校長室
今日はハロウィン2023
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「賑やかでふね」 リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)はモンスターで溢れる通りを楽しそうに眺めていた。 「そうだな。しかし、あの招待状は何だったんだろうな」 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は賑やかな通りよりも自分の所に届いた宛先不明のハロウィンイベントの招待状が気になっていた。 「そんな事よりリーダー、ハロウィンサブレを食べて変身するまふ(リーダーは成功したまふ。後は……)」 リイムは宵一の注意を逸らすかのようにハロウィンサブレを持って来た。実は宵一と後から来るもう一人に招待状を出したのはリイムなのだ。 「まぁ、最近は戦ってばかりだし、たまにはのんびりするのもいいか」 そう言うなり宵一はリイムから受け取ったハロウィンサブレを食べた。 途端、 「変身したのはいいが、なんじゃこりゃ!?」 宵一はリイムにそっくりの姿になった。違うのはカボチャ色の体毛に背中の蝙蝠の羽と頭に花が咲いていないだけ。 「似合っているまふ(これで少し盛り上がるでふよ)」 別の事に心を向けながら宵一の姿を褒める。そういうリイムは頭にムラサキツメクサを生やした黒猫の姿。可愛いのは変身しても変わらない。 「そうか。日頃からリイムになりたいな〜と思っていたせいかもな」 もふもふな自分の姿を確認する宵一。 「ハロウィンを楽しむでふよ(オレンジ色の明かりと花火で夜景が綺麗まふ。ムードたっぷりでふよ)」 リイムは空に上がり続ける花火と内緒の計画を確認。 そんな時、 「お待たせして申し訳ありません。リイム様」 お菓子配布の仕事を終えたグィネヴィアが現れた。 「!!」 まさかのグィネヴィアの登場に驚く宵一。 しかし、グィネヴィアの様子がおかしい。 「……宵一様の姿が見えませんが」 周囲を見回しながら話すグィネヴィア。どうやら自分がリイムだと思っているのが宵一だとは気付いていない様子。 「……」 宵一は勘違いしたグィネヴィアにどう言うべきか分からず沈黙する。 勘違いを指摘したのは 「グィネヴィアさん、僕はここでそっちはリーダーまふ」 グィネヴィアの側にいる黒猫リイムだった。 「!!」 知った声に指摘されたグィネヴィアは自分の勘違いにみるみる顔を真っ赤にする。 そして、 「申し訳ありません。あの、わたくしてっきりリイム様だと……本当に……その申し訳ありません」 グィネヴィアは顔を赤くしたまま頭を下げて激しく謝った。 「いや、気にするな。間違えても仕方が無いさ」 宵一は気を害してはいないと笑顔でフォローを入れた。 「あ、はい……あの、今日は誘って頂きありがとうございます」 宵一の笑顔にグィネヴィアはほっとして今度は感謝に頭を下げた。 「……誘う?」 身に覚えのない事に宵一は思わず聞き返した。 「……はい……招待状が」 グィネヴィアは確かだとこくりとうなずいた。 「……(一緒に過ごしたいとは思っていたが、招待状など送った覚えは無いぞ。グィネヴィアが嘘を言う訳は無いし、そもそもこの遭遇も偶然とは考えられない)」 意味不明な状況に首を傾げる宵一。犯人であるリイムがグィネヴィアに送った招待状は、宵一の筆跡と署名を真似して一緒にハロウィンイベントを楽しもうという趣旨の内容が記された物だった。何もかもグィネヴィアを好いている宵一のためにした事。 「どうでふか? 僕、猫になったまふ。もふもふしていいでふよ」 リイムはくるりと一回りしながら訊ねた。 「とても可愛いですわ」 グィネヴィアは屈んでリイムを撫で撫で。 「…………(招待状の事は置いといてこれからどうするかだ。道化になって楽しく話してみるか)」 宵一はリイムと戯れるグィネヴィアを見ながら気分を切り替える事にした。折角好きな人と過ごせるのに考えても仕方が無い。 「リーダーの姿はどうでふか?」 少しでも二人が話せるきっかけをとリイムは頑張る。 「……リイム様にそっくりで驚きましたわ」 グィネヴィアは人違いをした事を思い出して恥ずかしそうに答えた。 「せっかくでふから、グィネヴィアさんも……」 リイムは予め準備していたハロウィンサブレを渡そうとするも 「リイム」 呼びつける宵一の声で中断された。 