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リアクション
第一章
空京のビル群に隠された地下の闇カジノ。あらゆるギャンブルを問題なく執り行うためには定期的なメンテナンスが必要不可欠だった。
佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)とレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)は九条に雇われて、このカジノに訪れたのだ。
黒服の男が二人に応対する。
「分かっているでしょうが、くれぐれも」
「ここの場所は内密に。ですよね? 心得ていますよ」
そう言って、牡丹はフロアの隅から点検を始めた。
「それじゃあ、僕は天井のメンテナンスをするね?」
「うん、なにかあれば呼んでね?」
「は〜い!」
レナリィは機晶ブースターで空を飛び、電球のチェックを始めた。牡丹もレナリィが出来ない椅子の修理やスロットのメンテナンスを始めた。
と、
「牡丹、牡丹」
レナリィが牡丹の近くを飛んで呼びかける。
「どうしたのレナ?」
「あそこにいるの、雅羅さんじゃないかな?」
牡丹が視線を向けると、そこには雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がいた。
「っ!」
だが、雅羅は恥ずかしそうに視線を逸らしてしまう。バニースーツという格好がさらに雅羅の羞恥心を煽り、牡丹たちから隠すように手で体を隠すと頬を紅潮させた。
「こんな所で、何をしてるんですか? それに……その格好は……?」
「うう……実は」
雅羅はこうなったことの経緯を話し、牡丹とレナリィは渋い顔をした。
「いろいろ噂は聞いていましたが……火のない所に煙は立たないと言いますか、本当に違法カジノだったんですね。とは言え、こちらも修理を依頼されている以上、仕事は完璧にこなさないといけませんから」
「そ、そうだよね……うん、ごめんね? こっちはこっちでなんとかするから」
「お〜い! そこの、ちょっとタバコ持ってきてくれ」
雅羅は客の一人に声をかけられて、それじゃあと言って走り去ってしまう。
牡丹も再びメンテナンスに戻るためスロットコーナーへと足を運んだ。
「このまま仕事をして帰るんですか?」
「まさか。周りの目があるからああ言ったまでです。実体を知った以上、見過ごすわけには行きませんので、1つ邪魔をしてあげます」
そう言って牡丹は修理作業を行ないながらカジノ場をウロウロしている最中、常に微弱なマグネティックフィールドにより磁場を発生させ続ける。
それによってスロットマシーンやビデオポーカーの電子制御に狂いが生じ始める。それを示すようにあちこちでスロット大当たりを告げるファンファーレが一斉に鳴り響き、黄金のコインが排出口から湯水のごとく溢れだし、スロットコーナーは歓喜とパニックの声に溢れかえった。
「さ、メンテナンスは終わりました。帰りましょう」
「は〜い」
二人はカジノを後にした。
これがこのカジノでこれから起きたことの口火となったことを当の二人が知ることは無かった。
「ど、どうしてこんなことに……」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はスロットの前で呆然として。
雅羅を助けるという名目でここを訪れたルカルカであったが、ちょっとのつもりでスロットに腰を下ろした瞬間にスリーセブンが揃って黄金のコインが山のように吐き出されたのだ。
もちろん牡丹のマグネティックフィールドの仕業だが、そんなことをルカルカが知る由もない。ついでに周りでもスリーセブンが大量発生しコインが一部で溢れかえった。
「ダリル……電脳支配でスリーセブン出してとは頼んだけど、これはやりすぎだよ……」
「なにを勝手に引いてるんだ。俺はそんなくだらん事はしない」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もこのバカげた事態に眉間を押さえた。
「それで、この大量のコインをどうするつもりだ?」
「もちろんこれを全部つぎ込んで大勝負するわ。てなわけでポーカーで勝負!」
「どういうわけか知らないが、まあいいだろう」
ダリルはルカルカの後を追うようにポーカーのテーブルへと歩いていく。ルカルカはディーラーの対面に座り、ダリルは後ろで見ておくことにした。
「ようこそ、それではゲームを開始します」
ディーラーがそう言ってカードを取り出すと、
「待ちな。使うなら、こちらの用意したカードを使ってもらう」
ダリルはそう言って、封も切っていないトランプをケースごとテーブルに置いた。
「なるほど……構いませんが、中身を調べさせて貰ってもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。あんたには調べる権利がある」
ダリルは快く承諾するとディーラーは封を切ってトランプマークを確認したり裏に傷がないかのチェックを始めた。
「……問題ありません。それでは始めましょう」
ディーラーはカードをシャッフルし、ルカルカはカットをしてディーラーが順番に配る。と、
「ちゃんと、カードを配ってもらわないと困りますよ?」
「……なんの事ですか?」
ディーラーは聞き返しながらカードを配り続けるが、ルカルカは超加速で素早く右手を伸ばすとディーラーの手を掴むと、袖口からカードが数枚こぼれた。
「うっ……。こ、これは……その……」
しどろもどろになるディーラーを見つめて、ルカルカはニッコリと笑みを浮かべた。
「イカサマ無しでお願いね?」
そう言ってルカルカはディーラーから手を離すと、ダリルはカードを掴んだ。
「カードは俺が配ることにしよう。俺がイカサマをしたのなら、遠慮なく指摘すればいい。あんたもプロなら相手のイカサマを見抜く目くらいあるだろ?」
「も、もちろん……それで構いません」
ダリルはカードをシャッフルをすると、カードを配る。ディーラーはダリルの挙動を一挙手一投足見逃さなかったが、イカサマは行われていなかった。
当然だ。イカサマは、もっと別の所で行われていたのだから。
ルカルカはディーラーの目を盗み、ポムクルさんたちを放った。
(それじゃあ、よろしくね)
(任せておけなのだー)
テレパシーで連絡を取り合い、ポムクルさんたちはこっそりとディーラーの背後に回りこむことに成功した。
相手の手札を完全に掌握し、ルカルカはイカサマをしていることがバレないように適度に負けてやりながら、ここぞという勝負で勝ちを重ね金を雪だるま式に増やしていった。
別のテーブルでは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の三人がディーラーを交えてポーカーをしていた。
とは言ってもセレンと泰輔は共闘しているわけではなく、たまたま席が同じになっただけである。
セレアナはセレンにテレパシーを送る。
(セレン、ディーラーはカードのすり替えをしているみたい。現場を押さえた方がいいかしら?)
