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祭と音楽と約束と

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祭と音楽と約束と

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村長

「さてと……ごめんなさい。私は一旦抜けさせてもらうわね」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)一緒に祭を回っていたゴブリンにジェスチャーで簡単にそう伝える。
「弥狐。財布は預けるけど、使い切ったりしたらダメよ?」
「大丈夫だよ沙夢。お腹いっぱいになるまで食べるだけだから」
 そう答えるのは雲入 弥狐(くもいり・みこ)だ。
「……少し心配だけど……ゴブリンさんもちゃんと案内してね」
 そう言って沙夢はゴブリンと弥狐の元を離れる。
「沙夢は心配症だなぁ。……けどさすがお祭りだね。人だけじゃなくてゴブリンやコボルト達も楽しそう。それに……」
 と、弥狐はあたりを見回してそこに広がる光景を確認する。
「あたしたち以外でも人とゴブリン、コボルトで一緒に回ってる人達が結構いるね」
 基本的には人側は村人が多い。だが中には観光客がジェスチャーでゴブリンやコボルトに四苦八苦しながら話しかける姿があった。
「祭ってだけじゃないよね」
 ここまでの努力が実った結果なんだろうと弥狐は思う。
「こんな光景がずっと続けばいいなぁ」
 祭の喧騒に弥狐はそう願った。

「大丈夫? 村長」
 ミナホの部屋。自分のベッドに横になるミナホに沙夢はそう声をかける。
「ありがとうございます。今日一日は寝ないと怒られちゃいますけど、明日にはちゃんと復帰する予定です」
「無理は禁物よ」
 そんな感じで沙夢はミナホの体を気遣いながら話をする。
「……それで、沙夢さん。私に何のようでしょうか?」
 ひと通り話が済んだところでミナホは本題に入る。
「この間のお願いの答えを言おうと思って」
「……そうですか。それで答えは……?」
「任せて」
 端的に沙夢は答える。
「正直自信はないんだけどね。……他の契約者と比べると力不足を感じるし」
「守る力なんて私にもありません。沙夢さんたちに頼みたいのはあの子の心を守ることです」
「……どっちにしても自信なんて無いわ。それでも、引き受けたからにはもしもの時、全力をつくすわ」
「はい。お願いします。もしもの時とも言わず、普段から少しでも話して貰えると嬉しいです。なんならお店を手伝わせたりしてもいいですから」
「……それも考えとくわ」
 そう言って沙夢はミナホの体に負担をかけないように部屋を出て行った。



(あたしにとっての『みんな』は、あたし自身であり、クレアであり、ミナホちゃんや村の人たちや、そこに関わる契約者のみんなであり、森の住人たちで……)
 森の警備につきながらレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は考えていた。守り手であるゴブリンやコボルトたちが森を離れる間、その代わりにレオーナはきていた。その目的は一つは当然ゴブリンやコボルトたちがうれいなく森を離れても祭を楽しめるように。そしてもう一つは確認するためだった。
「え? ううん。大丈夫だよ平気平気」
 一人のゴブリンがジェスチャーで大丈夫かと聞いてくる。いつも元気なレオーナが控えめに見ても落ち込み気味なのを心配してだろう。
(……本当に変わらないんだね)
 人もこの森のゴブリンやコボルトも。
(これが、ミナホちゃんの守りたいものなんだね)
 それはミナホが守ろうとするものの一つだ。それをレオーナはしっかりと心に刻む。
「ミナホちゃんが守ろうとしているもの……それをしっかりと理解した上で……あたしはどっちを選ぶのかな。…………選べるのかな」
 答えはまだ出ない。けれど、レオーナは答えを出すことから逃げていなかった。


「大好きなミナホちゃんの側でお手伝いしたいけど、村や森のみんなも大好きだからね、今日は森のお手伝いに行くぴょん。でもでも、ミナホちゃんのこと本当に大好きだよん。お友達としても、人間的な意味でも、百合的な意味でも」
「…………はい?」
 やってきたクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)の言葉にミナホはベッドの中で石になる。
「……というのがレオーナ様の伝言です」
「……ああ、良かった。一瞬クレアさんがおかしくなってしまったのかと」
「それ、結構ひどいセリフですね」
「いえ、悪意は全くありませんよ。レオーナさんのこと好きですし」
「レオーナ様が聞いたら卒倒しそうなので言わないほうがいいですよ」
「? クレアさんも好きですが……クレアさんも好きって言ったら倒れるんですか?」
「……なんていうか、ミナホ様は健全ですね」
 逆に自分はレオーナに付き合って少しだけ健全さを失っているかもしれないと思う。
(……そんなレオーナ様が今回は本気で悩んでいますからね)
 少しでもレオーナの真剣な思いが伝わることをクレアは願うのだった。