「どうしたでふか? リーダー、グィネヴィアさんとたくさん会話したいでふよね? グィネヴィアさんに変身して貰った方がもっと仲良くなれるまふ」 いつの間にか離れた所にいる宵一の元へと駆けつけたリイム。グィネヴィアが変身すればその事で話が弾むのではないかと考えていた。 「リイムの気遣いはありがたいが、食べて貰うのは……」 宵一としてはグィネヴィアには変身しないで欲しい。 「リーダー、今日はハロウィンでふよ」 リイムは諦めない。二人がもっと仲良くなって欲しいから。何せ保留となった告白の現場にいたので尚更なのかもしれない。 宵一達がハロウィンサブレを巡ったやり取りをしていた時、 「これがハロウィンサブレの力ですのね。すごいですわ」 驚きと好奇心の混じったグィネヴィアの声がした。 「!!」 宵一達は同時にグィネヴィアの方に振り向いた。 「グィネヴィア、その姿は……」 「誰かに貰ったんでふか?」 グィネヴィアの姿を見て驚く宵一と持っているハロウィンサブレを見た後小首を傾げるリイム。 驚いたグィネヴィアの姿は、リイムと同じ姿であった。違うのは宵一と同じく頭に花がない事や体毛や羽が違う事ぐらい。 「先程、ヒスミ様とキスミ様が来てハロウィンだから変身しないともったいないと言われて食べてみたのですが」 グィネヴィアは宵一達が話し合いをしている間に会った顔見知りの双子にハロウィンサブレを貰った事を伝えた。トラブルを起こす者と巻き込まれ体質が会うのは自然な事なのだろうか。 「可愛いまふ。リーダーもそう思うでふよね?」 リイムが一番にグィネヴィアを褒めてから宵一も話題に入れるようにと声をかけた。 「……あぁ」 宵一が答えられたのはそれだけ。ハロウィンサブレ使用は反対していたが、いざ使用した姿を見ると可愛くて。 「ありがとうございます」 褒められて恥ずかしそうにするグィネヴィア。 「リーダー、グィネヴィアさん、花火が綺麗まふ。どこかで花火を楽しむでふよ」 リイムが内緒作戦、二人きりにしよう作戦を開始。まずは、何気ない話題を。 「それなら花火だけじゃなくて街を見下ろすのもいいかもしれないな……グィネヴィアはどうだ?」 宵一はリイムの作ったきっかけを利用して誘ってみた。 「……はい、是非」 グィネヴィアはこくりと誘いを受けた。 宵一達とグィネヴィアはハロウィンらしく近くの屋根の上で夜景を楽しむ事にした。 とある屋根の上。 夜空には絶え間なく咲く花火、地上には温かなオレンジの光と溢れるモンスター達。 「……街の灯りも綺麗でふ」 「それにハロウィンの格好をした参加者で溢れて賑やかだ」 リイムと宵一。 「……」 グィネヴィアは夜景ではなく隣に座る宵一の横顔をちらり。こうして過ごしていると横切るのはどうしても告白の事。純情故に徹頭徹尾割り切っていく事は出来なかったり。 「……?」 視線を感じた宵一が振り向くとグィネヴィアは驚いたように視線を逸らし 「見ているこちらも楽しくなりますわ」 慌てて感想を言葉にした。 二人きりにするチャンスだと見たリイムは 「ちょっと僕はお菓子を用意して来るまふ」 そう言って二人の邪魔をしないために退散した。 「リイム!」 リイムの意図を知った宵一は止めようとし、 「楽しみにしていますわ」 グィネヴィアは素直にお菓子を楽しみにしていた。 席を外したリイムは 「……リーダー、頑張るまふ」 お菓子調達には行かずに二人の様子を離れた所から見守っていた。そもそもお菓子は、こっそりだが持参しているので調達の必要は無かったり。 リイムが退散してしばらく後。 「リイム、遅いな……グィネヴィア?」 リイムに見守られている事を知らぬ宵一は隣が突然静かになった事が気になり振り向いた。 途端、 「……」 寝息を立てるグィネヴィアが宵一にもたれかかってきた。お菓子配布スタッフとして全力で頑張った事が疲れが顔を出したのだろう。 「……眠っているのか」 宵一は可愛い寝顔に表情をゆるめるも胸の内は緊張して困った。何せ好意を抱く相手の無防備な姿を見て緊張しない人などいない。しかし、宵一は起こしたら可哀想とグィネヴィアが目覚めるまでじっとしている事にした。目覚めたらまた激しく謝られそうだが。 「……遅いな」 なかなか戻って来ないリイムに溜息をつきながら宵一はグィネヴィアの寝息を聞きながら花火を眺めていた。