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リアクション
「すごいものに変わったわね」
セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)はハロウィンサブレでドラゴンに変身した武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)に素直な感想を洩らした。
「セイニィも似合っているよ」
牙竜はハロウィンなマッドハッター(狂った帽子屋)に変身したセイニィを褒めた。
「そう? 何かチープな感じがするけど。それより、子供の相手をするのよね」
セイニィは脱いだ帽子を見ながら肩をすくめた。
「あぁ、子供を楽しませるのが、かつて子供だった大人のやるべき事だからな」
と牙竜。恋人になって最初のデートを楽しむはずが、何せヒーローキャラで子供優先のため本日はお守りとなった。
「それじゃ、行きますか、ドラゴンさん」
セイニィは帽子を被り直し、歩き出した。牙竜がそういう人だと分かっているためデートでなくなった事など気にしてはいない様子だった。
無事にナコと会い、打ち合わせを終えた後。
「お菓子を貰いに行くぞ」
自分が引率を担当する子供達と顔を合わせる。
「お兄ちゃん、すごい」
「ドラゴンだぁ」
予想通り牙竜の姿に食いつき、誰も話など聞いていない。
「誰も話を聞いていないみたいね」
セイニィは子供達から少し離れた場所で肩をすくめた。少し離れているのは少しでも子供達に目を配れるようにするため。
これまた予想通り
「村をめちゃくちゃにするのはここまでだぞー」
「かくごー」
即興のヒーローショーが始まるのだった。
「ほう、このドラゴンを倒すとな。かかって来るがいい。ただし、我は強いぞ」
牙竜もノリノリで悪のドラゴンを演じる。自分が子供の頃、大人達にヒーローごっこをして貰った事を思い出しながら。
「……さすがね、すっかりなりきっちゃって」
セイニィは牙竜の勇姿に笑いをこぼしていた。
しかし、その視線は恋人から少し離れた所でじっとみんなを見ている少年に移動した。
セイニィは気付くだけで無く動いた。
「どうしたの? 遊びたいんでしょ」
セイニィはカボチャ頭の騎士になった少年に声をかけた。
「……うん。でもトロイしすぐ泣くから……みんなに」
少年はこくりとうなずきながらも遠慮がちに言って突っ立っているばかり。
「何、子供がそんな事気にしてんのよ。ほら、行くわよ」
ぐじぐじする少年の様子に堪らないセイニィは手を引っ張って強引に牙竜の所へと連れて行った。
「あっ、お姉ちゃん!?」
少年はつまずきそうになりながらも付いて行った。
ちょうど、ヒーローごっこのクライマックス。
「ドラゴン、悪事はそこまでよ。このカボチャ騎士が倒す。援護は任せて騎士様」
両手を腰に当てたセイニィが少年と共に声高らかに登場。
「う、うん。えと、やぁぁ」
少年は腰に差した棒切れで立ち向かっていく。
「はぁぁぁ」
少年だけでなく援護役のセイニィまでもが加わる。
「援護って……何でセイニィがそっち側なんだ……おうわぁぁ、もう勘弁してードラゴンのお宝のお菓子を差し上げますから」
牙竜はよろよろとよろけて苦しそうな声を上げたりと見事なやれっぷりを披露して大量のお菓子をカボチャ騎士に差し出した。
「うん、だったら許してあげる」
少年は棒切れを腰に差してから両手に大量のお菓子を抱えて満面の笑み。
「泣き虫しーちゃんのクセにすげぇな」
「うわぁ、お菓子だー」
少年の周りにたくさんのお友達が集まって来た。
「みんなで食べよう」
そう言うなり少年はみんなに分け始めた。
「食べる」
「しお、ありがとー」
友達は礼を言って仲良くお菓子を食べた。
今度は
「すごいねぇ」
お姫様になった少女がじっと牙竜の背中を物欲しそうに見る。
「……背中に乗ってみるか?」
牙竜は少女の欲しい物を察し、先に声をかけた。
「いいの?」
少女は嬉しそうに目を輝かせた。
「あぁ」
当然返事は決まっている。
「じゃ、あたしも」
「俺もー」
次々と他の子達が群がり、おしくらまんじゅう状態。
その間、
「……お姉ちゃん、はい」
しおがセイニィにお菓子を渡しに来た。
「くれるの?」
セイニィは小さな手にある飴玉を見つめた。まさか、子供からお菓子をくれるとは思わなかったので。
「うん。ありがとう」
しおはにこっと笑顔で礼を言った。
「いいのよ。これが今日の仕事なんだから」
照れたセイニィは素っ気なく答えつつもしっかりしおの好意を受けた。
お菓子を渡し終えたしおはまた友達の所に戻って行った。