セレンが答える前に、泰輔から一つ提案が出た。
「なあ、折角こんな立派なカジノに来たんやから親の人がシャッフルとかカードを配るのとかしたいんやけど、どうかな?」
「私は構いません。そちらのお客様はいかがですか?」
ディーラーがセレンとセレアナに訊ねてくる。泰輔の思わぬ提案にセレンはニッコリと笑みを作った。
(セレアナ、大丈夫。こっちでシャッフルさせてもらえるならすり替えくらいならどうにでも出来るわ)
(ええ、そうみたいね)
セレアナも薄く笑みを浮かべて、泰輔の提案に乗った。
「そんなら、言い出しっぺの僕からやってもええかな?」
「ええ、どうぞ」
ディーラーは山札を渡すと泰輔は鼻歌まじりにシャッフルを始める。最初は普通にカードを切るだけだったが、山を二つに分けるとテーブルの上に置きカードの端を弾くショットガンシャッフルに挑戦しようとする。
が、
「あ」
泰輔の手からカードが飛びだし、テーブルの上にばらまかれてしまった。泰輔は苦笑いを浮かべながら、ごめんごめんと平謝りをしながらカードを集めて再びシャッフルをして配り始めた。
泰輔が親の勝負は薄い賭け金ながらディーラーが勝利した。
カードのすり替えを行っての勝利であるが、それを誰も口に出さない。まるで、何も気づいていないように。
「それじゃあ、次はあたしの番ね」
セレンはそう言って、山札を受け取ると泰輔が親の番に作られた四人の手札を山に戻していく。
そこで、セレンは動いた。
何気ない仕草でカードを回収したフリして、山札の上に自分に配られたときにフルハウスになるように揃えた。そしてシャッフルをするが、上の五枚は固まったまま動かず、そのまま何事もないように山札の上へと戻った。トップ・ブラインド・シャフルというイカサマ技術である。
後は何事もなく上から配っていけば何もしなくても役が完成している。ディーラーもカードのすり替えをするだろうが、全てのカードをすり替える事は不可能だし、一枚変えるのが限度だろう。
ディーラーがレイズを宣言すると、セレンもさらにレイズする。泰輔とセレアナは早々にドロップし、セレンはディーラーに勝利し、大量のコインをせしめた。
泰輔は小さい額で勝ったり負けたりを繰り返したが、セレンはトップ・ブラインド・シャフルを駆使して親の時に大量に儲けを得ていた。セレアナも同様のイカサマが出来るのだが、二人で何度も勝っているとさすがに怪しまれると思い自らはセレンの保険となり自重しながら勝負に参加し続けた。
「なんや、えらい景気がええのう」
「おかげさまで」
泰輔の言葉にセレンは笑みを浮かべる。
ディーラーもカードのすり替えで対抗するが、そもそもにイカサマを仕組んでいるのはセレンだけと見切りをつけて、ディーラーは彼女にばかり目を向けていた。
が、それは大きな間違いだった。
数十回の勝負を繰り返し、いよいよ泰輔が動き出した。
泰輔は数回行われた勝負で自身に渡った手札、シャッフル時のトランプに見えないように爪で傷をつけていたのだ。
それを契機に勝負の流れが泰輔へと流れ始める。勝てない勝負では降りて、勝てる勝負ではガンガンレイズを仕掛ける。どこに何のカードが来てるのか丸わかりなのだから、勝てない筈はないのだ。
まったく別のイカサマが乱入してきたことでディーラーは益々勝てなくなり混乱し、セレンも急に勝ち運が逃げたような気配を覚えていた。
「……やるじゃない」
「おかげさまで」
泰輔はニッコリと微笑み、セレンは熱を帯びる。
(ねえ、セレン? そろそろここを離れた方がいいんじゃないかしら? 他のもイカサマが入ってきてるみたいだし、今ならまだ勝ち逃げも出来るわ)
(大丈夫だって、まだまだ勝負はこれからじゃない)
セレアナはテレパシーで声をかけるが止まる気配は無い。
二人は競い合うようにイカサマを応酬し、その被害に遭うようにディーラーは金をむしり摂られていった。
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