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祭と音楽と約束と

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祭と音楽と約束と

リアクション


ライブ

「はい、お疲れ様。喉にやさしいハーブドリンクだよ。ライブで疲れた喉をしっかり癒してね」
 三日目ミュージックフェスティバルのメインにして最後を飾る本ステージを利用してのライブ。それに出てきた出演者のアーティストにネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はそう言ってドリンクを手渡す。中に入っているのはあらかじめ作っていたハーブやはちみつ黒砂糖などを熟成させて作ったシロップを温泉水サイダーや普通の温泉水で割った飲み物だ。
「お疲れ様。あなたは……水分が足りなそうだね」
 戻ってきたアーティストの状態を観察して適切な飲料を渡すネージュ。いろんなアーティストに対応できるよう、ドリンクのシロップも複数用意していた。
「これ、出る前に飲んで欲しいの」
 これからステージに向かうという人にそう言ってドリンクを渡すのはネージュのパートナーであるディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)だ。ネージュの作ったシロップを温泉水などで割った後に、花妖精である自分のラベンダーの花びらをドリンクにアレンジして浮かべたりする以外は、こうしてステージ前で緊張しているアーティストを応援するように動いていた。ライブ終了後のアーティストのケアも当然だが、ライブ前のアーティストのケアも出来うる限りカバーしていこうというドリンクスタンドだった。当然アーティストたちの評判もいい。
「……そういえば、ねじゅおねえちゃん。そろそろゆうなちゃんが歌う頃?」
「そうだね。ここからでも聞こえてくると思う」
 そうして二人はライブに参加している自分たちのパートナーのことを思い浮かべるのだった。


「それじゃ歌います。題名は『ニルミナスの子守唄』」
 結衣奈・フェアリエル(ゆうな・ふぇありえる)は登場の挨拶を終えてそう言い、早速歌い出す。今回はソロということもあり、話しているよりも早く歌っていたかった。
『……心が疲れた子達は集う、その泉へ。温もりに包まれた、大地の泉へ。』
 それは題名の通りニルミナスのことを歌った歌だ。
『今はただ、身をゆだね、そっと洗い流していこう。
 今はただ、漂っていよう。星空が水面に映るまで。』
 と言っても歌詞はニルミナス仕様だが、それを載せるための曲は以前に歌った曲を利用している。
『幾千の時を超えて、こんこんと湧く温泉で、子供達は何を想い漂うだろう。』
 歌い終えて結衣奈は息をつく。
「ありがとうございました」
 ステージの上で綺麗にお辞儀をする結衣奈。その歌声とその姿勢に観客は盛大な拍手をするのだった。



「はぁ……主、たしか前に『わたしが命に代えて集落守るよ』っておっしゃられませんでしたか?」
 それがどうして今ステージに立とうとしているのだろうと蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)芦原 郁乃(あはら・いくの)をジト目で見る。
「もっと大事なことができたんだよぉ〜それにこっちに来てる間は代理を頼んでるから……」 
 流石に後ろめたい部分を感じてるのか珍しく郁乃がまともに弁明をする。
(……まぁ、村と森との橋渡しになるため、今回のことが無駄になるとは思いませんが)
 森がどうでもよくなったわけでなく、森のためにやれることをしたい。そのためにこのステージに郁乃が立とうとしていることをマビノギオンは理解していた。
「はぁ……しかたがないですね。こまできて何もしないのでは格好がつきません。やるからには全力でやってください。盛り上げてくださいね」
 そうしてマビノギオンは送り出す。郁乃と……ゴブリン・コボルトの子どもたちを。

 舞台に立つ郁乃たち。そのメンバーに観客たちは驚く。その様子を見ながらも郁乃はいつものような笑みを見せ、ゴブリンやコボルトの子どもたちに協力を貰い音楽を奏で始める。
 郁乃が歌い、子どもたちが人の持つ楽器で奏で、時に踊る。
 それは森への感謝を表現した歌だった。
(ゴブリンたちと人間がもっと親しく、仲良くなってほしいし、どこかで見てるだろうミナにも分かってほしい)
 郁乃は願いをこめて歌う。
(私たちも森を愛する一人なんだって。ミナスの遺志を受け継ぐ一人なんだって!)
 それは人と森の橋渡しを願い、森を守ることへの覚悟を込められた歌だった。



