他のゴンドラの6割増し程度のスピードで、水路をかっ飛ばしていたのだ。
「このスピードでの景色というのは、なかなか見応えがあるものだな」
「楽しいですわ〜!」
「もう少し飛ばしてみるか?」
「ふむ……そうだな」
「お願いしますわ!」
そんなスピードを、ソフィアと共に純粋に楽しむイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)とユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の姿を見て、静香は驚愕の表情を浮かべる。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
静香の様子を見かねた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が声をかける。
穏やかな笑顔を浮かべてはいたが、近くの手すりを掴む手には、全力で力が込められていた。
「偶然だね。よりによってこんなところで会うなんて……」
同じく全力で手すりを握る静香は、そんな近遠の様子に、やっと仲間を見つけたとほっとした顔になる。
「なんというか……大変ですね」
「うん……」
しみじみといった様子の近遠に、静香も頷く。
「ソフィア!」
「どうした?」
周囲を見ていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が声を上げると、ソフィアが振り返る。
「あそこに美羽たちのゴンドラがあるんだ。少しスピード落として近づいてもらうことってできるかな?」
「ああ。分かった」
頷くと、ソフィアはドラゴンのスピードを落とし、ゆっくりとゴンドラ同士を近づける。
コハクと美羽は顔を見合わせると、楽しそうに手を振りあった。
「ありがとう!!」
「え? う、うん。どういたしまして?」
突然静香に両手を握って礼を言われ、コハクはきょとんとする。
「やっと、ゴンドラらしいスピードになりました……」
安心したように呟く近遠の言葉に、コハクは合点がいったと頷いた。
「やはり、通常はこれぐらいなのでございますね」
「さっきの早いのも楽しかったですけど、景色が色々と見えるのも楽しいですわ」
「これなら、誰かが落ちる心配はないであろうな」
楽しみつつも、落ちる乗客がいないようさり気なく気を配っていたイグナもゆったりと席に座りなおした。
「こんなスピードで良いのか?」
皆の様子を見て、ソフィアが心底不思議という顔で尋ねる。
「充分だよ!!」「充分です……」
静香と近遠の声が重なり、思わず皆から笑い声が漏れた。
「ソフィア、たまにはこうやって、みんなとのんびりゴンドラ観光するっていうのもいいよね」
「そうだな」
そう笑いかけるコハクに、ソフィアも楽しそうにドラゴンを撫でる。
「他のゴンドラの人とも話したりしながら水路を進むことってできるのかな?」
「そうだな……大きな水路に出た時ならば可能だろうが、狭いところもあるからな」
「合流地点とかうまく作れたら面白いよね」
「たしかにな。一度水路を地図に起こしてみるか」
コハクの提案にソフィアは水路の状況を頭に浮かべる。
「恐らく美羽があの調子でいろんなゴンドラに話しかけてるだろうから……後で、話しやすかった地点を聞いてみるか」
真顔でそう呟くソフィアに、先ほどの美羽の姿を思い出したコハクは楽しそうに笑うのだった。