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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第12章 黒のテスカトリポカ Story3

 一刻も早く深手を負わされた太壱の治療しなければと、虚構の魔性のひきつけ役を仲間に任せて置いてきてしまった。
 遥か後ろにいるはずの樹や章たちの声が耳に入ってくる。
 治療に集中しきれないベルクを、フレンディスが傍からそっと抱きしめて落ち着かせる。
「マスター、皆さんはまだ大丈夫です。集中しましょう」
「分かってる…フレイ」
 気を落ち着かせようと気を落ち着かせ、太壱のアンデット化が解けるのをじっと待つ。
「肌の色が元に戻ってきましたよ、マスター!」
「やっと治療できるな」
「悪いな、俺のスキルじゃもう無理みたいだ…」
「いや、一般の回復魔法レベルで、どうこうできる問題じゃない」
 ただの人間ではいつ出血多量死してもおかしくないほど酷いものだった。
 時の宝石に込め、藍色の時計型球体へ太壱を包み込む。
「あらま、不思議ね。時計が逆方向に進んでるわ」
「深手を負う状態になる前へ戻っていっているのでしょうね」
 ヴェルディーとエルデネストは不思議な光景を、観察するように眺めた。
 回復魔法ですら治療不能だった太壱の傷が跡形も無く消えていく。
「エターナルソウルにはそんな能力があるんだな」
 グラエキスも治療の様子を興味津々に見ていた。
「くそ〜、やられっぱなしじゃ癪だ!」
「ちょっと筋肉ダルマ、もう立って平気なわけ!?」
 傷口は完全に塞がったらしいが、重傷に値する出血量だったはず。
 なぜ急に立ち上がれるのかと驚きの声を上げた。
「言っとくが倒すことが目的じゃないからな」
「皆さんを呼びに行きましょう、マスター」
「あんまり長丁場にしたくない相手だしな」
 ベルクはフレンディスを抱えて樹たちを呼びに向った。
 仲間の元へ戻ると3人共、今にも倒れてしまいそうなほどの傷を負わされていた。
 まだ砂に膝をつかないだけ、よく奮闘していたと思えた。
 禍々しく輝く黒い月の下、ディアボロスは愉快そうに祓魔師を眺めていた。
「あはは、おもしろー。次は何してやろうかー?」
「よくも好き勝手やってくれたもんだな……」
「―…はっ、あれは!?樹さん、砂の下から骨のようなものが!」
 樹がいる砂の下から白骨の指が見え、彼女の腕にしがみつこうと手を伸ばしている。
 フレンディスの声に気づき身体を転がし逃れると、樹を掴み損なったそれは粉となって消え去った。
「もうちょっとでアンデットになれたのにね♪」
「バカ息子にしたのはこれか」
「正解ー。まー、あれだね。泥棒くんもいることだし、皆仲良く倒れちゃいなよ」
 ベースを取り戻そうと黒い月の輝きを拡散させる。
「スカー、走れ」
 片手をディアボロスへ向けて突風を放ち、スカーを全力で走らせる。
「主を泥棒呼ばわりするとは、けしからんやつめ」
「えぇ。ベースの子もどこからか見つけてきたのでしょうし…」
 身勝手な言い分にエルデネストは呆れ嘆息した。
「まてまて〜」
「もう来てしまいましたか」
 追いかけっこでも楽しんでいるのかのように追いつかれてしまう。
「うわ、なんか飛んできたっ」
 いくつもの祓魔の護符を投げつけられ、起爆に足を止められた。
「もー怒っちゃったもんね」
 眉を吊り上げて怒り、小さな星々を降らせてやる。
「マスター、何か降ってきました!」
「見たこと無い術だな。もしかしたら呪いかもしれないぞ」
「そ、そんな…」
「まさかフレイ!?」
 声音を沈ませてしまったフレンディスが、呪いにかけられてしまったのかと不安になり彼女の顔を覗き込む。
「美味しそうなお菓子に見えましたのに、食べられないんですね。ところで今日の夕飯は、何にしましょうか?今思ったんですけど、昼ごはんも食べてないような…」
 ぐぅ〜っと切なげにお腹を鳴らしてしょんぼりとした。
 到着から任務活動しっぱなしで、昼ごはんを食べそびれていたのだった。