『こんにちはー! そろそろこんばんはかな? <シニフィアン・メイデン>です』
 ステージの前に並ぶ観客を前に綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はそう挨拶をする。となりはシニフィアン・メイデンの相方でありパートナーであるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の姿もある。その姿はいつものステージ衣装と違い綺羅びやかではなく落ち着いた感じの村娘といった風だ。
『突然だけど、この村っていい村だよね。雰囲気とか。ゴブリンやコボルトが普通に出入りしてたりとか」
『飛び入り参加でもちゃんと枠を取ってくださいますしね』
 さゆみの言葉に続けてアデリーヌは言う。
『そうだね。……実は、この前迷子になっちゃったんだけど、その時に辿り着いたのがこの村だったんだ』
 その時のことを思い出すようにさゆみは続ける。
『村についた時すごく安心したのを覚えてる。なんだか落ち着くんだよね。雰囲気とかが本当にさ』
 うまく口で説明できないけどとさゆみ。
『だから、そんな説明できないものとかいろいろを込めてこの歌を作りました。題名は「ここにおいでよ」』
 そうして唄い出すシニフィアン・メイデン。二人から紡がれるのはニルミナスの雰囲気。それを表現したと感じられるものだった。
(普段と真逆の歌ですが……ちゃんと出来てるでしょうか)
 二人が歌っているのはあえて表現するなら『あかるくほのぼのとした歌』だ。普段アデリーヌが歌っているジャンルとは大きく離れている。
(けど……あの日感じた偽りのない感謝の気持を込めたいですわ)
 うまく出来るかは自信がない。けれど、自分にできる精一杯はしたい。
(けれど……なんでしょうか。ステージの上でこんなに落ち着いて歌ったのは初めてかもしれません)
 村の雰囲気にのせられてか、いつもよりものんびりとした気持ちで自分が歌っていることに気づく。

 そうして歌われる曲はやはりニルミナスの雰囲気を表した曲であるのに間違いはなかった。



『みんなー! ボクのライブに、ミュージックフェスティバルに来てくれてありがとう!』
 堂々とした様子で赤城 花音(あかぎ・かのん)は観客に挨拶をする。
『早速一曲……って、言いたいんだけどその前にボクたちから報告があります』
 そう言った花音の隣にリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が立つ。
『借りている舞台の上で恐縮ですが……ボクはパートナーのリュートと、正式に交際する事になりました!』
 花音を知る多くの観客たちがその発言にどよめく。
『リュートはこれまで、ボクの音楽活動を影になって支えてくれた……かけがえのない恋人です。義兄妹の関係で始まり……それでもボクを愛すると言ってくれた。……想いに向き合うために迷い悩みました」
 ざわめいていた観客たちは静かに花音の言葉を聞く。
『ボクの答えは……これまでも……そして、これからも運命共同体です! こんなボクらですが、皆さん、よろしくお願いします」
 はいと花音はリュートもしゃべってとマイクを渡す。
『皆様、花音と交際中のリュートです。自称Мr.リリーフ……肩の頑丈さだけが取り柄な投手です。これからも……皆様に楽しんで頂ける音楽を創るため、花音と共に二人三脚で頑張らせて頂きます。よろしくお願い致します』
無難にまとめるリュート。ただ、その表情は花音の恋人としていつもより1割増しで自信に満ちている。
『てわけで報告も終わったから歌うね。タイトルは「夢物語」』

あなたの夢を聞かせて 約束の秘密の場所で
目と目で伝わる想い 蘇る眠る記憶
初めは恥ずかしくても 素直になろう信じよう
短気は損気で もったいないんだ!

パステルカラーの絵の具を並べて
白カンバスへぶつけよう!楽しむが勝ち?

無限に広げよう夢物語 光と影を織り成しながら
神様は以心伝心 100%は無理だよね?
忘れないで幸せを願う祈り 宛名が無数のメッセージ
ありのままに…受け止める勇気

全ての原点!創意工夫と試行錯誤だよ♪



『って、わけでボクたちの出番は終わりだよ。いろいろあるけど、これからもボクたちをよろしくね』
 そしてと花音は続ける。

『最後は瑛菜部長たちのライブだよ!」