その様子はしっかりと牙竜も見ていた。
牙竜は子供を順番に背負いながら一緒にお菓子を貰いに行った。途中、はしゃいではぐれそうな子もいたが、『ディメンションサイト』による空間認識力によって未然に防ぐ事が出来た。
子供達とのハロウィンを無事に終える事が出来た。途中双子に遭遇したりしたが。
園児の相手終了後、ベンチ。
「今日は疲れたわね。ほんと、子供は元気で」
セイニィは背もたれにもたれて思いっきり疲れた息を吐き出した。
「そう言う割にはセイニィも楽しんでいたよな」
牙竜は笑いながら言った。子供の相手を本気でするセイニィの様子を回顧しながら。
「それは、最初に牙竜が言ってたからで」
余計な牙竜のツッコミにセイニィはそっぽを向いて言った。最初は適当に子供の相手をするつもりが、いつの間にか本気になっていたので。それが恥ずかしくて。
「まぁ、それがなくてもあんな純粋な目を向けられたら付き合うしかないと思うだろうけど……だって、放っておけないでしょ。危ないしこっちが守ってやらなきゃだし」
セイニィは背けた顔を戻し、肩をすくめながら自分の心を言葉にした。つまりは子供が嫌いではないと。
「今日も迷子になりそうな子もいたし確かに放っておけないよな」
牙竜は笑いながらうなずいた。セイニィとしおとのやり取りを思い出しながら。
そして、
「 セイニィ……今度の休みも、どこかに遊びに行こう」
まだ祭りが終わっていないというのに誘うのだった。
「急にどうしたわけ?」
セイニィは軽く首を傾げながら訊ねた。
「いや、二人でいろいろ見て考えて、未来への絆を深めていきたいなと」
牙竜は心底そう思っていた。ただ今は恋人の時間をゆっくり過ごしたいから真剣に考えるのは先になるだろうが。
「……未来ねぇ」
照れるかと思いきやセイニィは考え込んでいた。牙竜と同じく思う事があるらしく。
「……セイニィ」
牙竜はセイニィの横顔に軽く笑みを浮かべていた。自分の事を真剣に考えてくれている事が嬉しくて。
「今日はとっても賑やかでこっちも浮かれちゃうね」
魔女に仮装した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はモンスターで賑わう通りに目を向けた。見ているだけでこっちまで楽しくなる。
「だね。美羽ちゃんのおかげで美味しいパンプキンパイも作れたから早くみんなに配りたいなぁ」
同じく魔女に仮装している高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は持参した可愛らしく包装したお菓子に視線を注いだ。前日料理下手な瀬蓮は美羽の協力も得て無事にお菓子を作り上げていた。
「配ったらみんな喜ぶよ。だって私の保証付きだもん」
美羽はどんと胸を叩いて少し大袈裟にえっへん。
「うん。ありがとう、美羽ちゃん」
瀬蓮は大袈裟な美羽の様子にクスリ。
「あ、ちょうど子供達がいるから配りに行こう!」
美羽はちらりと前方にあおぞら幼稚園の園児達を発見し、瀬蓮と一緒にお菓子を配りに行こうとした。
その時、背後から
「ハッピーハロウィン!」
聞き知った二人の声。
「あっ、二人も来てたんだ」
美羽は振り返るなりにっこり。
「来てた来てた」
「こんなにお菓子貰ったぞ。そっち、前言ってた仲居にそっくりの親友か?」
二人はお菓子入れにたっぷりと入ったお菓子を見せた。一部に劇物があるとも知らず。
「そうだよ。高原瀬蓮ちゃん」
美羽は瀬蓮に気付いたキスミにうなずき、改めて双子に親友を紹介した。
「よろしく、美羽ちゃんから二人の話は色々聞いてるよ」
瀬蓮はぺこりと挨拶した後、まじまじと双子を見つめながらクスリ。
「色々って、どんな?」
「おかしな事じゃないよな」
瀬蓮の含みのある言い方に敏感になる双子。敏感になるのなら悪戯をするなという話ではあるが。
「違うよ。楽しい子だって。ね?」
瀬蓮はころころと笑いながら言って隣の美羽に振り返った。
「その通りだよ。実物はもっと楽しそうでしょ」
美羽は悪戯な笑みを浮かべた。
「おいおい」
「何だかなぁ」
双子は息を吐き、少しがっくりと肩を落とした。絶対に悪い意味も含んでいるので。
「それより、一緒にあそこにいる子供達にお菓子を配りに行こうよ」
美羽は再び菓子配布に話を戻して前方にいる子供達を指さした。
「もちろん」
「そのつもりで来たんだからな」
双子は子供達に配布予定のお菓子を見せながら答えた。
「でも、悪い悪戯は禁止だからね」
双子を知る美羽は忘れずに釘をさした。
「分かってるって」
「悪いは駄目ってのは」
信用するには難しい悪戯な笑みで美羽に言った。