「大変ですマスター。精神力も先に、空腹の限界がきそうです!樹さんの石を肉にの魔法で、その辺の石をお肉に出来ればよいのですが…」
 これが食べ物になればよいのにと思い、砂に転がる石を見下ろす。
「フレイ…、メシの話しは後にしような。後、その魔法にそんな用途はねーから」
「うわぁあああーーーーーっ」
「今度は何だ!?」
 突然の叫び声に何事かと彼の方を見る。
「樹ちゃん、やめてぇええ」
 なぜか樹に祓魔銃で殴りかかられる。
「まったくどうしちゃったんだよ、樹ちゃん。え…あわっ!?何……痛いよっ、殴らないで!!」
 祓魔銃で殴るのをやめたと思いきや今度は、拳で殴りかかってきた。
「どうしたの、何があったの!僕、樹ちゃんになんかしたっけ!!?」
 もちろん章は気に障ることを何もしていないが、樹は酷く怒り顔をしていた。
「とと様、あの月のせいだけはないみたいです。かか様は呪いにかけられているかもしれません」
「そんな…、呪術に対する耐性があるのに?」
「相手の力が強すぎて、ウチの守りが突破されてしまったのかも…」
 力及ばずな状況にエキノはめそめそ泣き顔をする。
「マスター…」
「頼むからメシは後に……って、ぐぇえ」
 いきなりフレンディスに力いっぱい首を絞められ苦しげに呻く。
「こんなにもお腹すいてますのに、なぜご飯にしてくれないんですか!」
「ま、まさか、フレイ…までっ」
 彼女を降ろすわけにもいかず、ぷるぷる震える手で解呪を試みる。
 やはりというか“影”の反応があり、真っ赤に燃えるような影が彼女の手に見え隠れする。
「タイチ、さっきはよくも苺ドロップ取ったわね?」
 急に腹立たしくなり、ギロリと太壱を睨みつけた。
「それくらいでキレんなよ、ツェツェ。―…ぶへっ!?」
 セシリアに背を蹴り倒され、砂の上へ顔面直下してしまう。
 一度蹴っただけでは怒りは消えず、何度も踏みつける。
「あ…、アンタッ!筋肉ダルマが埋まっちゃうわよ、やめなさいって」
 背後から羽交い絞めにして止めようとするが、太壱の背から足を退けず静止しきれない。
「なぜだ、クローリスの香りで呪いを防げるんじゃないのか?」
「これはいったい…」
 ウィオラが花の香りを止めている様子もなく、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は召喚した彼女のほうへ目をやる。
「申し訳ございません!相手の呪いが、予想以上に強いようです」
「なんとっ!?」
 ディアボロスの呪いを防ぐほど、まだ花の魔性の能力を引き出しきれないようだ。
「怒れ怒れー、ケンカしろー♪」
 そう楽しげに言い、呪いの星々を降らせ黒い月の輝きを放ち続けた。



 応援要請を受け、グラキエスたちを発見した綾瀬とエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)たちは、いったい何が起こっているのやら訳が分からなかった。
 フレンディスはベルクを爪で引っ掻き、セシリアが太壱を踏み続け、樹のほうは章をボコボコに殴っている。
「何やら騒がしいようですが、ケンカしているように聞こえますわ」
「そのまさかですわ、中願寺 綾瀬」
「ぷんぷん怒ってどうしちゃったのかな?」
 状況が分からずノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はおろおろと不安そうな顔をする。
「おや、これは大変なことに…」
 妙な胸騒ぎがして来てみれば、仲間に暴力をふるっている光景が涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の視界に飛び込む。
 トラトラウキを保護した自分たちのほうへ、なぜディアボロスは姿を現さなかったのか。
 スカーの口からはみ出ている黒い髪の毛を見てすぐに納得した。
「月は敵と認識する相手のみ、物理攻撃をするようになってしまうものだけど。そこに呪いが加わると、味方にまで襲いかかってくるようだね」
 強制的に怒りを呼び起こす月の影響だけでなく、呪いによる混乱症状も現れているようだ。
「なぜ、呪いを解除しないのかな?」
「解呪しようとしても暴れてしまうので、なかなか…」
「なるほど…」
「お父様」
「なんだいミリィ」
「わたくし、なんだかイライラしてきましたわっ」
「ミリィ、やめるんだ!」
 ディアボロスに向っていこうとする娘を、必死に抱きしめて止める。
「ノーン、皆の怒りを鎮めてあげなさい」
「はい、おねーちゃん。ルルディちゃん、お願い」
 フラワーハンドベルを鳴らして花びらを香りを吸収し、もう1度鳴らして怒りで我を忘れている仲間たちに涼やかな音色を聞かせる。
 どうして急に腹立たしくなったのか分からず、正気に戻ったミリィは首を傾げる。
「―…あれ、お父様。わたくし……?」
「大丈夫だったかい?ミリィ。黒い月の影響で、気がおかしくしなっていたんだよ」
「そうだったんですか…」
「解呪を手伝えそうかな」
「はい、もちろんですわ!けど、あんなに暴れてしまっていては、ちょっと難しいですね」
 仲間を攻撃している樹たちを目にし、どうやって解呪したらいいものやらと悩む。
「わたしたちまで呪いかけられちゃうとまずいかも。ルルディちゃん、香りをちょうだい!」
「承知いたしました」
 静かに返事をし、速やかに花びらを散らせた。
「むー…つまんないことしてくれちゃうね?」
 ディアボロスは顔をムスッとさせて月の輝きを拡散する。
「皆、守りの壁の中へ!」
 身を裂こうとする邪気を、涼介が白の障壁で緩和させる。
「ルルディちゃん、ぷんぷんにならないようにお願いね」
 怒りに捕らわれないようカラン…カラランとハンドベルを鳴らす。
「エコーズ、ビバーチェ。エコーズ、花嵐!」
 ビバーチェはエリシアの声に応じて、祓魔の力を宿した花びらたちを空へ散らせる。
「おねーちゃんのビバーチェちゃんだけで使えちゃうんだね」
「そのようですわ。ノーンのルルディと、役割分担しやすくてよいですわね」
「何これ、うざ!」
 知りえない術を目にして不快度を増す。
「援護しますわ。リトルフロイライン、撃ちなさい」
「あの女の魔性をですね?分かりました、綾瀬様!」
 二丁拳銃武装モードのリトルフロイラインはトリガーを指にかけディアボロスを撃つ。
「私たちが時間稼ぎをしますので、解呪を行ってくださいな」
「ありがとう、綾瀬さん。…全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を」
 ベルクを引っ掻き暴れるフレンディスに温かな光を送り込む。
「あっ、…う……ぁあ!」
 呪いの影響だろうか、いやいやするように頭を抱えて苦しみの声を上げる。
 彼女の身に取り付く赤い影が抜け出たかと思うと、いっきに霧散化してしまった。
「むーむー、離れたとこから解除できるなんて、聞いてないやいっ」
「生憎、そちらに情報を与える優しさはないのでね。(やはり校長のところにいたという子が情報を…)」
 手習いの頃の魔道具については、イルミンスールで保護していた幼い子が知ってしまったことを、この者たちへ教えてしまったのだろう。
 そのような事態になるとは想定していなかったと、会議でもエリザベートが話していた。
 相手は自分よりも幼いなかったのだから、まさかと思ったのだろうし、破壊本能に支配されるとも思えなかったらしい。
 非を問いたせるほどの予想しえない事態であったのは、涼介にも十分理解できる。
 だが取られた情報はそこまでのことであり、今手にしている能力は向こうが知りえないことのほうが多い。
 現にホーリーソウルの行使に特化している自分の力を相手は知らない。
 魔性の能力が高くとも、こちらが一方的に分が悪くなることはないのだ。
「あなたの呪いに対する耐性は万全。万が一のことがあっても、私たちが解く。持久戦をしたいのなら望むところだ」
「―……キミ、生意気だよ!」
 倒される気はしないが、倒しきれる勝機は確実とは言い難い。
 どうしたらこいつらからベースを奪い返せるか、怒りに満ちた瞳で祓魔師たちを見つめた。