四人は牙竜達が引率する園児達の元に急いだ。
園児達の所に着くなり
「ハッピーハロウィン!」
美羽達と双子は陽気にハロウィンの挨拶。
「ハッピーハロウィン!」
小さなモンスター達も元気に挨拶。
「お菓子だぞ!」
「特別な物だ」
双子は嬉々としてお菓子を配り始めた。
「双子のお兄ちゃん、ありがとう」
子供達は何の迷いもなくお菓子を受け取り、早速食べようとする。
しかし、それは間違えて渡した悪い悪戯菓子だった。当然騒ぎが起きるも牙竜達や美羽達がいたおかげで子供達が被害を受ける事は無く、逆に
「みんな、双子のお兄ちゃんをとっちめるよ。ほら、瀬蓮ちゃんも」
「う、うん」
双子菓子の効果を使用して双子に反撃。
「こんなお菓子いらないよ」
「双子のお兄ちゃん、ひどーい」
と子供達も反撃。
最後は、
「悪かったって……だけどちょっと間違えただけじゃん」
「今度はちゃんとしたやつをあげるから」
観念するも完全に反省している様子は無かった。
「もう、お兄ちゃん」
園児達は反省しない双子にぷんすか。
「双子のお兄ちゃんがお菓子をしている間にお姉ちゃん達からは美味しいパンプキンパイをあげるよ」
双子がお菓子準備にごそごそしている間に美羽は持参したお菓子を差し出した。少しでも園児達の機嫌を直して双子と仲直り出来ればと。
「形は悪いけど、美味しいから食べてみて」
瀬蓮もお菓子を配る。
「ありがとう、お姉ちゃん」
園児達は甘いお菓子にあっという間に機嫌を直して次々と食べ始めた。
園児達が美味しいパンプキンパイを食べ終わったところで
「ほら、今度こそ大丈夫だぞ」
「確認したから」
双子は今度こそ楽しい悪戯菓子を園児達に渡した。受け取った園児達は楽しい悪戯菓子に満足した。
そこへ
「結果的に子供達を楽しませてくれたお返しにお菓子を……ハッピーハロウィン」
牙竜が双子にお菓子をあげた。
「おう、サンキュー」
「しかし、ドラゴンってすげぇな。オレもそういうのにしたらよかったかも」
ありがたくお菓子を頂戴すると共に牙竜の雄々しい姿に少し羨望。
そこに子供達にお菓子配布を終えた美羽達がやって来て
「ハッピーハロウィン!」
「お菓子をどうぞ」
美羽と瀬蓮は牙竜達にもお菓子をあげた。
「あぁ、ありがとう」
「くれるなら貰っておくわ」
牙竜とセイニィは有り難く頂戴した。
それが終わると牙竜達と別れて美羽達は双子を連れて近くのフリースペースで一息入れた。
フリースペース。
「二人にもパンプキンパイをあげるよ」
「食べてみて」
美羽と瀬蓮はパンプキンパイをプレゼント。
貰った双子は早速食べる。
「美味しいぞ」
「こっちは形が悪いけど味は悪くない」
ヒスミは美羽のキスミは瀬蓮が作ったパイを美味しく食べた。
それが終わると
「お返しに俺達も」
「だな」
双子はごそごそとお菓子を準備。
「また変なのだったら怒るよ?」
美羽は腕を組みながら双子をじろり。
「分かってるよー」
「もう変なのは出さないって」
と言った双子が美羽達にあげるお菓子は大量のハロウィンな包装をされた飴だった。
「これ飴だよね。何か不気味な色」
「……この色はハロウィンだからだよね」
美羽と瀬蓮は包みを解いて中身を確認するなり表情を曇らせた。何せ、いかにも不味そうな色をしていたから。
「いいから手に取って早く食べろよ」
「ただのお菓子で何にも無いから」
双子はニヤニヤしながら勧める。明らかにただのお菓子ではないのは顔を見れば分かる。
「美羽ちゃん」
瀬蓮は見た目から飴玉を手に取る事が出来ず、ただただ美羽の方に振り返り、戸惑っていた。
「よし、私が毒味をするから瀬蓮ちゃんは見てて」
瀬蓮にこくりとうなずいた後、美羽はここは自分が動くしかないと決心した。
「毒味って何だよ」
「酷いな」
散々な言われようにぶすぅとする双子。
美羽が飴玉を手に取った途端、
「うわぁ、色が変わったよ。何、これ」
不気味な色は鮮やかな深紅に様変わり。まさかの変化にびっくり。
「宝石みたい」
見守っていた瀬蓮も飴玉の変化に思わず驚嘆の声を上げた。
「手に取ると変色するんだ。味は色によって違うから。赤色は苺で黄色は……」
「レモンだ。ほら、ハッピーハロウィン!」
悪戯成功に満足した双子は、ついでにと味の説明も加えた。
「……あっ、美味しい」
美羽は口の中に飴玉を放り込み転がし広がる苺の味に表情をゆるませた。
「これはブドウの味だね……美味しい!」
瀬蓮は紫に変化した飴玉を楽しんだ。
この後も、賑やかなハロウィンは続いた。
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